「Raspberry Pi」で真のコンピュータリテラシーを育む--次世代の教育に期待

Stephen Shankland (CNET News) 翻訳校正: 編集部2017年01月03日 07時00分

 Sonia Uppalさんは、8年生のときのプロジェクトで南北戦争をテーマにしたコンピュータゲームを作ってから、プログラミングに興味を持つようになった。しかし、彼女の学校のプログラミングに関連するカリキュラムは、子どもにとっては耐え難いほど面白味に欠けた、やりがいのないものだったという。「本当にひどいものだった」そう話す彼女は当時、コンピュータサイエンスの勉強を一度はやめてしまった。

 翌年のテクノロジフェアに参加したとき、「Raspberry Pi」という35ドルのコンピュータとの出会いが彼女の興味に再び火をつけた。手のひらサイズのこのコンピュータは、剥き出しの回路基板の上に、主張するかのように全てのチップや電子コネクタが実装されたものだ。

 「胸が躍った」と彼女は話す。「一つ手に入れてあれこれと手を加えてみた。この小さなコンピュータで本当にたくさんのことができる」(Uppalさん)


Raspberry Pi
提供:Stephen T. Shankland/CNET

 Raspberry Piに刺激を受け、Uppalさんは17歳の時、現在最も人気のあるプログラミング言語の一つであるPythonを学んだ。その後、彼女は600ドルの資金をかき集め、「Pi a la Code」というプロジェクトを開始。このプロジェクトでは、自宅のあるカリフォルニア州ロス・アルトス・ヒルズで10台のRaspberry Piを購入し、インド北西部の丘の町、カソーリへと持ち込んだ。当時はUppalさんがまだ高校2、3年の頃であったが、彼女は現地で25人の子どもたちにプログラミングを教えたという。現在、彼女はコンピュータサイエンスを学ぶため、カリフォルニア大学バークレー校に通っている。

 彼女の物語は、Raspberry Piの教育への活用が進んでいる理由を端的に示すものだ。

 Raspberry Piは2012年に突然業界に現れた。ケンブリッジ大学コンピュータ研究所のコンピュータサイエンスの専門家チームが、コンピュータを本当に理解する学生の数が減少していることに気づき、6年の歳月をかけて開発したものだった。彼らは、意図的に必要最低限の機能しか持たないコンピュータを作った。1980年代にCommodoreやTandyの旧型コンピュータやBBC Microがそうであったように、趣味でプログラミングをする新しい世代を刺激したいと考えてのことだった。その結果、完成したのが、クレジッドカードサイズの回路基板でコンピュータの基礎を学べるRaspberry Piであった。

 「ここにあるのがキーボードを接続できるUSBポートで、これがインプットだ」と、この製品の開発元であるRaspberry Pi財団のエバンジェリストで販売を統括するMatt Richardson氏は説明する。「ここはモニタを接続する場所で、これがアウトプット。コンピュータのレッスンそのものだ」(同氏)

 この小さなコンピュータは商業的な成功を収めている。同端末は現在114か国で販売されており、過去4年の出荷台数は800万台にも上る。

 「Raspberry Piを最初にリリースしたときは、年に1万台ほどの出荷台数を見込んでいた」Raspberry Piの生産、流通を担うElement 14で同コンピュータの部門を率いるClaire Doyle氏はそう話す。ふたを開けて見ると、Raspberry Piは同社の予想に反して爆発的に成長し、教育機関や機械いじりが好きな人々の間で大きなムーブメントを生んだ。

 Raspberry Pi財団はチャリティ組織なので、すべての利益を研究開発や無料の講師研修、関連するリソースの提供などに充てている。また、さまざまな興味深いプロジェクトにも貢献している。例えば、ロンドン動物学会やケニア野生動物公社とのプロジェクトでは、サイや象の密漁を発見するためのカメラトラップの設置に協力している。

コンピュータの世界への入口

 コンピュータ業界は、ハードディスクのフォーマットからネットワーク権限の管理、アンチウィルスソフトウェアのアップデートのような作業まで、ユーザーの手を煩わせることをよしとしない。最近では、タイピングの必要さえなくなっている。手持ちのガジェットに話しかけるだけで、指示を出すことができるからだ。

 確かに、ガジェットを使いやすくすることはユーザーの幅を広げることにつながる。しかし、こういったものがどのような仕組みで動いているかについて、知っている人も必要だ。

 「テクノロジ企業の『とにかく動けばいい』という風潮は驚異的な広がりを見せ、人々の生活を良い方向に変えてきた」Raspberry Pi財団の最高経営責任者(CEO)であるPhilip Colligan氏はそう語る。

 「しかし、これによって人々はコンピュータがどのように動いているかについての感覚を失ってしまった。私は、コンピュータの動く仕組みを理解していない人々から大きなイノベーションが生まれるとは思えない」(Colligan氏)

 そのような状況で登場したのがRaspberry Piだった。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]