事業開始からキャッシュフロー黒字化への道程
キャッシュフロー経営という言葉が急速に広まりましたが、ベンチャーのスタートアップはまさにキャッシュフロー経営そのもの。つまり、出て行くお金を可能な限り制し、入ってくるお金を増やすことにつきます。会社設立から営業開始までは、出ていくお金しかありません。では入金はいつあるのでしょう?いろんな準備を終え、商品・あるいはサービスをようやく完成させ、テストののちに営業開始し、しばらくして初受注し、商品・サービスを送り届け、請求書を送り、その翌月にようやくはじめての「入金」があるのです。
サラリーマン時代は、経理担当におまかせで、気にもかけなかったことですが、初めて銀行通帳に入金があったときの感激は起業家として一生忘れられないものです。それほど人様からお金をいただくのは大変であり、かつありがたいことです。
さて、この入出金のバランスがとれ、ついに入金が出金を上回るようになったときが月次のキャッシュフロー黒字です。ベンチャー立ち上げのゲームは、集めた資本金をつかって事業を開始して、資金が底をつかないうちにこのキャッシュフロー黒字までなんとかこぎつけることができるかどうかのゲームといってもいいでしょう。ただ、通常、ベンチャーは、最初の資金調達では足りないので、事業の骨格ができてくると、第三者割り当て増資などの増資活動をおこなって資金をつなぎます。なにしろ、キャッシュフローの黒字化が命です。そのときまでに会社のお金が尽き、借り入れも増資もできなければ、一巻の終わりです。逆に黒字化がみえてくれば、明るい未来が見えたのと同様、増資もやりやすくなります。
増資という試練
以前IPOは社歴ン十年の同族企業が証券会社の後押しでおそるおそる行うものでしたが、新時代の起業家は、あらかじめ5年以内の上場を見据えて準備します。そのIPOまで2、3回程度の増資の必要があります。起業家には、創業の試練を乗り越えた後、事業を発展させながら増資も成功させていくという次なる試練が待ち構えているのです。
典型的に申しますと、まずは3000万円程度で創業し、営業開始後しばらくして1〜2億円を増資。さらに発展にともない2、3年後に3〜5億円程度を増資によって得て、合計4〜7億円を調達。創業4、5年目でIPOを果たし、そのときさらに10億円くらいを公募で増資、というパターンです。こうして、新しい公開企業が続々と巣立っていき、産業の新陳代謝がおこなわれる。それが私の理想とするベンチャーエコノミーの姿です。
話を増資にもどしましょう。
増資の目的には、主として3つのパターンがあります。ひとつは事業の発展に伴う増資。つまり資本金を増やし、事業をさらにスケールアップする前向きの増資です。望ましい姿です。ふたつめは、株主構成を変える増資。有力企業からの資本参加や、起業家自身のシェアをさらに高めるための増資などです。3つめは、危機脱出の増資。創業時の計画どおりにはいかず、資金がもっと必要なことがわかって、あるいは資金繰りが苦しくなって増資しなければならないという、切迫した増資です。3つめの場合、増資に応じる投資家を探すのがより難しいことは申すまでもありません。
好調でも不調でも増資は不可避
つまり事業が好調に推移しても、またうまくいかなくても増資の必要性に迫られるわけです。実際、瀕死の状態からなんとか増資を成功させ、その後順調な発展軌道にのった例も多々あり、後者の場合でも、増資が絶望というわけではありません。
ただ、増資は手間と時間がかかります。いきなりお願いしてもすぐOKする出資者が見つかる可能性は非常に薄いです。増資の実行目標の半年以上前から綿密に準備する必要があります。投資家候補リストをつくり、順番にアポイントをとり、説明し、何度かのやりとりを行い、増資のOKがでるまで、3カ月くらいはすぐたちます。起業家としては事業の立ち上げでただでさえ大忙しなのに、それに加えてさらに増資にかなりの時間が割かれるのです。理想をいえば、女房役のような財務担当者が増資活動をしてくれればいいのですが、ほとんどの場合、そんな贅沢な状況にはないでしょう。創業するだけでも大変、事業の立ち上げも大変なのに、起業家にとって、さらに押し寄せるいわば綱渡りの試練の連続です。
次週は増資の具体的な駆け引きについて述べましょう。
(以下つづく)
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