安値圏でもがくソニーの業績回復はピンぼけ

 2005年の大型連休中、ソニーの株価は4000円を挟んでの小幅な値動きとなっていた。4月27日に同社が発表した2005年3月期の連結決算と、2006年3月期の業績見通しを受けて、株式市場はその収益回復の遅れに警戒感を強め、株価は4000円を割り込んだ。

 2005年3月期の連結決算は、売上高が前々期比4.5%減の7兆1596億円だったが、リストラ費用の減少などで営業利益は同15.2%増の1139億円、純利益は同85.1%増の1638億円と2期ぶりに増益となった。

 事業部門別では「スパイダーマン2」がヒットした映画部門や、ソニー生命などの金融部門、家庭用ゲーム機「プレイステーション2」などのゲーム部門で利益を上げた。しかし、デジタル家電製品の価格下落により、主力で全売上高の70%を占めるエレクトロニクス部門の営業赤字は前々期の68億円から343億円へと大幅に拡大した。液晶テレビなどの価格下落で収益が悪化している。オーディオ事業部門でも、アップルの携帯デジタル音楽プレーヤー「iPod」に先行を許し、57億円の営業赤字に転落した。そこで、ソニーはiPodへの対抗機として「ネットワークウォークマン」を発売し、液晶テレビでも韓国サムスン電子と液晶パネルを合弁生産するなどの対策を進めている。

 2006年3月期の連結業績予想は、売上高が前期比4%増の7兆4500億円、営業利益は同40%増の1600億円、純利益は同51%減の800億円を見込んでいるが、この数字には厚生年金基金の代行返上(※)に伴う利益約600億円が含まれており、実質的には営業減益の予想となる。厚生年金基金の代行返上益という特殊要因を除いた営業利益は12%程度の減益となる。主力のエレクトロニクスの回復が遅れており、「コスト削減が価格低下に追いついていかない状況が続いている」(井原勝美副社長)としている。フラッシュメモリ内蔵のポータブルプレーヤーなど個々にはヒット商品は出てきてはいるものの、事業環境は厳しいと判断せざるを得ない。

 こうした今期の業績見通しを踏まえての証券各社のアナリストの判断では強弱感が対立している。三菱証券は4月28日付けのリポートで「エレクトロニクス事業が低迷、2005年度営業利益は減益になる。しかし、ハワード・ストリンガー新CEO、中鉢新COOなど新経営陣による経営戦略説明会は7月ごろに開催が予定されている。この厳しい環境下に対応できる具体的な行動計画が提示されることが期待される」として、株価判断では「A」(強気)を継続している。

 さらに、CSFB証券では4月28日付で「これ以上の株価下落は買いのシグナル」とし投資評価「アウトパフォーム」(強気)、目標株価5000円を継続している。そして、直近における株価下落は(1)2005年3月期実績の業績下ぶれリスク、(2)PS3の発売遅れ、(3)円高シナリオを反映したものであり、これらは今回の決算発表で大きな不安要因にならなかったからであることを理由に、これ以上の株価下落のリスクは小さいと判断、さらに注目の2006年3月期営業利益において代行返上(600億円)の影響は限定的であるとも指摘している。

 しかし、一方で大和総研では4月28日付けのリポートで「大和総研が考える平均的な(ソニーの)営業利益は、映画事業と金融事業合計の営業利益が1000億円、ゲーム事業の営業利益が1500億円程度まで改善し、さらに増益が見込める段階になる必要がある。1999年3月期以降で1550億円を上回る営業利益を出したのは2001年3月期だけしかない。今回の構造改革も決して成功したとは言えず、営業利益段階で3300〜3500億円程度までの改善は現在の同社にとっては低いハードルとは言えない」として、株式レーティング「4」(やや弱気)を継続している。

 ソニーの過去の株価推移から判断すると、現在の株価水準はほぼ底値圏にあると判断できそうだ。しかし、当面の業績見通しで急速な改善が望みにくいことも確かで、今後短期間で、日経平均や、TOPIX(東証株価指数)を大きく上回って上昇する可能性は少ないといえそうだ。

※厚生年金の代行返上:通常サラリーマンが加入している公的年金が広い意味での厚生年金で、その基礎部分を成すのが厚生年金本体で、通常誰でも加入しており、政府の方針で運用している。
このほかに、大手企業(あるいは中小企業の場合は同業者健康保険組合など)が退職金制度として厚生年金の上乗せ分として追加的に設立している「厚生年金基金」がある。この厚生年金基金は、厚生年金保険料の一部を年金基金と一緒に運用することが許されており、これを「代行部分」という。
 厚生年金と年金基金は基本的に別勘定のものである。では、なぜ代行部分があるかというと、運用規模を大きくして基金を安定させるため。運用基金は規模が大きい方が分散投資もしやすくなり、収益は安定する。また、代行部分は運用が一定利回りを超えた分は基金の収益とすることができるというメリットもあった。
 ところが、バブル経済崩壊以降のように、極端な低金利や株価の下落により資金の運用環境が悪化すると、利回りを生むどころか、代行部分がかえって「逆ザヤ」として企業の追加負担となり、業績自体を大きく圧迫する事態に陥ってきた。そこで、政府は企業がこれ以上のリスクと負担を負うことを避けるために、代行部分の運用を本来の厚生年金へ返上することを2002年から認めた。
 したがって、2002年以降、この代行返上をするために運用していた株式を売却して現金化して返上しようと動きが続き(現金での返上が原則とされ、物納要件は厳格なものとなっている)、代行返上が株式の需給悪化による相場の低迷を招き、いっそうの運用利回りの低下をもたらすという悪循環が続いていた。しかし、ここにきてようやく代行返上売りは下火になり、株価の上昇を抑える要因ではなくなりつつある。また、2003年3月期の決算以降の特徴として、代行返上利益を特別利益に計上する会社が多いことが指摘されている。

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