ゲーム制作者は自らの役割を磨け--スマブラの桜井氏、CEDECで講演

 8月20日に開催されたゲーム開発者向けイベント「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2012」(CEDEC 2012)において、ゲームデザイナーでソラの桜井政博氏が「あなたはなぜゲームを作るのか」と題した基調講演を行った。

 桜井氏は「星のカービィ」シリーズや「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズを考案、制作したゲームデザイナーで、最新作はニンテンドー3DSの「新・光神話パルテナの鏡」。現在は3DSとWii U向けの「大乱闘スマッシュブラザーズ」の新作の制作に携わっている。

人は人の仕事によって生かされ、その道のスペシャリストが世界を築いている

 冒頭では、「私の人生はコンピューターゲームの成長と共にある」として、ゲームの歴史を追いながら自身を紹介した。さまざまなゲーム体験が語られる中、影響が大きかったのが、1983年に発売されたファミリーコンピューターで「とにかく圧倒的でした。映像も音楽も操作性もゲームの面白さも、全て揃っていました。ゲームの世界を大きく変えました」。さらに自分の進路に大きく影響したものとして、1984年に発売された、ファミコンでプログラムを組めるファミリーベーシックを挙げた。「プログラム容量はたったの2キロバイトしかありませんでした。でもパソコンが高くて買えない私にとっては、すごく重要なものでした」とし、さらに「スプライトをファミコンのコントローラーを使って滑らかに動かすことが簡単にできました。それによって、パラメーターをどう設定すれば動きに感情が出るのかを数字で表現する鍛錬になりました」と当時を振り返り、これがなかったら今の自分はないと語った。

 ディスクシステムやファミコン用のメガROM採用、「ドラゴンクエスト」の発売などの出来事があった1986年ごろ、少年時代の桜井氏はおぼろげに感じていたこと、そして今でははっきりと思っていることして「人は人の仕事によって生かされている。その道のスペシャリストが世界を築いている」と述べた。「例えば、私は服を作れませんが服を着ています。服をデザインする人もいれば生地を作る人もいて、原材料を作って育てる人もいます。コンビ二のご飯をとっても、単純においしくする工夫もそうですし、工数や技術が詰め込まれています。関わっている人をスタッフロールにしたら数百人、数千人になるはずです。人の仕事がなければ、このパシフィコ横浜は海でしたでしょうし、なにより治安もありません。私たちの生活というのは人の仕事の上に成り立っていると考えていい。そして、専門家が特化したことによって生活が快適になると思います」とし、特化していることが重要だと語った。

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桜井政博氏

 その考えから桜井氏は、実践的なことを早い段階から学んだほうが有利と思い、5年制の高等専門学校に入学。しかし、その授業に疑問を持ったこともあって、普通高校に転入し、バイトをしながら、自分でゲームを研究する土台を作ったという。「面白いつまらないは関係なく、どんどん遊んで楽しさが生まれる感触を体で感じることが重要だと思ってどんどん遊びました。ただ、メモはとらなかったです。呼吸をするように楽しさを感じることが重要だと思ったからです」。その後桜井氏はHAL研究所へ入社。当時のHAL研究所では最初からゲームデザイナーの募集が行われていたという。

 ここで桜井氏からゲームデザインとディレクターを担当したゲームについての説明があった。1992年に発売されたゲームボーイ用ソフト「星のカービィ」は、初心者のための初心者のみを対象にしたやさしいゲームであったという。当時のファミコンゲームを遊んだ中で感じた「ゲームを遊んだことの無い人はどこからとりかかったほうがいいのだろう?」というところから企画。19歳の時に企画書を書き、21歳のころに制作したとのこと。

 ほかにも1999年に発売されたニンテンドー64用ソフト「大乱闘スマッシュブラザーズ」は、当時対戦格闘ゲームが、決められたコンボをきっちり決めないと勝てないようなシビアなゲームとなっていたため、ダメージを蓄積するシステムや、画面の外に吹き飛ぶとミスになるというシステムを取り入れたという。なお、2008年に発売されたWii用ソフト「大乱闘スマッシュブラザーズX」制作時、桜井氏はすでにHAL研究所を退社し独立していたが、これについて「従来続編は、ディレクターが辞めたら残ったメーカーが作るものですが、辞めたディレクターがチームを集めて作ったものでHAL研究所のスタッフはほとんどいなかったです。なぜこうなったかは『これでしか作れない』と任天堂の岩田社長が判断したから」という。そして現在制作中の「スマッシュブラザーズ」の最新作については「新キャラの新技を作るのは楽しいです」と語るにとどめた。

 桜井氏は、自身が手がける作品に盛り込むゲームルールは、アイデアをストックしておくのではなく、必要に応じてロジカルに考えるという。そしてゲームを作るうえで最も重要視している理論は「リスクとリターン」と述べた。「スペースインベーダー」を例に挙げ、「インベーダーと砲台(自機)の距離が離れているとインベーダーの弾はあたらないが、自分の弾も当てられない。近づくと弾があたってやられるリスクが増えるが、こちらの弾が当たるリターンも増える。この駆け引きがゲームの本質を生み出していると考えます」とし、ゲーム性は必ずしもゲームの楽しみの全てではないとしながらも、駆け引きを生むルールの意味を考えていくことが大切とした。

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