Appleに独自性をもたらしているのは、テクノロジのためのテクノロジを開発しないことです。その代わりに、Appleはテクノロジを、テクノロジが可能にする物事の実現手段ととらえています。Nokiaの「N97」にはおそらく1万8000種ほどの機能があります。仕様のページはたぶん腕の長さを超えるほど長いでしょう。しかし、こうした機能に関心を持ち、発見し、利用する顧客のこととなると、うまくいきません。
Appleでは、利用できる機能やテクノロジがあっても、人々が使わない場合は製品に採用しません。常に重視しているのは、人々が関心を持っていることは何かということです。人々が自分の車の中で音楽を聴きたいと思っているので、車メーカーと協力してiPodを車に統合しました。現在、販売されている車の8割にはiPod統合のオプションがあります。人々が自分のiPodを身に付けて走っているので、これをより簡単にする方法を考え出そうということになります。これはかなり異なる世界観です。ほかの企業の多くは、特にモバイル市場では、何であれ最新のテクノロジを追いかけているだけです。そのような企業は「皆がHSPAのことを話しているから、われわれも自社のデバイスに取り入れなければ」と考えます。でもAppleは立ち止まり、こう言うのです。「消費者はこれを使って何をするだろうか」
Borchers氏:単純であるということは、多くの物事に対し「ノー」と言わなければならないという意味では、難しいことである場合もあります。大企業内部の文化的見地からすると、少数の非常に優れた製品を開発することに焦点を絞るのが難しいこともあります。Appleの場合、製品のポートフォリオはたった20か30の製品で構成されています。数百または数千の製品を有するほかの企業と比べれば、これは少ない数です。しかし売り上げを見ると、Appleはこうした他企業のいくつかよりずっと大きいのです。
Borchers氏:そうです。「iTunes」が良い例です。iTunesは最初、音楽専用であり、人々はそれを理解しました。しだいにAppleは異なる要素を積み重ねていくことができました。そして現在では、iTunesは映画やテレビ番組のダウンロードやポッドキャスト、ビデオのレンタルなどがあるデジタル遊園地になっています。これを最初の日から始めていたら、消費者は「これは何だ。複雑過ぎる」と言ったでしょう。Appleは非常に順序立ったアプローチを取っており、機能や要素を段階的に追加していきます。このため消費者は消火ホースから水を飲むような苦労をしなくて済みます。
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