いよいよ本格参入、グーグルの日本戦略を探る

山岸広太郎、永井美智子(CNET Japan編集部)2003年06月10日 10時00分

 マイクロソフトサン・マイクロシステムズなど、日本法人の社長を日本人から米国の経営陣の兼任に交代させる人事が相次いでいるが、Googleの日本戦略は少し違うようだ。

 Google日本法人の代表取締役社長に、元ドーセント代表取締役社長の村上憲郎氏が就任して2カ月が経過した。村上氏はソフトウェア企業や通信系企業、Eラーニング企業など数々の外資系ハイテク企業の代表を務めてきた人物だ。技術的なバックグラウンドと外資系企業でのマネジメント経験を備えた村上氏に、Googleは日本法人の全てを託している。

 Googleは検索型キーワード広告のアドワーズなど、日本での事業を着実に拡大している。しかし一方で、ライバルのOvertureが昨年日本法人を立ち上げて規模を拡大しているほか、米国ではYahooがウェブ検索企業のInktomiを買収するなど、検索エンジンをめぐる攻防は激しさを増している。Googleは日本でどのように事業を展開させていくのか、その戦略を村上氏に聞いた。

---まず日本でのミッションについて聞かせてください。検索型キーワード広告のアドワーズが注目を集めていますが、広告営業が中心になりますか。

 いえ、それは少し違います。Googleの使命は、ウェブユーザーに対して速く正確で使いやすい検索サービスを提供することです。日本法人についても、Googleのサービスを日本のユーザーに広め、より多くの人に使ってもらうことが最大のミッションとなります。

---すでにヤフー、アマゾン ジャパンなどは日本で順調に事業を拡大しています。一方で、eBayのように撤退する企業もありました。また、サン・マイクロシステムズ、シスコシステムズなどは代理店を活用することで日本への参入に成功しました。どこか手本となるような企業はありますか。

 どこかがお手本になるという感じは正直言ってありません。Googleはとてもユニークな企業で、中心サービスの検索機能をユーザーに無償で提供しています。何か最初に売る製品がある企業とは違います。

 ただ、ある種幸運なことに、Googleはここ数年間ですでにヤフーなど検索サービスのパートナーを獲得しています。すでに初期段階の問題はクリアしているので、ここからどうするかということを考えればいいわけです。社員数やオフィスの面ではまだスタートアップのような印象がありですが、実際の業務に関してはすでに磐石なものがあります。この2点を考えると、他社の成功事例はあまり参考にはなりません。

---国内の事業展開について聞かせてください。当面は検索サービスとアドワーズが主体ですか。

 そうですね。まず、検索エンジンのパートナーが鍵となります。Googleの検索エンジンをより多くの人に使ってもらうために、ウェブサービスという形でGoogleの検索エンジンを採用していただくパートナーを増やしていきたいと思っています。大手の検索サイトはほぼ押さえたのですが、中堅のサイトなどに対して我々の優位性を主張していくことが大きな目標です。

 アドワーズについては、広告代理店とのお付き合いもきちんとやっていきたいと思っています。ただ、アドワーズは広告枠を売るという今までの方法とは全く異なった新しい広告手法です。あくまでも我々は「広告も情報だ」と考えています。的確な情報をユーザーに届けることがGoogleの使命です。ですから、たとえ広告費を多くいただいても、リストの最上位に載せるということはありません。ユーザーからクリックされないものはランキングが下がっていきます。それが失礼千万だとおっしゃる広告主もいらっしゃいますが(笑)。そういった方々にも我々の意図するところをきちんと理解していただくことが大切だと考えています。

---代理店というのは電通/博報堂のような大手広告代理店ですか。それともサイバーエージェントといったオンライン広告の代理店でしょうか。

 どちらかというと、インタラクティブ広告という我々と同じような主張を持ち、それによって広告業界での地位を固めようとしている新興企業とのお付き合いが多いですね。

 テレビから始まった広告代理店では、我々の主張を取り入れてもらうのはなかなか大変です。しかし、広告業界全体の売上が落ちている中で我々の広告事業が伸びているのを見過ごすはずはないでしょう。明らかに費用対効果が高く、その部分が評価されていることに気づき始めています。

---Overtureも昨年日本法人を開設し、規模を拡大しています。競合としてどう見ていますか。

 パフォーマンスベースの広告手法という点で我々と同じような主張をされているわけですから、むしろ歓迎しています。ただ、我々は非常に柔軟な形で広告の出稿や変更ができたり、簡便さという点でユーザーからの支持を得ていると思っています。

---Overtureは人的な営業活動を重視しているようですが。

 検索サービスも含め、我々は自動化というのを非常に重視しています。創業者も含めて、「まだネットも検索サービスも始まったばかりだ」という認識が会社全体にあります。よく「Googleは検索も良いし、もうやるべきことは全部やってしまったでしょう」と言っていただくのですが、社内ではそんな意識はありません。「30億以上のインデックスがある」と驚かれますが、そんな量では済まない時代が来ていると思っています。ですから、広告の出稿も含めて、いかに人手をかけず、全体に自動化していくかが非常に大事になると考えています。

---現在日本で提供されている検索サービスは「ウェブ」「イメージ」「グループ」「ディレクトリ」の4種類ですが、米国ではGoogle Newsと商品検索サービスのFroogleがあります。日本での展開予定はありませんか。

 繰り返しになりますが、我々の使命はウェブユーザーに速く正確で使いやすい検索手段を提供することです。その中でニュースを検索するのはGoogle News、インターネット上で手に入る商品を検索するのはFroogleとなります。米国で提供しているのはまだベータ版ですが、それらを各地域に広げるのは我々のミッションの1つです。しかし、社会の状況や言語の状況などいろいろな技術的問題がありますから、いつ日本に登場するかは未確定です。

