Tony Liの行くところに成功ありと人はいう。
Tony Liはルータを設計するエンジニアで、Cisco Systemsでは同社初のコアIPルータの開発に尽力し、またJuniper Networksでは主要メンバーの1人として、吹けば飛ぶような新興企業だったJuniperを、業界第2位のIPルータメーカーに育て上げた。
1999年、LiはJuniperが史上最大規模の新規株式公開(IPO)を果たす直前に同社を辞めた。続いて、やはりルータメーカーのProcket Networksの設立に参加し、チーフ・サイエンティストに就任する。以降、5年にわたって多忙な日々を送ることになったが、今年に入ってProcketを退職した。
Liの在職中に、CiscoやJuniperは市場を支配した。6月17日(米国時間)、これまでに3億ドル以上の資金を集めたといわれるProcketを、Ciscoが8900万ドルで買収する計画であることを両社は明らかにした。
Liは多くの人から、IPネットワーク業界でもっとも聡明な人間の一人とみられている。完璧主義者を自認するLi自身も、一部の同僚から自分が「扱いにくい人間」と思われていることを認めている。彼が物議をかもす形で3社を去った理由は、このあたりにあるのかもしれない。
このインタビューはCiscoがProcketの買収を発表する少し前に行われた。Liはカリフォルニアの自宅から、1時間に及ぶ電話取材に答え、過去の雇用主たちを次々を切り捨てたほか、スター扱いをされること、そしてIPルーティング市場とインターネットの次のトレンドについて言及した。
--JuniperはCiscoに対抗できる唯一のコアルータ・ベンダーです。なぜJuniperは成功したのでしょうか。
信頼性の高い、すぐれたコアルータを開発できないCiscoに顧客はいらだっていました。Ciscoは無難な行動をよしとする硬直した組織になっていました。一方、インターネットは急速に成長していた。進化したインターネットに見合うシステムを提供できなかったのですから、Ciscoは成長の阻害要因だったといっても過言ではありません。Juniperが成功したというより、Ciscoが失敗したのです。
--あなたはCiscoを辞めた後、設立後間もないJuniperに移りました。そして1999年にはIPOを目の前にしてJuniperも辞めてしまいます。なぜですか。
次に進む時期だったからです。いろいろと問題も起きていましたし、次のチャンスを探す時期でした。
--ストックオプションのことを考えると、大金を手に入れるチャンスをふいにしたのでは。
多少はもらいそこねたでしょうが、惜しいと思うほどではありません。私は金がすべてと思わない変人の一人なのです。
--Procketは方々から約3億ドルもの資金を集めたにも関わらず、ここにきて身売りの噂が流れています。資金が底をついたとは思えないのですが。
私にいわせれば、隠し資産でもない限り、Procketの尻には火がついているはずです。そろそろ、資金が底をつく時期でしょう。
--CiscoがProcket買収に関心を示しているという噂がありますが、この組み合わせはうまくいくと思いますか。
Ciscoの真意は分かりませんが、ハードウェアの製品ラインを拡充し、ソフトウェア分野の人材を獲得することが目的なら一理あります。しかし、Ciscoの新しいルータ「CRS-1」を開発したチームは面白くないでしょうね。
--Procketの買収価格は8000万ドルから1億ドルと見られています。この価格をどう思いますか。
身内のひいき目もあるでしょうが、その程度の金でProcketの技術を手に入れることができるなら、破格の買い物だと思います。
--一時はシリコンバレーの寵児だったProcketが、なぜこのような状況に陥ったのでしょうか。
経営の失敗です。特に最初の頃の失敗が深刻で、物事は進まず、売り上げは立ちませんでした。計画通りにことを運ぶことができず、開発コストが予想以上にふくれあがった、それに尽きます。
--過去にも提携の話はあったのですか。
ええ、いくつも。具体的な社名は出せませんが。
--あなたが前CEOのRandall Kruepと不仲だったことはよく知られていますね。
