ネットインフラを巡って“ただ乗り”に対する批判が再燃している。
最初の批判は2004年の日本で展開された。WinnyなどのPtoPソフトにより通信トラフィックが急増し、基幹通信網(バックボーン)が耐え切れず、インターネットが崩壊するのではないかというものだった。実際にはバックボーンのキャパシティにはまだ余裕があり、この時は杞憂でしかなかった。
そして今回は、2005年後半から米国で火がついた。
Verizon CommunicationsやSBC Communications(新AT&T)などの地域電話会社は、GoogleやYahoo、Microsoftなどのネットアプリケーション企業、さらにはVonageなどのIP電話事業者に批判の矛先を向けたのである。「膨大なトラフィックを消費しているのだから、追加コストを負担すべきだ」と。
さらに、この3月2日には、民主党の上院議員であるRon Wyden氏から「インターネット無差別法(Internet Non-Discrimination Act)」が提出された。地域電話会社などのネットワーク事業者が、インターネット接続を妨害したり、接続速度や品質を低下させるなどしたりすることで、有料サービスに加入する企業のみが優先することを禁じているものだ。いわゆる「優先接続サービス」の禁止を狙っているのである。
優先接続サービスとは、料金を多く払ったユーザー企業に対して、通信会社が優先的に帯域または回線を割り当てるサービスのことだ。GoogleやMicrosoftのように、大量のトラフィックを発生させている大手サービスプレーヤーに向けられたものだ。何が何でも通信料金値上げをしたい通信事業者は、優先接続サービスを実施したいようだ。同時に、通信事業者としては、「ネットワーク上のトラフィックを膨大に消費するサービスプレーヤーをけん制したい。このトラフィックの膨大な利用が、設計時におけるネットワーク設備のキャパシティ以上の負担をかけている」という思いもあるだろう。
2006年3月6日、米通信大手の新AT&T(母体はSBC)は、地域通信3位のBellSouthを670億ドル(8兆円弱)で買収すると発表し、新新AT&Tが誕生しようとしている。もう一方の雄であるVerizonとで、事実上の2社による“複占”体制になる見通しだ。
バックボーンのキャパシティが逼迫しているなどの証拠を見せずとも、寡占市場であれば、もともとバーゲニング(取引交渉)パワーは高いため、価格交渉を有利にできる。それがAT&TとVerizonの2社による複占市場になれば、そのパワーは一気に高まる。地域電話会社が所有するネットワーク上のサービスプレーヤーに対して、価格交渉が有利にできる。当然、両社は「インターネット無差別法」には反対している。
通信会社とサービスプレーヤー間での取引は、通常、当事者間のパワーバランスという合理的な尺度により決定される。問題は、通信会社もサービスプレーヤーも独占または寡占的な立場にあるため、市場のメカニズムが機能しにくくなることだ。いきおい、その取引が“談合”的なものとり、必要以上に価格が高止まる可能性も小さくない。
やや専門的になるが、同一業界での関係企業の振る舞いを問題にする談合のなかでも、「明示的談合」と「暗黙的談合」は異なる。後者の暗黙的談合は企業の協調戦略に過ぎないが、前者の明示的談合の場合、政府当局による横やりが入る。政府当局がこうした取引を監視することが市場の健全性を保つためには必要ある。
しかしながら、通信会社とサービスプレーヤーが同一業界にあるかどうかというと、必ずしもそうではない。ただ米国での双方は、同一業界には位置しないとはいえ、寡占・独占的な地位を享受している企業群であるため、双方の取引結果次第で、消費者への利益が損なわれるとすれば問題視される。米国での立法化の動きには、このような事情もあるのだろう。
わが国においても、一見同様なことが起こっているように見える。米国の動きに便乗することはよくあるが、実際はどうであろうか。
2006年の初め、NTTコミュニケーションズの和才博美社長が、真っ先に「GyaOは我々が構築したインフラに“ただ乗り”している。許される行為ではない」と痛烈に批判した。そして、続く1月18日の定例会見で、NTT持ち株会社の和田紀夫社長は、インフラへのただ乗りを理由に無償のIP電話ソフト「Skype」を糾弾。Skypeが映像を扱い始めたことを指摘し、「ネットワーク設備の拡充に関して強い危機感を持っている」と訴えた。その後も、総務省の懇談会などで繰り返し同様の主張を展開しているという。この主張は、電力系通信事業者からも起こっている。
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