マーケティング担当者向けのイベント「ad:tech Tokyo 2012」が10月30日~31日まで開催中だ。10月30日の基調講演では、Facebookのグローバル・クリエイティブ・ソリューション・ディレクターであるMark D'Arcy氏が登壇。マーケティングの側面からFacebookのプラットフォームについて語った。
D'Arcy氏はこれまで7年にわたってTime Warnerのチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)を務めた人物。2011年3月より、Facebookに参画している。
同氏はまずFacebookについて、新しい概念で考えるものではなく、古くて、人間的で、普遍的なものだと説明する。「家に帰って家族と食事をし、助けてくれた同僚にありがとうを言う――こういうリアルな行動と同じ事がFacebook上で起こっている。人間を人間たらしめているものだ。ただ新しいのは、Facebookはこれを境界線や国境なく大きな規模で実現していることだ」(D'Arcy氏)。
以前は自身もハンドルネームを使ってインターネットを利用しており、実名を使ったことがなかったというD'Arcy氏。しかしFacebookはこの匿名の“仮面”を外すことで、世界最大級のコミュニティを作り、大きな変化を起こしたと説明する。
9月14日には月間利用者10億人に到達したと発表したFacebook。現在、2650億万枚の写真がアップロードされており、毎日3億枚のアップロードがあるという。友人とのコネクションは1400億件。音楽の再生回数は6250万曲を220億回再生されたと説明する。「Like(いいね!)」については1兆1300億回に上る。また、日本の月間利用者数は、1500万人。現在は世界のどこよりも成長しているのだという。
ではFacebookを使っていかにビジネスを成長させられるのか。D'Arcy氏はまず、「すべてのビジネスはすなわちローカルビジネスに関係がある」と語る。地元にあるビジネスが好きなのは、パーソナルであり、オーナーを知っている。だからこそ消費者は特別な経験ができるのだという。「人と人のつながり、人が勧めてきたことは受け入れられる。大規模なビジネスでも、リレーションシップ、つながりを大事にしてきている。その中には、ローカルビジネスという考えが生きている」(D'Arcy氏)
リレーションシップが広告の世界でも重要になってくることによって、D'Arcy氏は3つの大きな変化が起きていると説明する。まず1つめは、「DISRUPTION(分裂)」から「CONNECTION(つながり)」だ。D'Arcy氏は「これまではどんなに価値があるメディアでも、(消費者と)分断されてきた。すばらしい価値があるのであれば、それを中核に人々とつながるべき」と語る。
次は「SEARCH(検索)」から「DISCOVERY(発見)」だ。最近の研究によると、2003年からこれまで、人々は合計約50億Gバイトのデータを作っってきたという。しかし現在では、10分で50億Gバイトのデータが作られる、まさにビックデータの時代となった。そのため、これらの情報を分析し、それを意志決定に生かすことが重要になった。Facebook上でも友人の知識に依存することはより重要になる。知っている人とつながることでより大きな価値が生まれるのだという。
3つめは「HEAVYWEIGHT(重量)」から「LIGHTWEIGHT(軽量)」だ。これまでのように複雑なクリエイティブを作ることでは、投資した金額ほどの結果を出せなくなってきた。「人々は忙しい。実は期待するほど見てもらえない」(D'Arcy氏)。消費者にとって最少の負担で最大のインパクトを生み出すための方法は何か、いかにキャンペーンをシンプルにするか、といったことを自問自答すべきだとした。
D'Arcy氏はまた、マーケターは「ROA(Return on Attention:注意に対する回収率)」を意識すべきだと語る。メディアを見る、ボタンを押す、写真を投稿するといった、消費者にやって欲しい行為に対して、どれだけの価値があるのかを考えることが重要になるという。
D'Arcy氏は次に、広告の未来について語った。「今の広告は、大勢に向けて1人で語っているこの講演のようなもの。だが、もっと楽しいものにならないといけない。たとえばディナーパーティーのように、全員が対等に話し、貢献し合うようなものの方がずっと効果的」(D'Arcy氏)。ではこういった関係をどう築くのか。それを実現できているのがFacebookのニュースフィードだと説明する。
