栄養ドリンク「リポビタンD」が、2012年で発売50周年を迎えた。販売元の大正製薬ではこれを記念し、同社が協賛、44田プロダクションが主催する形でスタートアップ向けイベント「StartUp リポD大賞決定戦」を4月21日に開催した。
このイベントでは、30代〜50代で各業界の一線で活躍する人物——大正製薬 専務取締役の上原健氏、日本交通 代表取締役社長の川鍋一郎氏、gumi 代表取締役社長の國光宏尚氏、ライフネット生命保険 代表取締役の出口治明氏、クラウドワークス 代表取締役社長兼CEOの吉田浩一郎氏——の5名を“リポD兄貴”に任命。事前審査を勝ち抜いたスタートアップらの3分間ピッチコンテストを審査した。
ピッチコンテスト後、上原氏を除く4人が、起業、そしてリポビタンDのCMの台詞として有名な「ファイト一発」をテーマにしたパネルディスカッションを繰り広げた。
司会を務めた元ミクシィ CFOでフリーランスの小泉文明氏は、出口氏に事業をしていく中で最も『ファイト一発』が必要だったタイミングはいつだったかと尋ねた。これに対して出口氏は「谷家さん(あすかアセットマネジメントリミテッド代表取締役社長の谷家衛氏)に会って『会社を作ろう』と言われて、ハイと言ってしまった」と冗談交じりに語る。「よく言うのだが、モチベーションが高いから会社ができるのではない。恋愛と同じで、ステキな女性に会って、メールアドレスを聞いた途端に始まるようなもの」(出口氏)
同様の質問に対して、川鍋氏はレガシーな業界の3代目社長であるという点から、抵抗勢力に入り、変えていくことの大変さを語る。「一番感じたのは、とあるタクシー業界のイベント。慶弔規定を変える話があり『意外と(古い体質から)変化できる』と思ったが、実は新たに長寿慰労金が新設されていた。周りを見渡すと来年70歳という社長もいる。この時代に即しての変化ではなく、いかがなものかと思った」(川鍋氏)。同業の社長に「(決議は)全会一致が基本だ」と言われるも、反対したことを議事録に残してもらったのだという。
こう語る川鍋氏に対して國光氏が、「業界で嫌われているのか」と問うと、川鍋氏はそのバランスの難しさを「嫌われすぎてもはじかれるし、迎合されても(業界が)変わらない」と回答した。
そんな質問を投げた國光氏、自身の経験を問われると、「シリコンバレーの起業家は、最後の最後にデッドマンズポーカーをやる」という例を紹介した。起業家が手持ちのクレジットカードを並べて、(限度額に達しておらず)使えるカードを次々に使い、すべてのカードを使い切るまでに勝ち抜くか、死ぬ(倒産する)かという勝負をかけるのだという。
そんな話から國光氏が伝えたかったのは「企業はキャッシュが尽きれば死ぬ」ということだ。「本間さん(gumiにも投資するインキュベイトファンド代表パートナーの本間真彦氏)にも言われたが『資金調達はできるときにできるだけする』。株式のパーセンテージなどを気にせずとにかく集める。重要なのは金額だ」(國光氏)。資金調達の際、株式をどれだけ投資家に渡すかということはよく話題になるが、國光氏は「(Steve)Jobsも最後は株を持っていなかったし、孫(正義)さんを誰が(どの株主が)クビにするのか。正しいことをやっていればそんなことはしない」とした。
クラウドワークスの創業期に國光氏に調達に関する相談をしたこともあるという吉田氏 。同氏はもともとドリコムの執行役員として上場を経験し、一度別の会社を創業していた。当時5つほどの事業を展開し、同氏曰く「可もなく不可もなく、だが次の一手を打てていない状態」だった時期に、1つの事業のナンバー2の社員が取引先を持って独立してしまったという。
そのとき感じたことは、「世界の何を変えたいのか、何のために企業があるのか」ということを突き詰めることの必要性だったという。「存在意義がなかったから、彼は会社を辞めたんだと思った」(吉田氏)。
出口氏もこれに同調する。「本当にやりたいことには共感する。いろいろ若い人が『会社を作りたい』と言って(相談に)来られる。だが、『起業したい』というのはぴんとこない。世界をどう変えたい、自分が何をしたいかが重要。その次に起業がある」(出口氏)
また出口氏は、人材採用の方針について「ほとんどネットで勝手に集まってきた」と語る。重要なのは、優秀な人をいかに集めていくかというより、自分たちが「こんなことをやる」と旗を掲げ、それに対して興味を持ってくれた人たちと一緒になって事業を進めるというスタンスなのだという。
人材といえば、ソーシャルゲーム業界も獲得競争が激しい。小泉氏が國光氏にその人材確保の注意点を尋ねると、國光氏は経営者が2段階でビジョンを持つべきだと語る。
國光氏は、創業期は部下が全員が反対しようが「自分のビジョンはどうあって、だからこれをしたい」と明確に打ち出していかなければならないのだと持論を展開する。そして企業が成長し、「公器」とも呼べる様になってから、社員や顧客にまで共有できる大きなビジョンを打ち出すべきだとした。
ビジョンの共有について、川鍋氏は以前実施したアンケートを例に語る。同氏が東京駅にいるタクシー運転手300人にアンケートを実施した際、なぜこの仕事を選んだのかという質問でダントツの1位となった回答が「他にやることがなかったから」、またなぜこの会社を選んだかという質問では、「家に近かったから」という回答が1位となった。
そんな回答をする人々のモチベーションをどう変えるかを考えた時、川鍋氏は「成功体験」こそが重要だと考えたという。その1つの答えが「キッズタクシー」だ。これは、指定された子供に対して、塾の送迎などを担当する制度。子供の情報を確認したり、事後決済だったりと、通常業務よりも運転手の負荷は高い。だが、子供とコミュニケーションする中で、お礼を言われたり、指名での予約なども増える。年度の替わる3月に契約が終了すると、涙を流す子供もいるという。「このほかにも観光タクシーやケアタクシーといったものある。もちろんこれだけで生活できるわけではないが、そういうところに希望を見出していく。そうすると、やる気も給料も変わっていく」(川鍋氏)
4人は最後に来場した起業家達にメッセージと豊富を語り、ディスカッションは終了した。
なお、当日ピッチを行ったスタートアップは、FULLER、マネーフォワード、InnoBeta、Cerevo、LOUPE、ietty、BASEの7社とCollaVolの1団体。その中から審査員や来場者、Ustream中継の視聴者の投票で見事優勝したのはLOUPEとなった。同社は5月末にも教師向けの情報共有サービス「SENSEINOTE」を提供する予定。今回の優勝では、賞金として50万円とリポビタンD1000本を獲得した。
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