MSNとWindows Liveの舵を取るメディア通の手腕

別井貴志(編集部) 松島拡2007年04月10日 08時00分

 マイクロソフト(MS)のポータルサイトMSNや、Windows Liveを運営するオンラインサービス事業部の事業部長に笹本裕氏が2007年2月に就任した。リクルートで行動支援サイト「ISIZE」の立ち上げに参画したのち、自ら会社を立ち上げて口コミのレストランガイドサイトを運営。その後、MTVジャパンでCOO、CEOを務めたという経歴の持ち主だ。笹本氏のMS入社の動機とMSでの役割、広告市場やオンライン事業の今後の展望などについて聞いた。

――特徴的な経歴をお持ちの笹本さんですが、それぞれの企業でどんな仕事をし、現在に至るのでしょうか。

 まず最初にリクルートでは、リスティング(検索連動型広告)などを学び、インターネットサイトの立ち上げにも携わりました。その後、1999年にクリエイティヴ・リンク(現アスクユー・レストランガイド)というベンチャー企業を立ち上げました。技術的な問題で、レビュアーによる膨大なレストラン批評情報の中から、多変量解析で自分に合ったレストランを探す、という構想は諦めざるを得ませんでしたが、情報に対する認識はこのとき深まりましたね。

 MTV入社の動機の原点は、学生時代、米NBCニュース東京支局でのアルバイトで、映像の持つ情報量のすごさを実感し、いずれは映像のメディアビジネスに携わりたい、と思うようになったことです。MSのオンラインサービス事業(MSNとWindows Live)において、映像コンテンツは不可欠です。であれば、リクルートなどでの情報分野における経験と、MTVで映像に関わった経験、この二つをMSでなら生かせるだろうと思ったわけです。少々大げさな言い方をすると、自分がこれまで培ってきたメディア論を、この会社、この事業でなら発揮できる、ということですね。

――はた目には異色に見える笹本さんの経歴には、“メディア”という筋が一本通っているわけですね。そこまでメディアに惹かれる理由は?

 人に大きな影響を与えられる、というところですね。理想的なメディアとは、感動という影響の与え方と、感謝してもらえるという影響の与え方、この双方を持っていることだと思います。もちろんビジネスである以上、収益は大切です。ですが、同時に金銭以外の目的も持っていないと、次第に本質からずれてしまうと思うんです。

 現在のインターネット広告市場は、サーチやリスティング(検索結果ページに広告を表示するサービス)が主体ですが、今後はブランディングが主流にならないと、市場の発展は望めません。また、これまで多くの広告主と接してきましたが、アメリカに比べ、日本はまだまだメディアの使い方や広告戦略が弱いと感じています。だからこそ、われわれのサービスを通して、何かお手伝いできたら、と思うんです。

――そのサービスの根幹にあるのが、笹本さんがおっしゃる「感動×感謝=メディアビジネス」なのですね。

 そうです。“感動”と“感謝”は、足し算ではなくかけ算でなければいけません。この場合のかけ算とは、インタラクティブ性など、インターネットの特性を生かした感情移入の仕組みを作る、ということです。例えばMTVなどは、映像や音楽を通して感動を与えることはできますが、それはあくまで一方通行のものです。そこへユーザーに“感謝”してもらえるような機能、要素をかけ合わせることで、ユーザーは初めて本当の意味で感情移入でき、広告主にとっても価値ある商品となるのです。

――ヤフーやグーグルなど他社との競合についてはどう考えてますか。

 競合するライバルというより、お互い別の方向へ進んでいくのではないかと想像しています。ヤフーは、誰にでもやさしい、シンプルなサービスを提供する方向へ進むでしょう。一方MSNは、ビジネスユーザーにターゲットを絞り、彼らのライフスタイルを向上させられるポータルメディアを目指すことになると思います。

 また、フォロワーとして参入する分野に関しては、多少時間をかけてでも、他社と違うものを打ち出さなければいけません。ですが、MS独自のサービスによってブランドを構築し、その上で市場に踏み込んでいけば、後発でも勝負になると思います。先日公開したMSNムービーでの「アカデミー賞特集」もその一つですが、サーチの頻度も多く、非常にいい結果が出せました。こうした試みをこれからどんどん商品化していくことになるでしょう。

――では、Windows Liveのほうはいかがでしょうか。もっとも先行しているアメリカで提供しているWindows Liveを冠したサービスのすべてを、日本にも導入する予定ですか。

 現時点でいつ導入するかは断言できませんが、基本的にすべてやることになります。ご存じの通りMSはすごく野望の大きな会社で、これもやる、あれもできる、という感じですが、やはりメディアやネットワークのビジネスは、サービスをしっかり実装してからでないと、ブランド構築は難しいのです。ですから、Windows Liveを日本の市場に定着させながら、順序に配慮しつつ各サービスを導入することになると思います。

 その手始めとして、まずはキーとなるテクノロジーであるサーチの開発に、資金投下も含めて力を注ぐことになるでしょう。ただ、サーチの世界は非常に奥が深く、キーワードで検索ができる、という単純な利便性がすべてではありません。サーチの可能性をもっと深く追求すれば、それが先ほど述べた“感謝”につながると思うし、そうなれば自然とメディアとしてのブランド構築も完成するのではないでしょうか。

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