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Winny裁判、罰金刑は重いか?軽いか?--自己矛盾を抱えた判決

2006/12/13 22:54
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 すでに報じられているように、Winnyを開発・公開した元東大助手、金子勇被告が罰金150万円の有罪判決を受けた。この判決を、どう見るか。

 個人的にどう受け止めたのかを最初に言ってしまえば、私はこの判決はきわめて妥当なものだったと考えている。おそらく多くの人が異論を唱えられるだろうが、なぜ私がそう思ったのかを、以下述べてみたい。

 私は7月の論告求刑の際は、「大詰めWinny公判が突きつけたソフトウェアの明日」という記事で裁判の争点について書いた。繰り返しになるのを承知でもう一度説明しておけば、争点は2つあった。ひとつはWinnyというソフトそのものが著作権侵害を助長させるものであったのかどうかということ。つまりWinnyというのは社会にとって有用なソフトなのか、それとも犯罪のためだけに存在しているマルウェアだったのかということだ。もちろん検察側は後者と判断して公訴提起し、弁護側は前者であると主張した。

 第二の争点は、Winnyというソフトそのものではなく、このソフトを公開した開発者、金子被告の意志の問題である。検察側は、金子被告が供述調書をはじめ、2ちゃんねるダウンロード板やWinny配布サイト、姉や弁護士とのメールのやりとりなどさまざまなところで金子被告が「著作権などの従来の概念が既に崩れはじめている。最終的には崩れるだけで、どうせ戻れないのなら押してしまってもいいか」「逮捕というのはまずありえないだろう」「悪用できるようなソフトは特に宣伝しないでも簡単に広まるね」などと書いていることを証拠として提示し、金子被告には明らかに著作権侵害ファイルの蔓延を助長させようとする意志があったと指弾した。

 弁護側はこれに対して、供述調書は警察官や検察官の作文であり、そのような意図は金子被告にはなかったと反論した。金子被告がWinnyを開発したのは、有用なソフトを作成するための純粋な技術的検証の一環だったと訴えたのである。

 これら争点に対して、京都地裁の氷室真裁判長はどのような判断を下したのだろうか。

 まず第一の争点。氷室裁判長はこの日の判決理由で、「Winnyの技術的内容として認められるものは、以下の通りである」として、

  1. PtoPテクノロジを使ったソフトである
  2. 個々のパソコンが対等に接続され、ファイルの情報もパソコン同士でやりとりされている(ピュアPtoP)タイプのファイル共有ソフトである
  3. ファイルの情報を持ったキーが中継され、一次的な発信者がわからなくなる匿名性を持っている
  4. パソコン同士をクラスタリングし、すみやかにファイルが送受信される効率性を持っている
  5. 特定のファイルは送受信しない無視機能がある
  6. Winny1のファイル共有機能に加え、Winny2には大規模なPtoPのBBSを構築する機能がある
などを挙げた。だが氷室裁判長はこれらの機能を提示しただけで、これら機能にそもそも犯罪性があるのかどうかについては、言及しなかった。つまりWinnyというソフトそのものが犯罪的であるという検察側の主張は、却下したのである。

 しかし第二の争点については、氷室裁判長は次のような趣旨のことを述べた。

 「Winnyは、主犯の二人が著作権侵害ファイルをアップロードするための手段として有形的に容易ならしめたことは、客観的な側面から明らかに見て取れる。しかし弁護人は、WinnyはPtoPソフトとしてさまざまに応用可能な有意義なものであり、それ自体の価値は中立的であると主張している。では、そのWinnyを外部提供したことに違法性があるかどうか、主観的な対応はどうかを考えなければならない。そこで、Winny配布にどのような目的があったのかを、検討したい」(※筆者註:法廷で手書きした取材メモからの転写なので、文言は正確ではない。以下同じ)

 氷室裁判長は、「検察官は、被告がWinnyを公開したのは著作権違反を助長させる目的だったのは供述調書からも明らかだとしている。一方で被告は、著作権違反の助長は目的ではなく技術的検証が目的だった。供述調書は検察官の作文だと反論している。そこで被告の供述の任意性、信憑性を検討したい」と続けた。

 そして金子被告が京都府警に対して書いた申述書や供述調書、弁解録取書などの内容を挙げ、それらが姉や弁護士などとのメールのやりとり、Winny公開サイトでの発言などと整合性があることを指摘し、「表現に若干の変遷は認められるが」と前置きしながら、金子被告の一連の発言について次のように整理して見せたのである。

 「コンテンツ作成者にどう支払うのかというモデルは矛盾を来していることを感じ、WinMXの利用者が逮捕されたことに違和感を感じていた。そんな時にFreenetの存在を知り、既存の著作権モデルが変わる契機になるのではないかと考えた。ただFreenetはファイル転送の効率が悪いため、匿名性と効率性を兼ね備えたWinnyを開発しようと考えた。Winnyの公開、普及が新しい著作権モデルにつながれば良いと考えた」

 弁護側が一貫して主張してきた「開発は技術的検証のためで、供述調書は検察官の作文」という訴えを、完全に一蹴したのだった。

 ところが判決理由をここまで朗読してきた氷室裁判長は、ここで突然語調を思い切り強めた。そうして、次のように言ったのである。「ただし、Winnyによって著作権侵害の蔓延を積極的に企図したとまでは、認められない」

 おそらくこの判決で最も重要なポイントは、この部分である。氷室裁判長は、「Winnyはさまざまな分野に応用可能で有意義なものであり、技術自体は価値中立的なものである」とも述べ、Winnyの存在意義について理解を示している。その前提に立って、「ファイル共有ソフトが著作権侵害に使われることを知りながら公開し、それによって新しいビジネスモデルが生まれることを考えてWinnyを公開した」と述べた。裁判長はこの「新しいビジネスモデル」という言葉を判決理由の中で何度も使っており、最後の量刑理由の部分でも、こう告げている。

 「Winnyの公開、提供が起こした影響はそうとうに大きく、被告の寄与も決して少ないとは言えない。しかし、被告は著作権侵害が蔓延することを目的としたのではなく、新しいビジネスモデルを生み出させるという目的をもっていた。経済的利益を得ようとしたわけではなく、実際に利益を得たわけでもない。そこで罰金刑とすることとした」

 金子被告が考えていた「新しいビジネスモデル」とは、どのようなものだったのだろうか。彼は逮捕前、Winny配布サイトで「Winny将来展望」と題して、次のように書いている。

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