米連邦控訴裁は米国時間19日、ファイル交換利用者を特定・提訴するというレコード業界の法的戦術に大打撃を与えた。この訴訟は、著作権法とインターネットユーザーのプライバシー保護の衝突で大きな注目を集めてきている。
ワシントンDCの連邦控訴裁判所は、これまで続いてきたRIAA(全米レコード協会)に有利な一連の判断を覆し、同団体が判事の同意を得ることなくISPに召喚状を送付し、各社のネットワークを利用してファイル交換を行う者の身元特定を求めることは、著作権法では許されていない、と述べた。
連邦控訴裁判所は、「我々は、メンバー各社の保有する著作権が広範に侵害されることに対するRIAAの懸念にも、これらの権利を保護するための法的手段を求める声にも同情しないわけではない。しかし、予見できなかった新しいインターネットのアーキテクチャに適応するよう著作権法を書き換えることは、裁判所の権限外であり、そうした新たな展開が音楽業界にいかに大きな損害をもたらそうと、これを変えることはできない」と記している。
19日に出されたこの判断はレコード業界にとって打撃だが、但しそれによって、数百人のファイル交換利用者を相手取ってRIAAが進める訴訟の進行が頓挫する可能性は低い。この判決は、同団体がISP加入者の個人情報入手のために出した異例の召喚状の効力に焦点を合わせており、既に提訴済みの訴訟の適法性にまでは踏み込んでいない。
ファイル交換利用者は、ピア・ツー・ピア(PtoP)ネットワークを匿名で利用しており、利用するISPが割り当てたInternet Protocol(IP)アドレスでしか特定することができない。しかし、加入者の住所氏名は、IPアドレスと個人のアカウントを結びつけられるISPの記録を見れば割り出すことができる。
さらに、裁判所が最終的に上訴請求を却下する判断を下しても、RIAAには依然としてファイル交換利用者を特定し、提訴する力がある。
だが、大きな違いが1つある。それは、RIAAが匿名のファイル交換利用者1人ひとりに対して「仮名による」訴訟を起こさなくてはならず、これが非常に手間と時間のかかる手続きとなり、その結果、同団体が提訴できる人数が限られてしまう、ということだ。
「これはかなりの大打撃だ」と、法律事務所のCovington & Burlingで著作権を専門にする弁護士のEvan Cox。「結局のところ、実際的な部分が問題となる。つまり、1人ひとりを訴えることになれば、膨大な費用がかかり、また書類や事務手続きも相当な負担になる」と同氏は語った。
この裁判所の決定に対して、RIAAは、召喚権を利用できなくとも個々のファイル交換利用者を相手取った訴訟を今後も継続すると述べている。
RIAAのある幹部によると、今回の決定によって、潜在的な訴訟対象者と事前に連絡を取り、正式な裁判開始前に和解することができなくなるため、個人にとっては新しい「仮名」手続きの方がむしろ厳しい対応になるという。同団体は、数カ月前から、ISPが提供した個人情報を元に、ファイル交換利用者と疑われる個人を特定し、彼らに和解を提案する書簡を送付してきている。
RIAA会長のCary Shermanは声明を発表し、「この判断は、連邦議会の見方および地方裁判所による事実認定の双方と相反する。残念だが、我々にはもはや、提訴に先だって不法ファイル共有者と連絡を取り、訴訟ではなく和解を提案することができなくなる。今後、不法な活動を行う加入者の利益がこれまでほど尊重されなくなる訴訟手続きに至ったことは、ひとえに米Verizonの責任である」と述べている。
RIAAは今年、著作権で保護された楽曲をKazaaなどのファイル交換サービス経由でダウンロードできるようにした疑いで、あわせて382人の個人を提訴し、そのうち220人との間に、1人平均3000ドルでの和解を成立させている。同団体によると、これらの和解の多くは提訴前に合意に至ったものだという。
RIAAの戦略に対する異議申し立ての大半は、著作権をめぐる訴訟自体ではなく、個人を特定するための召喚手続きに焦点をあてたものだ。
昨年初めから、RIAAは召喚戦略の法的根拠としてDMCA(デジタルミレニアム著作権法)の条項を引き合いに出してきた。召喚状は、PtoPネットワーク上でのファイル交換によって著作権を侵害しているとRIAAが疑う、匿名の加入者の個人情報をISPに明らかにさせる目的で利用された。
捜査当局によって発行される従来の召喚状とは異なり、今回のものは民間団体が請求したもので、進行中の訴訟と関連するものではない。そのため、この点が市民権団体から即座に批判を受けていた。
このような召喚状を最初に受け取ったISPの1つであるVerizonは、これを違憲だとして即座に異議の申し立てを行った。下級裁判所は今年初めにRIAA勝訴を言い渡したが、これが同団体によって次々に起こされた数百件の訴訟の発端となった。米SBC Communications、米Charter Communications、アメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union)も、それぞれ独自にこの手続きに対する異議申し立てを行っていた。
控訴裁は、19日に下した判断のなかでは、召喚手続きの合憲性あるいはプライバシーに関する問題には触れておらず、ただ米国議会はDMCAの起案時に、PtoPネットワークへの適用を想定していたわけではなかった、と述べただけだった。
DMCAは、1998年に、著作権保有者と通信関連企業との間での、オンラインでの著作権侵害に対する法的責任の問題を巡って、米議会で激しい戦いが繰り広げられた末に成立したもの。両社の衝突は、結局ある妥協案で決着したが、この案では、ISP各社は自社のサーバやネットワークなどのインフラを単に通過しただけの通信に対しては、そこにデータが保存してある場合と異なり、その責任を問われないとなっている。
また、これと同様の考え方にもとづき、控訴裁は、DMCAの召喚手続きに関する条項はPtoPネットワークには適用されないと述べた。控訴裁では、著作権で保護された楽曲その他のデータが、ユーザーの使うコンピュータ間で直接転送され、ISP各社のネットワーク上には保存されないという点を、その理由に挙げている。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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