無料コンテンツのススメ

 友達の音楽CDをコピーしたり、Napsterのようなファイル交換サービスで曲を手に入れることは、窃盗行為以外の何物でもない。

 このような日常的行動を正当化しようとする音楽ファンは、創造性もないのに高収益をむさぼる音楽業界に対する経済的ボイコットに賛同しているだけだと主張する。レコード業界はこれを「ネット上のスリ」と反論し、分かりにくくて面倒な著作権構想を人々に押し付けようとしている。

 戦いは激化し、訴訟費用は膨らみ、音楽の喜びが失われていく。しかしその中で、解決方法が少しずつ見え始めている。津波のような泥棒行為を根本から断ち切る一番うまい方法、それは音楽を無料にすることだ。

 コンテンツの無料化は決して珍しいものではない。広告収入という補助金に支えられているテレビ放送は、少なくとも視聴者にとっては無料だ。ラジオや多くのコンサート、スポーツイベントなども同様である。音楽配信の経済構造に劇的な変化が起これば、今は料金を請求しているサービスでも、明日には無料化されるかもしれないのだ。

 どうやって無料化を進めるか理解するために、全く違う業界に目を向けてみよう。音楽と驚くほどの類似点があるのは、実は19世紀の薪炭配達業者だ。1800年代終盤、アパートの住人は冷え切った部屋を暖めるために炭の行商人から直接炭を買い、重い炭のバケツを引きずるようにして4階の台所まで運ばねばならなかった。しかし、このような炭の販売方法は、炭売り業者に深刻な問題をもたらした。

 各地で炭泥棒が流行したのだ。町のごろつきに品物の半分を奪われてしまったという炭売り業者の話が頻繁に流れた。特許付きの炭箱専用の鍵など、盗難防止対策が数多く提案されたが、最終的に問題を解決したのは全く別の事柄だった。セントラルヒーティングと名づけられた新しい配給システムが普及し、炭を盗む意味が無くなったのだ。

 炭業者は、一度に大量の商品をアパートの家主に販売するという効率のいい商売を始めた。そしてこのお陰で、住人が炭を盗む必要もなくなったのだ。家主は月々の家賃に暖房費を上乗せするが、それでも住人にとって大きな節約となる。炭泥棒の家族でさえ得をしたのである。

 これと同じように、配給の低価格化と補助金付き無料サービスを導入すれば、音楽業界の救済と変革につながるだろう。音楽を盗む意味がなくなるからだ。

 無料化を進めるにあたって、今度はいくつかの数値を見てほしい。米国の音楽業界は5000万人の音楽ファンに対するCDの売上げで年間120億ドルをかき集めている。一人当たりの年間平均購買額は250ドル、アルバム数にして15枚ということになる。

 さて、年間250ドルというのは非常に興味深い数字だ。来年までには、250ドルで100GBディスク付きのMP3プレイヤーを買えるようになるだろう。そのディスクにはCD2000枚分の音楽を収録でき、1日15時間ヘッドホンをつけっぱなしにしても、全曲を聴くには4カ月かかる。たいていの人にとって、少しでも興味のあるクラシック、ジャズ、ロックを全部集めても2000枚分あれば十分だ。夏休み中音楽を聴き続けようと思う人にとっても、これはちょうどいいくらいの枚数だ。ともかく15枚をはるかに上回る。

 このような計算をすると、ぴかぴかのプラスチックディスクにアルバム1枚分ずつ音楽を録音して販売するのは、台所を炭で暖めているのと同じではないか。音楽業界に限らず各業界のマーケティング担当者にとって、顧客獲得のための投資額として250ドルは決して高すぎる額ではない。特にスポンサー付きのプレイヤーを1日に15時間も身につけている熱狂的音楽ファンを獲得できるとすればなおさらだ。

 こんな例を想像してみてほしい。「Kiaの新車をお買い上げの方には1台につきアルバム100枚プレゼント」、「ボストン交響楽団の生涯会員メンバーシップを購入した方には世界最高のクラシック音楽セレクション2千曲分のライブラリー付きMP3プレイヤーをプレゼント」、「新しく携帯電話の契約を結んだ方には3万以上のインディーズバンドの曲を無制限で聴くことができます」――いかがだろうか。

 ほんの1社が先陣を切りさえすれば、音楽業界の型を壊すことは難しくない。MP3プレイヤーメーカーの中で先陣を切る可能性があるのは、画期的商品iPodを発表し、反骨精神のある一部顧客の心を掴んでいるApple Computerか、音楽配給部門よりもプレイヤー機器で稼いでいると噂されるソニーだ。または、失うものが少ない中国のローカルブランドにも可能性があるかもしれない。

 それではアーチストや音楽事務所や顧問法律家はどのように報酬を得るのだろうか。今度は炭業者の例ではなく、もっとミュージシャンの世界に近い業界である米作曲家協会(ASCAP)から答えを探ってみよう。ASCAPは音楽に著作権を付与し、音楽を演奏する場所(ラジオ局・コンサートホールなど)から印税を集めてそれをアーチストに再配分している。配分額は誰の曲がどのくらいの頻度で演奏されたかといった調査結果により決められる。

 MP3の還付金額を決めるためには、匿名で希望者を何名か募り、サンプルとしてその数名のプレイヤーに保存してある曲歴を定期的に報告する、という方法も考えられる。そうすればASCAPのように、音楽を提供する側(Kiaやボストン交響楽団など)から集めた代金を著作権所有者の間で分配することができるだろう。

 そうなれば私たち消費者も、やっと好きな場所で好きな時に好きな方法で音楽を聞く自由を獲得することができるのだ。

 これが音楽業界の未来だ。もし耳を傾けてくれる人がいればの話だが。

筆者略歴
Greg Blonder
米国ニュージャージー州のベンチャーキャピタルMorgenthaler Venturesのジェネラルパートナー。

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