Randallとはうまくやろうとずいぶん努力しました。たいていは取り付く島もありませんでしたが。彼の辞職と私はまったく関係ありません。彼には辞めて欲しくなかった。むしろ、彼の辞職を悲しく思ったくらいです。
--なぜProcketを辞めたのですか。新しいCEOのRoland Acraを招いたのはあなただと思っていました。
CEOの座におさまったら、私の助けは要らなくなったようです。残念なことでした。
--あなたは扱いにくい人間だといわれていますね。激しやすいタイプだという人もいます。
そうですね、私は完璧主義者で、気が短いことも事実です。ときにはかんしゃく玉が破裂することもある。他人をいらつかせる才能もあるようです。相手が理性的に話し合おうとしないとき、事態はかなりこじれます。私は会社の利益を常に心がけていますが、自分のエゴを優先する輩もいるのです。
--あなたはルータ・コミュニティでもっとも優れたエンジニアの一人と見なされています。あなたが関与しているというだけで、ベンチャーキャピタル各社は新興企業にも巨額の投資を行うでしょう。ロックスターのような扱いを受ける理由は何だと思いますか。
まず、私はロックスターではありません。こうした噂の大半は他人が勝手に作り上げたもので、私にはどうすることもできませんでした。もちろん、自分がスターの名に値する人間だとは思っていません。私はエンジニアです。私の第1の目標は製品を売ることではなく、顧客をハッピーにすることです。それに、私には奇癖もある--たとえば、本当のことをいうとか。顧客は感謝してくれますが、会社はそうとは限りません。
--Procketを辞めてからは、何に取り組んでいるのですか。
いくつか関わっているものはありますが、このインタビューには関連のないことです。
--次もやはり新興企業ですか。
可能性は高いでしょうね。大企業に入るくらいなら、新興企業で働く方がはるかにいい。行動し、結果を出すのが私のスタイルです。私は自由が好きです。大企業につきものの回りくどいやり方は私の性に合わない。今のところ、次にどうするか具体的には検討していませんが、いいところはないかと目を光らせているところです。
--今、コアIPルータには何が求められているのでしょうか。
顧客が求めているのは、一度インストールしたら5年から10年は持つシステムです。そのためには基本的なインフラを変えることなく、向こう10年間はインターネットの進化に対応できるようなアーキテクチャが必要です。
--先月発表されたCiscoの新しいコアルータCRS-1をどう思いますか。Ciscoによれば、毎秒92テラバイトものデータを処理できるとか。
一言でいって力不足です。思っていたよりはずっと性能がいいようですが、この程度ではとうてい足りない。先見の明のある企業、インターネットの成長を理解している企業は失望することでしょう。
--今のところ、市場はCiscoとJuniperが二分しています。第3のベンダーが参入する余地はありますか。
もちろんです。伝統的な通信市場を見てください。常に多くの企業がひしめいている。問題は、どの企業がインターネットの成長に遅れを取らずに新しい技術を開発できるかです。
--IPルーティングの次の大きなトレンドは何でしょうか。
インターネットの成長と共に、光の領域で非常に興味深いものが出てくるでしょう。光ルーティングというより、光トラフィックエンジニアリングの話です。いくつかのIPトラフィックエンジニアリング手法は、光レイヤーに転用できることが分かっています。これを利用すれば、キャリアはトラフィックの需要の変化に合わせて、光回路を迅速に配置、提供できるようになるでしょう。
--そうなれば、キャリアはコストを削減できるのでしょうか。
これまでよりも安価にネットワークを運用できるようになるはずです。また、競争優位につながる可能性もある。現時点では、OC-48回線を使いたいという顧客がいても、半年近く待ってもらわなければなりません。時は金なりです。もしOC-48(2.5Gbpsの光接続)を1時間で提供できるなら、競合他社との差別化要因になるでしょう。
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