1998年9月に登場して以来、検索エンジンとしての地位を着々と確立していったGoogle。そのGoogleが昨年2月に米国で開始し、9月に日本上陸したアドワーズ広告が話題である。
アドワーズ広告は、ユーザーが検索したキーワードに応じて広告を表示し、その広告がクリックされた段階で広告費が課金されるという仕組みになっている。広告の表示位置は、広告主のキーワードに対する入札金額と、ユーザーのクリック率によるスコアで順番が決まる。ユーザーが自主的に検索したキーワードに対する広告ということで高い広告効果が期待されており、さらにユーザーが広告をクリックしない限り課金が発生しないクリック保証型のため、広告主にとっては投資回収率も高い。また、広告予算を1日単位で指定することも可能で、広告予算が比較的少ない企業でも気軽に利用できるようになっている。
このように広告の表示位置を入札によって決め、その広告に対する課金はクリック保証型というモデルは、米国ではOverture ServicesがGoogleより以前に「スポンサードサーチ」という名称でサービスを開始している(日本におけるオーバーチュアのサービスは昨年12月に正式スタート)。2社は常に広告部門で比較されているが、Googleはこの分野で一歩先を行くべく、先日米国にてコンテンツサイトに的確な広告を表示させる新サービス、コンテンツターゲット広告(Content-Targeted Advertising)を発表した。
同サービスの日本での開始時期はまだ未定だが、Googleでは日本市場を重要視しており、米国本社の業務開発&営業担当副社長であるOmid Kordestani氏も頻繁に来日しているという。CNET Japan編集部では、来日中の同氏とGoogle日本法人のセールス&オペレーションディレクターである佐藤康夫氏に、現在日本でも注目されているアドワーズについて、また新サービスや今後のネット広告のあり方について聞いた。
――アドワーズが日本でも好評のようですね。現状について詳しく教えていただけますか。
Kordestani:全世界でのGoogleの広告主は今では10万を超えました。これでわれわれも成果ベースの広告においては大手になったといえるでしょう。日本でもアドワーズは思った以上に好評で現在数千の広告主を抱えており、広告主も広告代理店から中小企業や個人商店までバラエティに富んでいます。われわれの提供する広告モデルは結果がわかりやすいものです。結果の見えるものには経済状況が悪くても投資したくなるものですからね。
――アドワーズの顧客で具体的な成功事例があれば教えてください。
佐藤:投資効果がしっかり出る広告なので、実際すばらしい成果が出たとの話はよく耳にしています。オンラインチケット販売会社での成功例をお話ししましょう。昨年11月中旬のPaul McCartney来日コンサートで、その会社は11月になってもチケットが売れ残っていたらしいのです。そこで「ポール・マッカートニー」と検索した人に向け、「来日コンサートチケットまだあります」という広告を打ったところ、あっという間に完売してしまったそうです。販売の80%以上がアドワーズ経由だったとのことですから、効果は大きいですよね。広告の費用も、売上げに対して1%程度で済んだそうです。
他にもカー用品の販売企業が特定の商品をキーワードにアドワーズ広告を掲載したところ、その商品の売上げが月間で2.5倍増加したケースや、トルコじゅうたんのキリムという商品を販売しているサイトで人が集まらずに苦労していたところ、アドワーズでトラフィックの増加と売上倍増につながったという話もあります。この例でもわかると思いますが、キリムのファンはいて、その商品を売っているところもあるのに、今までお互いが出会う場所がなかった。お金があれば企業も派手な宣伝ができますが、コストをかけずにいかに宣伝するかというところで皆悩むんです。アドワーズのようなものがあれば、「キリム」という言葉を検索している人に対して的確に宣伝ができます。自主的に検索している人は間違いなくその商品に興味がありますから、検索結果がいい出会いの場となります。ユーザー側もターゲットを絞って探しているので、アドワーズ広告が貴重な情報源となるわけです。
――米国で新しくコンテンツターゲット広告(Content Targeted Advertising)というサービスを始められましたね。これはどういうものですか。また、これは米国のみのサービスなのでしょうか。
Kordestani:これは3月4日に米国で発表したばかりのサービスですが、今後世界中で展開する予定です。われわれはこれまで検索サイトと提携し、そこにアドワーズ広告を提供してきました。日本では現在@nifty、Yahoo! Japan、Excite、Biglobeと提携しています。今回発表したコンテンツターゲット広告では通常のコンテンツサイトと組み、そこにアドワーズに参加している企業の広告を掲載します。コンテンツサイトではターゲットの絞られていない広告が掲載されることも多く、広告効果がなかなか得られないという現象が起こっています。また、小規模のサイトは広告枠の販売にも苦労しています。そのような広告枠を買い取って、サイト運営者、広告主、ユーザーの全てにとって意味のある広告を掲載するのです。
