--あなたは今朝の基調講演で、ソフトウェアがまだ解決できていない問題として、音声認識、セキュリティ、そしてプレゼンスを挙げました。何がこうした問題の解決を阻んでいるのでしょうか。
革新のペースが落ちたわけではありません。音声認識の分野では、この10年間、誤差率が下がり続けています。しかし、まだキーボードをしのぐレベルには達していません。両者の関係がいつ逆転するかを正確に予測することは困難ですが、10年以内には音声認識は必ず主流の技術となるでしょう。その頃には、ほとんどの人が音声を使って電話をダイヤルするようになっているはずです。デスクトップでは、音声、キーボード、そしてペンが、目的に応じて使い分けられるようになるでしょう。
われわれは、言ったことは必ず実行します。IPTV(Internet Protocol Television)はその良い例です。10年前、私はIPTVの登場を予言しました。思っていたよりも時間はかかりましたが、この分野に早くから取り組み、投資を行ったことに満足しています。音声認識についても、同じ感覚を持っています。音声認識は必ず主流の技術となります。
--WinFSについてお尋ねします。WinFSはすばらしいアイディアだと思いますが、Microsoftのように膨大な数の顧客を抱えている企業が、こうした野心的なアイディアを実現するのは難しいのではありませんか。しかも、Microsoftの顧客のコンピュータには、さまざまなバージョンのWindowsがインストールされています。レガシー問題は、新しいオンライン技術を導入する際の障害となっています。現在、MicrosoftはWindowsの大幅刷新に取り組んでいますが、レガシー問題が足かせになることはないのでしょうか。
何事も簡単にはいきません。しかし、当社は非常によい位置につけていると思います。市場を熟知しているだけでなく、次の段階に最短距離で、できるかぎりスムーズに進むためにはどうすればいいのかを理解しているからです。私は一貫してWinFSを支持してきました。WinFSをクライアント版として提供することは、私の望むところではありませんでした。そうなるのではないかと心配してきましたが、現在はクライアント版を飛ばし、クライアント/サーバ版のWinFSを投入することが決まっています。WinFSに関しては、まだ多くの作業が必要ですが、次期SQL Serverにはその成果が組み込まれる予定です。骨の折れる作業ですが、うまくいけばすばらしい成果を期待できます。この技術は物事を飛躍的にシンプルにします。こうした大規模なプロジェクトを進めるためには、長期的なアプローチを取ること、そして時には高いリスクを取ることが必要です。今朝の講演で披露したOffice 12のユーザーインターフェースは、その良い例といえるでしょう。Office 12では、必要に合わせて表示されたり、非表示になったりする2次元メニュー構造が採用されることになりました。しかし、Officeは最も広く利用されているソフトウェアであり、人々は現在のインターフェースに慣れ親しんでいます。Office開発チームは熟慮に熟慮を重ねた結果、今回は後退する(2次元メニューを採用する)ことを決意しました。ユーザーは多少とまどうかもしれませんが、(慣れるまでに)そう時間はかからないと思います。
--オープンソースコミュニティでは、従来のライセンス販売モデルから、サポートを販売するモデルへの移行が進みつつあります。この動きには多くの人が参加していますが、あなたは懐疑的な見方を変えていません。それはなぜですか。これは根本的に間違ったモデルだと考えているのですか。
フリーソフトウェアと商用ソフトウェアは今後も共存していくでしょう。両者の間にはある種のバランスが形成されるはずです。どちらからも、新しいソフトウェアが次々と登場するでしょう。ソフトウェアの仕事がなくなるとか、プログラミングだけでは食べていけなくなるとかいう人もいますが、冷静に考えれば、こうした極論は誤りであることが分かります。互換性、24時間サポート、IPTVや音声認識への挑戦など、やるべきことはたくさんあります。われわれは今後10年をかけて、こうした困難な作業に取り組んでいかなければなりません。そのためには数億ドル、数十億ドルの資金が必要です。さらに、人材を雇用し、ライセンスを販売し、それに伴うリスクを取ることも必要です。
私は常に、安価な製品を大量に販売することが重要だと考えてきました。しかし、それは無償であってはなりません。ソフトウェアを利用することによって、ユーザーは労働時間、ハードウェア、そして通信費用を抑えることができます。その総額は、パッケージソフトの価格をはるかに上回るはずです。それに比べたら、ソフトウェアの価格は誤差の範囲です。システムが顧客にもたらす価値は、システムの価格をはるかに超えるものとなるでしょう。私はひとつのモデルに固執しているわけではありません。やり方はいくらでもあります。しかし、ライセンス料を放棄するような企業が、多額の研究開発予算を割いて、大学の研究室では対応できないような困難な研究に取り組むことはないと思います。しかし、それでも問題はありません。市場には--願わくは--商用ソフトウェア産業が存在するからです。この業界で活動する企業は、長期的な視野から投資を行い、新しいブレークスルーを促進していくでしょう。
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