米国で、Yahoo!とMicrosoftの両社が提供するインスタントメッセージ(IM)サービスの相互乗り入れが2006年第2四半期から実現することが発表された。このことはIM単体でのビジネスは成立しないこと、そして従来の交換機を前提とした電話ネットワークサービスが事実上崩壊したことを意味する。では、はたしてIMは単にIMであることをやめ、電話に代わるコミュニケーションインフラになっていくのか。
日本では通信ジャイアントのNTTグループに対抗してKDDIとパワードコムの合併が発表された。これにより、これまで以上のスピードで現在の2300万世帯≒日本の全世帯の半数がすでに加入しているブロードバンド環境がますます充実・拡大していくことが予想される。それに先行して、米国では常時ブロードバンド接続環境でこそ真価を発揮するMicrosoftのMSN MessengerとYahoo! Messengerの相互接続の計画が発表された(関連記事)。この記事によれば「インスタントメッセージの交換、相手の接続状態確認、顔文字のやりとり、両サービスからの友人の登録、PC同士の音声通話」において両社が提供するIMサービス間で相互乗り入れが実現するのだという。
これまでにも、Microsoftが企業向けIMシステム「Live Communications Server(LCS)」を介して、AOL、Yahoo!、そしてMSNが提供するIMの相互乗り入れを実現する機能を提供してきてはいるものの、それはLCSを利用する企業内部環境でのみの話(AOLやYahoo!は、それぞれ法人向けIMを開発・提供してきたものの、数年前に事業化を断念したという背景がある)。これまでに、多くのユーザーが望んだものの、IMユーザー全体を対象とした主要IMサービスの相互接続は実現していなかった。
CNETの別の記事によれば、米国では依然としてAOLインスタントメッセンジャーが5150万人と圧倒的優位を保ち、MSNとYahoo!のユーザーはそれぞれ2730万人および2190万人で2番、3番の地位を占めているに過ぎない。ましてや、AOLはIM元祖のICQを依然として擁しているため、IM市場においてMicrosoftやYahoo!以上の存在感を持っている。しかし、米国におけるIMの利用は日本以上に活発なこと、多くのIMユーザーは複数のIMサービスを利用していることなどを考慮すると、いかに2番3番であってもその相互接続のインパクトは大きいに違いない。
とはいえ、IMは日本ではさておき、非常に人気のあるサービスであるにもかかわらず、これまでカネになりそうでならないという、提供者泣かせのサービスであった。実際にはそれ以上の重荷だったかもしれない。膨大なインフラの整備と運用が必要で、そのサービス品質は無料提供されているものであってもサービス提供者のブランド評価に直結してしまうからだ。
そもそもはポータル事業者やISPのユーザー囲い込みのツールとして育ったIMだったが、ダイアルアップ接続から常時接続へとユーザー環境が大きく動く中で、誰もが任意にIMサービスを選べ、無料で利用することができるようになった。次々とISPやポータルが独自のIMサービスにより同市場へ参入しても成功せず、結局は初期に大量ユーザーを確保したAOL、MSN、Yahoo!のトップ3のみが生き残ってきているに過ぎない。
これらのサバイバーは、すでにIM以外の事業による収益で十分に成立しており、IMを次なるサービスの窓口にしようと様々な試みを続けるには十二分な体力を持っているところばかりだ。
とはいえそのトップIM提供者も、ボランティアを決め込んできたわけではない。一部プレミアムサービスの一環などとして有料機能をIMに付加し、単独での事業化を何度も試みてきた。ただ、スポンサーバナーに有料アラートプログラム、法人向けIMサービスの提供など、それら努力がことごとく水泡に帰してきただけなのだ。
公衆電話網など外部ネットワークへの音声接続サービスといった一部の有料サービスを除き、基本的に同じサービス内であれば無料でIMユーザー同士のチャットや通話は提供され続けてきた。いかにインターネットのトッププレーヤーであっても、IMはユーザーが大量に存在するもののカネを取れないという、ある意味で「困ったちゃん」的な存在だったに違いない。
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