企業の知的財産(知財:IP)をめぐる国内外の動きに対する理解を深め、議論することを目的としたイベント「IP2.0シンポジウム ~未来の”モノ”・”コト”を創出する新パラダイムへの提言~」が、11月27日に開催された。
「グローバル時代の特許・著作権戦略」と題した企業セッションでは、サンリオ常務取締役の鳩山玲人氏、IP Bridge代表取締役社長の吉井重治氏が登壇。日本知的財産協会 専務理事の久慈直登氏による司会のもと、企業にとっての知財をめぐる動きや知財分野における海外の動きについて意見が交わされた。
「ハローキティ」に代表される数多くのキャラクターを世の中に送り出すサンリオ。鳩山氏は、同社のビジネスを物販事業からライセンスビジネス中心に転換させることで大成功をおさめ、“キティちゃんの名参謀”と呼ばれている。
40周年を迎えたハローキティは、日本国内では子供向けキャラクターというイメージが強いが、欧米では大人からの人気が高く、歌手のレディ・ガガやブリトニー・スピアーズなど多くのセレブがファンであることを公言している。公式Facebookページのファン数は1500万人を超えるという。
「キティちゃんといえば子ども向けというイメージが強いが、海外ではイメージと全く異なる層に刺さっている。セレブがSNSで発信することでファンがどんどん増えるというソーシャル時代ならではの拡散をしており、日本だけで展開していたらこうはならなかったのでは」と鳩山氏は語る。
こうした海外展開を進めるうえで興味深いのは、サンリオのライセンス供与に対する考え方だ。国内外の人気キャラクターの中には、第三者の使用について遵守すべきデザインアイデンティティやキャラクターが持つ世界観を厳しく規定しているケースが多いが、ハローキティの場合は使用者やファンのニーズに合わせてオリジナルのデザインを柔軟に変化させてきたという。
「これはキャラクター市場においても非常に稀なケース。形や質感も大きく変えて原型を留めないような状態のキティちゃんを数多く生み出してきた」と鳩山氏。また、不二家のペコちゃん、エルビス・プレスリー、ONE PIECE、ザ・シンプソンズなど、ハローキティが持つ世界観とは全く異なる相手ともコラボレーションを展開してきたのだそうだ。
サンリオがこうして物販市場からライセンス事業に転換を果たしたのは何故か――鳩山氏は「マーケットにおけるポジショニングの再構築だ」と語る。日本における女児向けの玩具市場は年間約400億円であるのに対して、アパレル市場は約9兆円と巨大だ。海外に目を向ければその市場規模はさらに大きい。
そこでハローキティの知名度を高めるブランディングを推進し、ライセンスを他の事業領域に展開することで、新たなビジネスチャンスが生まれると考えたのだ。そして、サンリオの営業利益に占める海外事業の比率は94%にまで成長し、コストの高い物販小売中心だった経営環境を大きく変化させることに成功したのだという。
ただ鳩山氏は、こうした海外ライセンス事業について、「ライセンス商品の承認過程において、数十回に及ぶクオリティのチェックが行われる。決してライセンシーに自由に作らせているわけではない。ひとつの商品を作り上げるのに長い時間を必要とする」とそのクオリティ維持の難しさを語る。
同社のキャラクター商品を企画・製造しているパートナー企業は全世界に4000社ほどおり、年間30~40万の商品が同社のチェックを経て生み出されているそうだが、すべての企業を管理・監査するのは難しい。そして、ライセンス保有企業にとって最大の敵である海賊版についても、最近では本物と見分けがつかないほど精巧なコピー商品が出回っているという。鳩山氏は「以前とは違うレベルの課題が生まれている」と述べた。
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