マサチューセッツ州ケンブリッジ発--MIT Media Labの3人の研究者が、「心を読む」ことで会話をしている相手の感情の状態を利用者に知らせる装置を開発した。
「Emotional Social Intelligence Prosthetic(ESP)」と呼ばれるこの装置は、MIT Media Labで米国時間4日に開催された「2006 Body Sensor Network Conference」で、Rana El Kaliouby氏が発表したもの。同研究チームでは、自閉症患者が他者の出すサインを読むのにこの装置が役立つと期待している。
「読心術」とは、表情や頭の動きなど、人間が他者の感情の状態を判断する目的で頻繁に利用される言葉を伴わないサインを、無意識のうちに知覚および分析することを指す心理学用語。
El Kaliouby氏はCNET News.comの取材に対し、「われわれは常に、無意識に読心術を使っている。態度や言葉を伴わないサインから(会話している)相手の状態を分析し、自分の行動を修正したり、相手に刺激を与えている」と語った。
El Kaliouby氏は、博士課程終了後の研究プロジェクトとして、Rosalind Picard氏の指導の元、このESP装置の開発を行っている。このプロジェクトは、MIT Media Labの「Affective Computing」グループの研究の一環として進められている。この日のデモは、やはり同グループとESPプロジェクトに参加するAlea Teeters氏が行った。同プロジェクトは、ケンブリッジ大学でのEl Kaliouby氏の博士課程研究から派生したものだが、Kaliouby氏はその研究のなかで、この装置の基盤となる計算モデルを開発した。このシステムは、まゆの上下動、唇の形状変化、頭の上下動といったかすかな顔の動きや身振りの分類体系的組み合わせを分析することで、感情の状態を人間と同じように判断する。
ESPは、OQO製のポケットサイズのPC、小型のウェアラブルビデオカメラ、イヤフォン、そしてベルトに装着する小型の振動装置で構成される。カメラは、帽子に装着したり、ハーモニカ用のアダプタのような器具を使って首の近くに装着することもできる。
ESPカメラは話者とは反対向きに装着するか、あるいは聞き手が装着する。会話の進行に合わせて、この装置が装着者の「心を読んでいく」。カメラを向けられた聞き手が退屈な様子を見せ始めると合図が送られ、話し手が対応を修正して聞き手の関心を引き戻せるようになる。
この装置は、自閉症の発作症状(Autism Spectrum Condition:ASC)のある人にとって特に有益だ。発作症状のある人は、自分では他人の感情を評価することができない。その結果、高機能自閉症患者は、その点を除いては一般社会で十分生活できるにもかかわらず、他人を誤解したり不快にさせる傾向から、活動が妨げられてしまう。
ESPは、自分の世界に入り込みやすかったり、反復行動を取る傾向にある自閉症患者に質問を促させたり、聞き手を会話に参加させることができる。この装置を独習ツールとして長期間利用すれば、自閉症患者が最終的に他人の感情を理解する方法を学べるようになると期待されている。
Centers for Disease Control and Preventionが公表したデータによると、子どもの166人に1人が何らかの形の自閉症にかかっているという。症状の程度はさまざまで、その症例は1980年代から増加傾向にある。
ESPのデータセットは、現在は6種類の感情の基準状態を検知するようプログラムされているが、文化の違いに応じて表情のパターンを調整したり、装着者に合わせた新しい情報で内容をアップデートすることもできる。
しかし、課題もいくつかある。ESPコンピュータはまだ目の動きを加味しておらず、また帽子に簡単に装着したり、メガネにも装着できるよう、より高性能なデジタルカメラも必要とされている。
Picard氏によると、Affective Computingグループは臨床試験の認可を受けており、アスペルガー症候群など、症状の軽い十代の高機能自閉症患者を研究するMITの別の研究グループと協力してこの装置のテストを進めていくという。これらの被験者は、まずはセラピストの治療を受ける際や、いずれは社会に出てもESPを装着し、社会生活のなかでのやりとりやコミュニケーション、そして反復パターンを改善していく。
ESPは、さまざまな用途が考えられるため、非常に魅力的だ。
El Kaliouby氏からは、「おならも分かってしまうのか、という質問も寄せられているが、プログラムすればそれも可能だ。デートの時に役立つかもしれない」といったジョークも飛び出した。
El Kaliouby氏がESPをデモ。「この装置は野球帽のなかに簡単に装着できる」(同氏)
写真提供:Candace Lombardi
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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