「ビル・ゲイツを超えてくれ」---マイクロソフト執行役最高技術責任者の古川亨氏はこう学生たちに語りかける。同社は29日より3日間の日程で、早稲田大学にて学生向けセキュリティ技術者特別セミナーを開催、初日の基調講演にて古川氏が壇上に立った。そこで同氏は、マイクロソフトの大学との連携について説明するとともに、自身の経験も踏まえた人生の成功論について熱く語った。
マイクロソフト執行役最高技術責任者 古川亨氏 |
アスキーやマイクロソフトの日本法人立ち上げに関わった古川氏は、ビル・ゲイツ氏がそうであったように、自らもベンチャー精神あふれる人物だ。そんな古川氏は、かつてアルバイト学生にソフトウェアを作らせ、世の中にその能力を発表する機会を作ったり、学生インターンシップを積極的に受け入れたりするなど、学生に多くのチャンスを与えてきた。「学生の研究の場を広め、その成果を基に世間にデビューする手助けをしたい」と古川氏は述べ、マイクロソフトがそういった思いを持つ企業として、世界39カ国で200以上の大学と協力し、同社の全研究開発費の中から15%程度は学術分野に費やしていると説明した。
同社が提携する各学校との協力分野は幅広い。米コーネル大学で開発されたクラスタ技術を活用し、Windows 2000を搭載した600以上のコンピュータでクラスタを構築した実例や、自然言語処理の分野では、話し言葉を解析し、その意味を聞き手のレベルに合わせてわかりやすくアウトプットするという情報検索サポート技術を東京大学と共同で行うなど、多くの研究を大学と共同で行っていると古川氏は述べる。
他にも、インターンシッププログラムとして日本の大学生をMicrosoft本社のシアトルに招待したり、Imagine Cupというプログラミングコンテストの開催、日本学生科学賞のスポンサーなど、学生のアイデア発表の場を積極的に支援し、「(学生同士、さらには学生と企業が)お互いが刺激できる場を提供し、社会全体が活用できるものを生みだすための踏み台となりたい」と古川氏は語った。
またマイクロソフトは、昨年11月に早稲田大学と提携関係を結んでおり、来月からは同大学の理工学部内にWindows関連のセキュリティ技術者を育成するためのカリキュラムを開始する予定だ。今回のセミナーもこの提携に基づいたものだが、同セミナーのゲスト講演者として招かれるのは、Microsoftのセキュリティアーキテクトで著書Writing Secure Codeを持つDavid LeBlanc氏。セミナーでは、3日間にわたってOSシステム実装論や情報セキュリティ技術、リアルタイム3Dグラフィックスプログラミング、プロジェクト管理などについての講義が行われる。
他人と同じではいけない
古川氏は昔、多くの人がCOBOLなどのコンピュータ言語を使いこなそうと必死になっていた頃、多くの人が身につけているCOBOLを今さら習得しても意味はないと考えたという。大学入学までに3浪を経験したという古川氏は、ストレートで東京大学に入学するなどエリートコースを進む同級生の姿を見て、それに勝つには誰も手がけていないことをやるべきだと考えた。同氏はその後米国に留学、そこで当時セキュリティ体制の甘かった大学のコンピュータネットワークのハッキングを試みる。ハッキングという言葉がまだ存在していなかった頃の話だ。そこで、スタンフォード大学の学生でなくとも同大学の研究資料などが手に入ることを知り、ネットワークの重要性やコンピュータのメディアとしての可能性に気づいたという。このアイデアを持って日本に帰ってくると、古川氏は一躍ヒーローとなった。
同氏は自らの経験から、「多くの人がすでに手がけていることを身につけて社会進出してほしくはない。他人がやっていることと同じ分野で力をつけるのではなく、誰もやったことのない分野で第一人者になれ」と学生に語りかける。そのためには、「ビル・ゲイツを超えるような人物が登場し、マイクロソフトを打ちのめすことも大歓迎だ」と古川氏。しかし、マイクロソフトを打ちのめすためにLinuxの研究をするのでは意味がないという。「Linuxのようにすでに多くの人が取り組んでいる分野に手を出すのではなく、自分で一からやるべきだろう。マイクロソフトがこの程度の製品しか作れないのであれば、自分ならそれ以上のことができると考えてほしい。そしてその後、マイクロソフトに入社してさらにすばらしい製品を作ることもひとつの手だが、わが社のライバルとして戦い、そして勝利するという選択肢があることも忘れないでほしい」(古川氏)
他人に先駆けて、自分しか知らないことを身につける、これが古川氏の成功論だ。学生たちの拍手喝采を受け、成功者のひとりである古川氏は教壇を後にした。
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