---状況というのは、たとえば新聞社が各ニュースへのダイレクトリンクを嫌がるといったことですか。

 いえ、それよりも、完全に自動化された中で日本語のニュースを的確に収集できるかという我々の技術的な問題です。

---逆に技術的な問題がクリアできればやりたいと。

 ええ。そうです。ただし、ユーザーのニーズがどれだけあるかという点も重要です。米国では1つの出来事に対して複数のニュースソースを比べる傾向がありますが、日本で新聞を読み比べる習慣はあまりありません。手薄な開発陣をニュースに注ぎ込むほどのニーズがあるのか、日本ではむしろFroogleや携帯サービスのほうがニーズがあるのではないかなど、よく検討する必要があると思います。

---ニュースやFroogleなどを提供するようになると、Yahooと機能が似てきますね。

 よくそのような形で比べられるのですが、Yahooは我々にとって世界的にとても重要なパートナーです。我々自身は決してポータルになろうとは思っていません。我々はあくまで検索エンジンに特化しています。ウェブ検索やイメージ検索、ニュース検索などを集めるとポータルになるのではないかと言う人がいますが、あくまでも我々は検索手段を提供しているのであって、決してポータルになることを狙っているわけではありません。

---Googleは上場しないのかという話があります。

 Googleは2001年の第1四半期からすでに黒字化しています。しかし上場については、「そんなことをしている時間はない」というのが本当のところです。上場には非常に沢山の手続きや書類が必要です。そんなことをするよりも、我々は検索エンジンをどう磨き上げていくかということに時間を使いたいのです。

---村上さんのキャリアを拝見すると、IT系の企業のマネジメントをされていたという点で米国本社に迎えられたEric E. Schmidt氏と似ていますね。非常に若い開発チーム企業を率いられていますが、その点はいかがですか。

 私は年はとっていますが、気持ちが若いんです(笑)。Schmidtも似たようなキャラクターだと思いますよ。特にインターネットは今後どうなるかまだ分かりません。ですから、我々が既成概念で物を言うのではなく、若い人たちの斬新な発想に大胆に依拠するという姿勢を取っています。

 しかし一方で、彼らがやろうとしていることが技術的にどういう位置にあるのか、どういった技術的な困難さがあるかということを、今までの流れの中で見られるような技術的洞察力は必要です。新しい間違いは犯しても構いませんが、古い間違いはしたくない。そういう技術的洞察力があって、アドバイスや提案ができるという面で私とSchmidtは似たところがあると言えるでしょう。

---Googleのシステムは、安いハードウェアで大規模な処理能力を実現している点に日本でも注目が集まっています。

 米国のエンジニアたちは、良い意味で資本主義がよく分かっていると思います。日本で「オタク」というと、お金のことは無頓着にのめりこむところがあります。しかし米国の場合、自分のやりたいことが成立するためには帳簿的なバランスも必要だということをよく理解していると思います。

 その上でGoogleのソフトウェアの動きは一体何かと考えると、いわば「百ます計算」なんですよ。つまり、膨大な単純計算の積み重ねです。確かに使われているアルゴリズムには非常に高尚で人工知能的なものも組み込まれていますが、圧倒的な部分は単純作業の積み重ねです。単純な計算を行うときには最新のプロセッサなどは必要なく、一番安いプロセッサを使うほうが良いんです。Googleのソフトウェアを最もよく理解した人が、この処理を行うために一番安上がりなハードウェアは何かと考えたとき、それは最新のサーバではない、ということになったわけです。

---今後の国内の体制について教えてください。

 日本といっても日本語の世界と日本という地域の2つがありますが、どちらもサポートは日本法人だけでなく、グローバルで行っています。Googleという会社は非常にユニークで、米国本社の中で日本語が結構通じるんです。私も今までいろいろな外資系企業を経験してきましたが、米国のヘッドクォーターで日本語が通じるという経験は今までしたことがありません。しかしGoogleでは、日本に関係している部門には日本語が喋れる米国人や、日本国籍の人が数多く働いています。

 その中で日本法人を切り出して見たときに重要なのは、やはり日本のパートナーとのコミュニケーションです。検索エンジンのパートナーや広告代理店に対して、直接的なコミュニケーションやサポートを行うことが最も重要になります。それからもう1つ、日本国内のユーザーの声、あるいはオンラインで直接広告を出稿する方との直接的なコミュニケーションのためにも、日本にある程度の人数が必要です。おかげさまで全てのビジネスが成長していますので、それに見合う人数の配置が必要になっています。

 エンジニアや研究開発のセンターは米国にあります。しかし、日本の検索エンジン利用者や広告代理店、パートナーなどユーザーの声が十分反映されるように活動しています。

---現在の社員数は?

 毎週人員が増えているため正確な数字は言えませんが、現在25名を超えたくらいです。

---2、3年後の将来像として、日本法人の規模はどのくらいになると想像していますか。

 現在オフィスを新しくしようと考えており、100名くらいはきちんと入れるところを探しています。そこから少し類推していただければと思います。

---Googleで働きたいという技術者は日本でもたくさんいます。

 まだエンジニアの採用を日本国内では行う予定はありませんが、採用したい優秀な人材はいると思います。しかし、重要なのはやはり英語力です。コンピュータをやる人は英語ができないとインドや中国のエンジニアに負けてしまいます。ネイティブ並みとまでは行かなくても、違和感ない程度に英語がしゃべれないといけない。特にエンジニアの場合、英語とプログラム言語を交えて会話するわけですから、そこをきちんと理解できるような人という採用基準を設けています。もしそういう優秀な人材がいれば、こちらで紹介して米国で面接を受けてもらう形になりますね。

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