富野氏は、「個性を大切に」というスローガンにも反対する。
「『個性を大事にしましょうという』のは基本的に嘘。むしろ、自分に個性がないということを信じろ。そうでないと、いつまでたっても自分の好みの要素や手法だけでプロジェクトが達成できると思ってしまう。1つのプロジェクトには多くの人が関わる。全員の考えを統合して、自分の信者にしないといけない。単なる能力や表現力だけでは、1つの企画だって成し遂げることはできない」
「『器用貧乏』という日本語は危険。即戦力になっても、使い物にはならない。自己陶酔型もダメ。自分が絶対だと言って突っ走る人は、(プロジェクトの)トップからは外す。ヒットを狙うためにはいろんな要素を取り入れないといけない。自分の感性だけでやるやつに大きなプロジェクトはできない」
現在のゲーム開発では欠かせない要素となってきたコンピュータグラフィック(CG)にも、富野氏は批判の目を向ける。
「去年の始めごろ、CGの第一世代の人たちが『ついにCGも理工系の仕事からデザイナーの仕事になった』と、ため息交じりに聞かされた。僕は、『そうか、理工系の仕事だったから、これまでCGの絵がつまらなかったんだ』とわかった」
「いままではCGという技術を使うことだけに振り回されていて、ものを考られていなかった。複雑な道具を使うことが目的になって、それを使って何をするかが忘れられている」
CG制作ツールが発達したことで、デザイナーや絵を描く人たちでもCGを作れる環境が整ってきており、富野氏は「今後、CGの表現はかなり変わると思っている。どう変わるかは説明できないが、新しい環境に合わせた才能がでてくることは間違いない」と期待を寄せる。
そういった中で、求められるのは「才能の芽を大人が潰さないこと」だ。「才能ある人に場を与えることが大事。鑑識眼だけは持ちたいと思う。世の中に『自分には才能がある』と名札をつけている人はいないので、見抜くのは大変だが、才能に屈服することは意識して欲しい」と聴衆に呼びかけていた。
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