これまでのように、家電がハードワイヤード(ハードウェアの設計のみで性能やユーザーエクスペリエンスが規定される機器)であれば、ハードウェアの設計、あるいは製造に必要な設備の充実にはかなり長期的な体制で臨む必要があり、その発想の下で は詳細な戦略の策定など悠長なことは言ってはいられないのかもしれない。
しかし、ハードワイヤード型の産業モデルでは、製品レベルでユーザーごとに求める内容が異なることに対して、多様なエクスペリエンスの提供するのが困難だ。そして、産業構造のレベルでは、製品そのものを提供するために必要な整備と、需要の成長の時系列位相が異なるため大きな波が生じ、時として暴落ともいえる価格崩壊が不定期に発生するなどの性格があった。
そのため、PCではハードウェアとソフトウェアという二つのモジュールに製品を区分し、構造的な揺らぎが産業全体に波及することを押さえ、と同時にエクスペリエンスの多様化についてはソフトウェアで吸収し、ネットワーク経由でエクスペリエンスの 進化の余地を提供することが可能にしている。家電でも、その程度の差こそあれ、同様の仕組みを導入することで、既存の課題をある程度まで回避できるに違いなく、結果、生き残りを単に規模やラインナップの絞込みにのみすがる必要もなくなるはずだ。
ゆえに、単に製品開発力の弱点を補う程度のものであれば再編などという大仰なことをする必要もない。単に調達でこと足りるのだ。提携などによってエクスクルーシヴに魅力的な技術や製品力を確保できるのであれば、資本提携も選択肢の一つになるだろ う。しかし、同時に技術として他社にライセンスするという魅力的な収益オプションを失う可能性もあるというジレンマを抱える。
このようなジレンマを乗り越えるためにも、これまでにない製品のポジショニングを作り上げるという、製品ジャンルを超えたイノベーションをこそ実現するための再編が必要ではないか。これまで仮想敵としてきた総合家電企業という名のライバルは、地球上からすでに姿を消している。日本に固有の種となった総合家電メーカーの進化の道は、ゆえに規模ではなく、イノベーションであるのは明確ではないかと思うのだが。
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