「いままでのメディアは読者と対話ができなかったから、間違いがないように二重三重のチェックを経て、完璧な記事を出さないといけなかった。時事通信では僕が記事を書くと、デスクがそれをチェックして、整理部がさらにチェックしていた。少なくとも2人が僕の記事をチェックすることになる。でもブログだとすぐに記事を出せるわけです」(湯川氏)
その一方でブログは間違いが多いのでは、という懸念もあるが、「間違ったらごめんなさいと誤って、訂正すればいい」(湯川氏)。ネットの向こう側にいる読者は記者よりも多くのことを知っている。その人たちから情報が寄せられ、記事が完成する。「それがインターネットらしいメディアの在り方かもしれない」と湯川氏は語る。
Googleの携帯電話「Nexus One」が発表されたとき、湯川氏は自身のブログにGoogleが携帯電話キャリアから主導権を奪い取ろうとしているのではという内容の記事を書いた。裏はとれていなかったが、その記事に対し、あるTwitterユーザーから「当たり前だ」というつぶやきが寄せられたという。その人のプロフィールを見るとある携帯電話キャリアに勤めていることがわかった。
セカイカメラを開発する頓智・の井口氏の記事を書いたときも、まったく取材をしなかったという。井口氏のTwitterのつぶやきを読んでいくと、今後のセカイカメラが発展していく方向性が読めてきた。それを元に記事を書いた。
TwitterとUstreamを使うと、イベントに出掛けなくても記事が書ける。Ustreamを見ながら、参加者のつぶやきを追い、後でイベントレポートの記事に仕立てたことがあるという。
「こういうことは記者にとってあるまじき行為なんです。いままでの常識とは違います。でもそういった固定概念にとらわれてはいけない。1番大事なのは読者の情報ニーズに応えることなので、そのためにもっとも有効な手段をとり、新しいメディアらしい情報の出し方を模索していきたいと考えています」(湯川氏)
湯川氏の朝はかなり早い。朝4時に起きて、海外のサイトをチェックする。「歳をとると朝早く目が覚めるんです。4時くらいだと外は真っ暗で、CNETさんとか日本のメディアの人はまだ寝ておられるんですよね。でも米国は動きまくってるんです。私はベッドの中でささっと記事を書いてしまいますから、日本で1番だと思います」(湯川氏)。これも最新情報を読者に届けるためだ。
Tech Waveではテクノロジービジネスの面白さを伝えることで、日本のIT業界を盛り上げていきたいという。「IT業界は面白いということを若い人にもっと知ってもらいたいですし、頑張ってる人たちにもっと脚光を当てて、日本を背負っていける業界になってほしいなと思っています。IT業界はまだ国民総生産の小さいところしか占めていないので、もっともっと頑張ってもらいたい」(湯川氏)
さらに英語教育にも興味を示す。「やはり情報は今後、英語ベースになっていくと思っています。日本語の情報は孤立化してしまうかもしれません。だからもっとこの業界の人に英語で情報を取れるようになってもらいたいと思っています」(湯川氏)。そのため、Tech Waveは記事のなかにはあえて英文を引用している。
田端氏は、新しいメディアは被リンクが重要になると話す。ユニークな記事を書いて、ほかのブログやニュースサイトからのリンクを集めると、Googleの検索ランキングが上がる。検索経由で来訪した読者は広告のクリック率が高い傾向にあるそうだ。
「他社と同じようなストレートニュースよりも、湯川さんの考察を読んでなるほどと思ったとか、いやおれは違うと思ったとか、リアクションしたくなるような記事が1日に数本あるといいと思います」(田端氏)。こうした記事を蓄積することが広告収益の積み上げにつながるという。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」