日本ITU(国際電気通信連合)主催のOSフォーラムが29日、都内にて開催され、東京大学教授の坂村健氏が「ユビキタス時代をリードするオープンアーキテクチャ、TRON」というテーマで講演を行った。「今日は腰の調子が悪いので」と、座ったまま講演をはじめた坂村氏だが、話がヒートアップしてくると腰の痛さも忘れて立ち上がり、「TRONは私のデザインブランドであり、OSのみを指すのではなく活動そのものだ」と、いつものように熱弁をふるった。
坂村氏は、TRONを語る時に忘れてはならないこととして、同OSが「リアルタイムOS」であることを説明する。リアルタイムOSとタイムシェアリングシステム(TSS)OSとの根本的な違いは、リアルタイムOSがイベントの発生と優先度に応じてタスクのスケジューリングを行うのに対し、TSS OSには優先度がなく、一定時間ごとにスケジューリングを行う点だ。TSS OSの代表的なものとしてはUnixやWindowsがあげられるが、「OSは目的に応じて種類がある。みなPC用のOSにしか興味がないようだが、世界で使われているOSの90%は組み込み用で、TRONは組み込みシステムとしてはシェアトップなのだ」と、TRONの重要性をアピールする。
坂村氏は、TRONプロジェクトがはじまった1984年から「どこでもコンピュータ」という概念の実現を目指して研究を続けていた。この概念は、1988年に研究を開始したMark Weiser氏が提唱し、世に知れ渡った「ユビキタスコンピューティング」の元祖だという。この言葉が日本でも流行り言葉のように普及したわけだが、坂村氏はこの言葉は哲学なのだと語る。
腰の調子は悪くとも立ち上がらずにはいられなかった坂村教授 | |
---|---|
先日坂村氏は外国人記者に、「日本の会社にはどこでもユビキタス事業部というものがある。プラズマディスプレイしか売っていなくてもユビキタス事業部とはどういうことか?」と、「ユビキタス」という言葉を日本に広めた張本人として質問を受けたのだという。それに対し同氏は、「この言葉は戦略を立てるためのターゲットで、哲学のようなものだ。哲学にはキーワードが必要で、そのキーワードとしてユビキタスという言葉が広まった。評論家は批判をしたがるだろうが、この言葉で日本の会社は世間に貢献したいという意思表示を示し、戦おうとしているのだから批判されたくない」と反論したのだという。
ユビキタス社会の実現に向けて坂村氏が進めている活動のひとつに、T-Engineプロジェクトがある。なかでも同氏は、組み込みシステムの高度化のためミドルウェアを流通させることの重要性を語り、「これまでOSのカーネルに変更があると、ミドルウェアにも変更が必要だった。これではミドルウェアの流通が進まない。そこで今年中にはカーネル部分を固定し、“100年使えるOS”としてiTRONをベースとしたアーキテクチャを固めてしまうつもりだ」という。ミドルウェアの流通を促進させるべく、同氏は電子的にミドルウェアを流通させる「ミドルウェアディストリビューションセンター」をT-Engineフォーラム内に12月にオープンさせる予定だという。
「20世紀に発明されたもので、残すものと残さないものを決める時がきた。OSはそのまま残していいものだ」として、カーネルを固めようとしている坂村氏だが、OSの種類が多いことは否定していない。「TRONはコンピュータのアーキテクチャであると同時に、ひとつの概念である」という坂村氏は、坂村ブランドであるTRONが「OSを超越した、コンピュータのすべてをつなげる枠組み」となるべく、ユビキタス社会の実現に向けて今後も研究を続けると語った。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス