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ハリケーン「カトリーナ」の生存者たち--ある精神科医の報告

2005/09/15 19:07
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 ハリケーン「カトリーナ」の被災者に対する救援活動に手を貸すべく、エンジニア、医者、学者などがメキシコ湾岸沿いの地域に集まってきている。カリフォルニア州の精神科医Scott Zellerは、レイバーデイの週末にヒューストンに到着し、ニューオーリンズ一帯から避難してきた人たちの治療に当たっている。

 「本当に疲れた。この2日間で3時間しか寝ていない」と彼は仮眠をとる前にメールに書いている。以下には、大惨禍の真っただなかで彼が経験した事柄を記したものである。

 ヒューストン発--到着が遅れて、クリントン前大統領とヒラリー夫人、ブッシュ大統領には会えなかったが、なんとか赤痢菌が広がる前に到着できたようだ。

 午前4時に起床。オークランドから長いフライトのはてに、昼前にアストロドームに到着した。少し時差ぼけ気味だ。

 ドームから1マイルほど離れた付近になると、多くの車が行き交うハイウェイの至るところで、10代の若者が中央分離帯に座って話し合っている。なかには駐車場にうずくまっている人もいる。この惨状に乗じて売り上げを伸ばせると思ったのだろうか、麻薬の売人もうろついているようだ。精神的ショックでつい薬に手を出してしまった人たちを、あとで見ることになるだろう。

 われわれは、リライアントアリーナに車を着けた。ここは、アストロドームとリライアントスタジアム(NFL Houston Texansのホームスタジアム)を含む巨大総合ショッピングセンターの一部である。このアリーナに、一時しのぎのクリニックと病院が作られている。医療センターのなかがまたすごいことになっている。至るところに気持ちだけの仕切り線があり、テント地のカーテンで一般内科、外科、伝染病、産科、小児科、精神科の各エリアが区切られている。歯医者や透析療法のエリアまである。すべてがぎゅうぎゅう詰めに近い状態だ。精神科の救急室のカーテンを上げると、そこは透析室という具合だ。小児科と外科はドレープ(無菌布)を共有している。

 ひとつ問題なのは、医療スタッフ用に用意された簡易トイレが、1ブロックも離れたところにあることだ。時間がだらだらと流れ、コーヒーをがぶ飲みし続けていると、このトイレまでの距離がどんどん長く感じられるようになる。

 大きな部屋が1つあり、「隔離室」とだけ書かれている。少なくとも50の簡易ベッドが人で埋まっている。赤痢にかかる人も出始めている。赤痢にやられると、下痢や嘔吐が続き、やがては脱水症状になる。彼らはまだ、自分が感染している病気が何なのかを知らない。それがはっきりするまでは、全員が隔離されたままだ。

 避難者は全員、リストバンドをしており、これでアストロドームへの出入りが許可される。ドームの中央のエリアには間に合わせの手洗い場が設けられているが、各診療エリアには水はない。このため、手洗い用のアルコ―ル消毒液のボトルがあちこちに置いてあり、伝染病が広がらないように、皆が数分おきの手洗いを励行している。

 私は、精神科の救急室で他の2人のドクターといっしょに被災者のケアに当たっている。「何か手助けできることはないか」と声をかけてくれるドクターもいるが、彼らにできることは限られている。彼らは、普通の精神科医であり、緊急時医療としての精神治療には慣れていない。彼らには、悲嘆に暮れている人たちのカウンセリングに当たってもらっている。こうした医者ではないカウンセラーが少なくとも十数人はいて、病気ではないが精神的な助けが必要な人たちのケアに当たっている。こうしたカウンセリングを行うために、専用のテントが用意されている

 精神科の救急室に来る患者たちは、まず看護婦がみて、カウンセリングを求めている患者はカウンセラーに回される。治療を必要とする患者は、脈拍、呼吸、体温、血圧を計測され、基本的な情報を聴取されたあと、カーテンで区切られた9つあるエリアのうちの1つで、われわれ2人のどちらかの診察を待つ。待っている患者たちの名前がホワイトボードに書かれており、われわれはその横に自分の署名をして、その患者を診る。

 最近は、ほとんどの患者が薬を常用している。そうした患者たちのなかには、1週間以上薬を飲まずにいると、生活が困難になってくる人もいる。多くの製薬会社が無償のサンプル品を大量に寄付してくれた。カーテンで区切られた1つの部屋には、寄付された精神病の薬が山と積まれていて、まるでツタンカーメンの墓のような状態になっている。

 われわれは患者たちに症状を聞き、薬を処方する。彼らは先週ハリケーンが襲ったときの様子を話してくれる。それを聞くと、テレビで見たまま・・・いや、それ以上にひどい惨状だ。屋根裏から穴をあけて屋根に上がり、そこから泳いで安全な場所に避難したという患者が2人いた。ある男性はとにかく方向もわからず、ただひたすら泳ぎ続けたという。あるときは流れに身を任せ、あるときは道路標識につかまって、つかの間の貴重な休息をとりながら。そして遂にコンベンションセンターまでたどりつき、精根尽き果てて歩道にバタンと倒れた。老人が彼の横の椅子に座っていた。1時間後、誰かが椅子に毛布を投げかけた。その老人が亡くなっていたのだ。その死体は3日間も放置されていたという。

 別の婦人は、スーパードーム周辺の混乱のなかで夫とはぐれ、2人は別々のバスに乗ることになってしまったという。夫はここアストロドームに着いたが、婦人はどういうわけかダラスに送られてしまった。ダラスでは、州刑務所が避難所代わりに使用されていた。家を失い、夫とはぐれ、その婦人は刑務所に保護されてしまう。親戚が彼女を迎えにきて、ここに連れてきた。彼女は、ドームに入って夫を捜し出すことができるように、薬を飲んで、精神の安定を取り戻す必要があった。

 その後、私はアストロドームのなかにいる患者を看るよう依頼された。警官が、3ブロック先のビルまで送ってくれた。警官と警備員はみなフェイスマスクをしている。結核になるのを心配しているのだという。ドームは簡易ベッドと人でぎゅうぎゅう詰めだった。11時になって夜間外出禁止令が出たらもっと人が増えるだろう。

 ここは、政治家やニュース番組のパーソナリティでごったがえしている。昨晩も、Dr. Phil が駐車場の避難者を相手にライブの救援活動を行った。いまは、Fox NewsのGreta Van Susterenがドーム内で生中継をやっている。

 とにかく常に誰かが入ってきて、やたらと仕切りたがる。幸いにも、ここのディレクターが強い意志の持ち主で、そうした人たちをうまく御している。彼は非常に謙虚な人物で、「テレビやラジオは好きじゃないから、インタビューは受けない」という。そして、仕切りたがる人たちに、自分に代わってメディアに直接訴えることを許していた。彼らは、ようやく求めていた機会を与えられ、言いたいことを言って満足げだ。

 「今晩は徹夜か」と彼が私に尋ねてきた。私はうなずいた。何とか数分だけ時間をとって、この報告を送るためのインターネット接続を見つけることができた。しかし、まもなくすべての回線が患者の面倒を見るために占有されるだろう。朝方、少し睡眠がとれればよいのだが。

筆者略歴
Scott Zeller
Scott Zellerは、カリフォルニア州オークランドにあるアラメダ郡医療センターの精神科緊急サービスの責任者を務める医師で、American Association of Emergency Psychiatryのバイスプレジデントも務めている。

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