通話機能だけでなく、電子メールやインターネット、カメラ、おサイフ、ナビゲーションなどさまざまな機能を持つようになった携帯電話。ハードウェア、ソフトウェアともに進化し、複雑になる中で、ユーザーが使いこなせない状況も生まれている。これから先、携帯電話はどう進化しうるのだろうか。
このような問いに答えるべく、元NTTドコモ執行役員で、現在は慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科で教授を務める夏野剛氏が7月4日、モバイル学会主催のシンポジウム「モバイル08」において、「ケータイの未来〜まだまだ進化するIT革命〜」と題して講演した。
夏野氏は6月にNTTドコモを退職したばかり。これまでiモードやおサイフケータイ、子ども向けのキッズケータイなどを企画、開発してきた立場から、近年国内の携帯電話業界が「ガラパゴス化している」という指摘に反論した上で、未来の携帯電話像を考える上でのヒントを紹介した。
「ガラパゴス化」というのは、国内の携帯電話業界が海外とは異なる進化を遂げており、国内の携帯電話端末やサービスなどが海外では受け入れられていないことを揶揄した表現だ。これについて夏野氏は、「ガラパゴスという表現は半分当たっているが半分嘘」と語る。
「ガラパゴス諸島に住んでいるリクイグアナなどは、ほかの場所で生きていけないという意味で遅れている。しかし、日本のケータイはどこよりも進んでいる。これほどのサービスがトータルパッケージで提供されている国は日本しかない。独自の生態系っぽいものをもっているという点でガラパゴス的だが、(世界に開かれていて)競争が激しいほうが進化するはずなのに、(携帯電話業界は)日本のほうが進んでいる。これは、欧米企業の携帯電話会社の場合、競争相手の範囲が携帯電話会社だけであるのに対して、日本では音楽プレーヤーやデジタルカメラ、PDAなどあらゆるものが競争相手になっている」(夏野氏)として、日本の携帯電話業界は世界の中で最も進化していると強調した。
夏野氏はNTTドコモ時代について、「10年ちょっとドコモにいて、ずっと新しいサービスを作ってきた。ドコモには本当に感謝している。今から思うと、あんなによく好き勝手にやっていたと思うぐらいだ」とし、自分に子どもができたことがキッズケータイの開発の動機だったことや、小銭を持ち歩くのが嫌いだったことからおサイフケータイを開発したことなどのエピソードを明かした。
「実は僕はクリエイティブな人間ではなく、自分が困っているもの、『なんでこうなんだろう?』とか、『こういうことができればもっと便利なのにな』という素朴な疑問を解決することをしてきた」(夏野氏)
ただし、新しいサービスも技術が進化し、ユーザーが受け入れなければ広く普及しない。その際にヒントにするのが、SF小説やSF映画なのだという。SF小説には、遠い未来の世界を科学知識のない人が読んでも、「そういう未来が来るかもしれない」と思わせるだけの説得力がある。それはユーザー目線で描かれているからであり、自らが未来のサービスを作る上でも参考になるというのだ。
「IT革命が起きて一番変わったのは、未来が現実になるスピードが速くなったということだ」
数ある未来描写の中でも、夏野氏が最も注目するのがバーチャルディスプレイだ。現在の携帯電話は、携帯電話に搭載しなければならないという理由で、ディスプレイのサイズが小さく限られてしまっている。これが例えば、空間に3Dで表示したり、プロジェクタのように壁に投影するようになれば、ディスプレイの大きさはデバイスの大きさの制限を受けなくなる。つまり、携帯電話に新たな表現の可能性が生まれるのだ。
「今のサイズで、2時間の映画を携帯電話では見ない。でも、14インチサイズで見られるとなれば、現実味がある。端末の物理的なサイズと見える画面の大きさが同じである、ということから外れれば、携帯電話の形状と大きさは圧倒的に自由になる」
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