このサービスでは、まずわれわれの技術を持ってして各コンテンツサイトのコンセプトが何なのかを判断し、そのコンセプトに合ったものをGoogleの広告主の中から選んで表示するという形になります。われわれの広告主はバラエティに富んでいますから、サイトのコンセプトに合った広告を提供することも簡単です。広告主にとっても、これまでは検索サイトのキーワードに対して広告が表示されるのみだったのが、このサービスで広告が表示される機会が増えるので一石二鳥というわけです。もちろん、広告料金はアドワーズと同じく、クリックされた場合のみの課金となります。
――検索サイトとの提携で広告を表示するサービスと、今回のコンテンツサイトとの契約では何が違うのでしょう。
Kordestani:検索サイトにはGoogleのサーチ機能も提供しています。そこでキーワード検索ができて、キーワードに沿った広告が表示されるようになっています。一方通常のコンテンツサイトにはサーチ機能はありません。そこで、われわれの技術でそのコンテンツサイトに何が掲載されているかを判断し、そのサイトに合った広告を表示するのです。ユーザーはキーワードを入力しているわけではないのに、キーワード検索をした場合と同じような内容の広告をそのサイトで見ることができるわけです。広告効果の高いサービスを提供するという点では、このサービスにとても気を使いました。コンテンツサイトにこのような方法で広告を載せるということは前例がありませんからね。現在契約を結んだコンテンツサイトは、HowStuffWorks、Weather Undergroundなどに加え、San Jose Mercury NewsやMiami Heraldといったニュースサイトを運営するKnight Ridder Digital、またDisney.comなどを運営するWalt Disney Internet Groupです。また先日わが社が買収したPyra LabsのBlogサイトであるBloggerにもコンテンツターゲット広告が掲載されます。
――このサービスが日本で開始されるのはいつ頃になるのでしょう。
Kordestani:近々発表する予定です。技術面はもう用意ができているので、あとはローカライズやコンテンツサイトを集めるだけですね。もう注文を受けてもいいのですが。
佐藤:実はもう問い合わせはあるんですよ。いろんなコンテンツサイトから興味を持っていただいているようで、本格的なサービス開始が楽しみです。
――GoogleとOvertureはよく比較されますが、Overtureをライバルとして見ていますか。
Kordestani:われわれのビジネスの一部分、つまりアドワーズのような広告ビジネスだけを見るとOvertureはライバルといえます。しかしGoogleはあくまでも検索サイトが中心で、検索エンジンを提供する純粋な会社としての地位はゆるぎないものだと思っています。
また、これは世界中で展開してはいないのですが、イントラネット上での情報管理・検索ツールである「箱入りGoogle」というパッケージをエンタープライズ向けに用意しています。顧客の例でいうとCiscoやBoeing、米国政府などですが、社内で検索機能が必要なほど情報にあふれている企業は数多いものなので、そのような企業にこういった企業内での検索機能を提供しています。それに加え、Googleでは企業のウェブサイト内を検索するようなツールも提供しています。日本でも日立やソニーなどがこのサービスを利用しています。
――アドワーズのようなターゲットを絞り込んだ効果の高い広告が普及するにつれ、オンライン広告の形が変わりつつあるのではないかと思うのですが、例えば通常のバナー広告などは少なくなっていくと思われますか。
Kordestani:効果が数字で見えないものであれば、存続は難しいでしょう。オンライン広告は数字が見えやすいものです。ブランディングを確立するような広告や電子メールマーケティングなど、いろいろな形の広告が入り込む余地はありますが、やはり一番効果が高いのはわれわれが力を入れているような、ターゲットを絞って結果が数字でしっかり見えるようなものでしょう。このような広告が広まり、オンライン広告の状況が変わっていくのはいいことだと思っています。
佐藤:オンライン広告は二極化しつつありますね。テレビ的な効果を狙うブランディング広告は、インターネットでもブロードバンドやリッチメディアを通じてテレビに近い効果があるということを立証しはじめているようです。このような広告は、テレビで広告を出しているような大手企業が積極的に行っています。ブロードバンドでいろんなサイトをゆっくり見ているユーザーはテレビに近い視聴感覚を持っていますから、このような広告も価値があると思います。一方その対極にあるのがわれわれのやっているような、投資効果を高くすることを目的とした広告です。検索サイトのユーザーは目的がはっきりしていますから、意味のない広告が出ても全く無視されてしまいます。逆に探している商品そのものの情報が出ていると、広告の方が便利な場合もありますしね。このように投資効果を追求するものと、ブランディングで認知してもらうという流れがはっきり分かれてきた気がします。
通常のバナー広告は今までそのあたりがあいまいで、ブランディングなのかトラフィック誘導なのかがはっきりしませんでした。ただ最近ではそういう面も整理されてきていますし、ネット広告そのものは効果が定義づけされつつあるので、今後は伸びていくのではないかと思います。インターネットのユーザー自体も増えていますからね。ブロードバンドユーザーを対象にした調査では、自宅で接触するメディアとしてインターネットは雑誌と新聞とラジオを足した数字より大きいという結果も出ています。それを思うと未来は明るいのではないでしょうか。
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