D'Arcy氏が「24時間365日更新される新聞のようなもの」と語るニュースフィード。Facebookユーザーがコンテンツを利用する時間の40%がここに費やされるのだという。ではマーケターはどういうことを心がけてニュースフィードなどを通じて消費者との対話に参加していくべきなのだろうか。事例を挙げて説明した。
まず挙げられたのは「BE AUTHENTIC(信頼性)」。ソーシャルで消費者が無限のつながりを持った今、マーケティングでうそをついても必ず真実が暴露される。別のペルソナを作って“ソーシャルメディア的な側面”は作るべきではないという。たとえばNewcastle Brown AleがFacebookで実施したキャンペーン「NEWCASTLE NO BOLLOCKS」は、消費者からの質問に正直に回答するというものだった。そこでは「どうして製品写真がなぜ完璧なのか」という質問が投げられたが「Photoshopで加工しているからだ」という回答までなされていたという。
次は「BE USEFUL(有用性)」。これまでは、「ブランドが消費者をどれだけ助けたいか」という“ストーリー作り”が必要だった。しかしこれからは、ユーザーにとって有用なツールやユーティリティーを作り、提供することで、ブランドの価値を高める事ができるようになったという。Nikeなどは「Nike+」や「Nike+ FuelBand」でこれを実現しているとした。
3つめは「BE ENTERTAINING(娯楽性)」。結局のところ、面白みがなければ誰も注目しない。消費者は面白みのある写真やストーリーなどを求める。たとえば飲料メーカーのRed Bullでは、「成層圏からの音速フリーフォール」といったコンテンツを提供している。
4つめは「BE RELEVANT(関連性)」。特定のグループに対して適切なメッセージを伝えることで濃密な関係を作ることができる。Walmartは全米3500以上の店舗の情報を個別に配信する「My Local Walmart」を展開することで、地域ごとの会話が生まれたという。
5つめは「BE TIMELY(折りよいこと)」。Facebookは常に動いているメディアなので、リアルタイムなアクションを伝えることが重要。「今何やっているか」を伝えて、投稿を促す必要があるという。Oreoでは、6月最終週末にニューヨークで行われる同性愛者のパレード開始日にあわせて同性愛支持の広告を打ち出した。「実生活と同じ世界に住んでいるということをブランド側から伝えていかないといけない」(D'Arcy氏)
最後に挙げられたのは「LISTEN(聞くこと)」だ。マーケターが話すだけではなく、消費者の声に耳を傾けることこそが、Facebookの最もパワフルな能力だ。LAY'Sでは新しいフレーバーのポテトチップスについてのキャンペーンを実施した。そこでは100万のユーザーが参加し、300万のフレーバーが提案されたという。
これらの事例を挙げたあと、D'Arcy氏はあらためて「たとえば写真を投稿するなど何かFacebook上でやる際、『Why care ?(どうして関心を持つのか)』『Why Share ?(どうしてシェアするのか)』という2つの方程式をを忘れないで欲しい」と語った。
また日本について、「結集したブランドの世界であり、会話を持っている。Facebookはまさしくこんな世界である。ユニクロにしてもモダンなカルチャー。そしてスーパーファンが多く、エンゲージメントがほかの国とはひと味もふた味も違う」(D'ARcy氏)と説明する。実際に日本のユーザーにアンケートを実施したところ、67%のユーザーがFacebookでブランドと出会っており、74%はクーポンなどを入手しているという。さらに27%のユーザーは、Facebookでブランドを見て、実際に商品を購入しているとした。「ブランド中心の消費者が日本にはいる」(D'Arcy氏)。
D'Acry氏は最後に、Facebookの価値を「橋」に例えて語った。「(企業と消費者を)互いにつなげる。すばらしいアイデアやキャンペーン、テクノロジーを10億人に届けるプラットフォームだ」(D'Arcy氏)
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