検索をベースに圧倒的な影響力を持つGoogleが、eBay傘下PayPalのライバルとなる支払いサービスを提供するという。ネット上のテキスト検索サービスから、その周辺領域へ着実に歩を進めてきたGoogleだが、クリック広告などに引き続きユーザーの行動を直接取り込む支払いサービスで、さらにネットとリアルの接触領域を広げつつある。そんなGoogleに対抗するための方向性とは、どのようなものがあるのだろうか。
ネットはテキストで構築されている、といっても過言ではない(もちろん、ファイルの名称などはともあれ、テキスト形式で記録されているということだ)。そのため、ディレクトリの構造やファイル構成、数時間にわたるインタビューの記録や、誰かのウェブサーフィン(もう死語に近い表現ですね)の記録や買い物の履歴、そしてブログに記された意思や記憶、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の中の人々のつながりも、ログやタグというテキストの形式で記述される。そして、それらはすべてGoogleの検索の対象となる(もちろん、Googleだけではなく、当然のことながらYahoo! Search Technology(YST)やMSN Searchの対象でもある)。しかし、これらはいわば過去の記録でしかない。
これに対し、Googleは過去にだけこだわらない。Googleは過去の履歴を上手に編集して、現在に作用し、未来を変更することに熱心だ。すなわち、AdWordsやAdSenseなどによって、本来オーガニック検索では下位にしか表示されなかったものやエントリに直接言及されていないような情報を、対価を取って人々の目に触れる位置にもってくる。すなわち、ビジネスとしての価値が大きい。また、今度は支払いサービスの導入で、これら広告によって変更された行動をさらに追跡し、具体的な購入を行ったかどうかまでも把握するという。
すなわち、ネットとリアルとの接点をより強め、単に過去を検索するのではなく、現在の行為をネットに反映するプロセスに介在し、リアルの行動をコントロールしていく方向に動いているようだ。広告や支払いなどの行動履歴情報は検索の対象として取り込まれ、さらに未来の変更のために有力な情報として取り込まれていく。
検索エンジンとテキスト広告に加え、支払いサービスを実装することで、米国ではeBayやAmazon、日本であれば楽天などのEコマース系のサービスプレーヤーは大きな影響、場合によっては破壊的なものを受けるに違いなく、いよいよGoogleの存在感は強まっていくに違いない。
とはいえ、最近の論評やブログなどのエントリを見ていると、Googleを一方的に「神」だの、「悪魔」だのと称える(あるいは、畏れる)傾向がある。まあ、2ch的なシンボルとして「(イジれる対象としての)神」であれば結構だが、Googleを「あちら」の存在=「すでに在るもの(超えられないもの)」としてとらえ、アニミズム的な発想の下で崇拝の対象とし、思考停止してしまうのはあまりに情けない気がする。
「Google=超越存在」としてとらえてしまう錯覚が、思考の枠組みの中に潜んでいるのではないかと思う。すなわち、さまざまなネット上のサービスやプレーヤーを並列して認識しているつもりでいても、その影響力や関連性から検索などの汎用的な機能を提供しているプレーヤーは存在感が大きく感じられる。結果、ほかのすべてのプレーヤーを飲み込んでしまっている印象を形成してしまっている可能性がある。
本来、汎用的な機能を幅広い対象に提供する者(プラットフォームプレーヤー)は、個別のサービス提供者とは異なる性格をもった存在であり、必ずしも同じレベルで論ずることはできないからだ。そして、まさしくGoogleはプラットフォームプレーヤーである。異なるレイヤーに存在する、ということだ。しかし、異なるレイヤーといっても、そこは冥界でも、天界でもないことだけは事実だ。
かつて、「インターネット上にあまねく存在するテキストデータを検索する」という典型的なプラットフォーム領域では、「検索だけでは金にならない」として多くの検索プレーヤーが金になりそうなポータル事業の拡大にうつつを抜かした。さまざまな「(本来の検索とは異なる性格であり、資源を要する)ディスティネーションサービス」を取り揃えるという体力勝負に挑み、相互にその経営資源を消耗しあう競争に入ったのだ。そのとき、ただ黙々と検索という機能だけに特化し続け、検索の効率と範囲を広げ、検索機能から派生したAdWordsやニュース、ローカルなどのデリバティブ・サービスのみを、ウェブ画面上で、あるいはAPIを通じて提供していくスタンスを選んだGoogleが結果的に勝利した。
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