前編からの続き(掲載が遅れたことをお詫びいたします)。
小池:ライブドアに強制捜査が入った1月16日の出来事を教えてほしいんだけど。
田中:16日は、夕方に確か第一報が流れたんですよね。私は麹町の自分の事務所にいました。その時にうちの妻から連絡を受けて。
小池:最初の一報は奥さんから?
田中:そうです。
小池:それはニュースがばっと流れたときだね。それを見て奥さんから電話が掛かってきたんだ。
田中:そうです。「大丈夫?」と電話が掛かってきて、「何が?」と言ったら、「ライブドアに証券取引法違反で強制捜査が入るみたいよ」と言うから「えっ?」と言っていた。私もその時は全然わからなかったんです。強制捜査、証取法違反と言われても全然わからなくて、とりあえず事務所に戻って、そうしたらインターネットでだんだん情報が流れ初めました。いろいろな情報が錯綜していて状況がよくわからなかった。実際にはまだ捜査に入っていなかったんです。カメラだけヒルズの前に集結しているみたいな感じで、状況がよく飲み込めなくて、一応知り合いの新聞記者に電話しても、新聞記者も全然状況がわからないという感じで、これはもう事務所にいてもらちがあかないと思って、すぐにうちに帰ったんですよ。
うちに帰ってテレビをつけたら、もう実際に強制捜査に入っていたんですね。少しずつ様子がわかって、それで「なんとなくこういうことかな」みたいなものがあったわけです。その時は「自分はいろいろやったけど、やっぱりこれは遅かったんだな」と思いました。ある意味、懸念が現実になったという感じですね。
小池:なるほどね。それで事務所にも捜査があったんでしたっけ。
田中:次の日、17日です。16日に最初にそういう報道があって、次の日の火曜日の朝、うちは横浜に本部があるんですが、そこに集まれるパートナー4人で集まって当面の対応を検討しましょう、協議しましょうということで集まったんです。一応、マスコミの対応をどうしましょうかと話して、ランチをとりに行きました。
ランチをしているときに、麹町事務所にいる私の秘書から携帯電話があって、「田中さん、いま大丈夫ですか」と言うから、「何?」と聞いたら、「今、東京証券取引所の方がこちらにお見えになっています」と言うんです。「なんで東証が来るんだろう?」と思って電話を替わったら、東京地検特捜部だったんですよ(笑)。彼女は緊張して間違えたんです。「あ、やっぱりそうか」と思って、「いつか来るなとは思っていたけど予想より早いな」と思ったんです。
小池:翌日の17日の昼に入っていたわけですね。
田中:そうです。
小池:そこでどんなことを聞かれたの。
田中:麹町の事務所に戻ったら、そこは20坪ぐらいでとても狭いんですが、15人ぐらいの検事とか事務官とかSECの調査官とかが来ていて一生懸命やっていました。私が着いたところで、その事務官とSECの調査官に会議室に招かれて座ったんです。
そこで捜査令状を見せられたわけです。私はその16日の事件の一報に触れたときに「偽計取引」とか「風説の流布」といったことに疑問があったんです。確かに、法律を厳密に解釈すればそうなのかなと思うんですが、何か違和感があるし、そもそもそんなことで大々的に捜索するのかなと思ったわけです。
小池:別件だよね。
田中:私はそういうふうに疑っていたので、捜査令状に何て書いてあるのかなと思って一字一句読みました。そうしたら、前日に報道されている通りなんです。私は意外だったんですが、最後に被疑者の所に「株式会社ライブドア、ほか4名」と書いてあったんですよ。
私は前日からすごく不安で、前日は一睡もできなかったんです。ご飯も喉を通らなかったですし。けっこう不安の中にいて「この4人というのは、堀江さん、宮内さん、久野さん、僕?」とか思って(笑)。人間不安になるとどんどん悪いことを考えるんですよ。それで「すみません、この4人というのは?」と聞いたら、「それはいま言うことができないんですよ」と言われました。あまり大したことは聞かれなかったんですが、事務的な会話があって、そこは終わりました。
今度は特捜部の検事が入ってきて細かいことをいろいろ聞くんです。「事件の首謀者は誰だと思うか」とか、「ゼネラル・コンサルティング・ファームと港陽監査法人の関係はどうか」とか、「宮内さんと小林さんの関係はどうか」とか、あとは「こういう粉飾があるが、どういうふうに監査していましたか」「誰が考えたと思いますか」とか、そんなやり取りがありました。
小池:その時はもう地検特捜部はかなり裏を固めていましたか。
田中:かなりわかっていました。もうストーリーが全部できあがっていましたよ。だから、内偵でかなり調べているんだろうなと思って。だから私は絶対にすぐに堀江さんたちは逮捕されると思いました。
私自身はやましいことは一切ないんですけれども、やっぱり監査責任者としてサインしていますよね。前年はカネボウの会計士が逮捕されていますよね。もう絶対に逮捕されると思ったんですよ。それで、妻に悪いなと思いながら不安な夜を過ごしたんですが、ずっと気になっていたので、また特捜部の検事に聞いたんです。
多分、答えてくれないだろうなと思ったんだけれども、本当は「僕は逮捕されますか」と聞きたかったんだけど、ちょっと遠回しに「港陽監査法人に対する刑事責任の追及も視野に入っていますか」と聞いたら「それは捜査に協力してくれたらありません」と言われたんですよ。
小池:その特捜が入ってからライブドアには何回か行きましたか。
田中:私は行きましたね。
小池:ライブドアの逮捕された人たちとは、逮捕されるまでの間に何かミーティングをしたりしてたのかな。
田中:しないですね。
小池:それは接触してはいけないということ?
田中:それもなかったです。
小池:でも、普通、弁護士さんとか会計士さんとか集めて対策協議をしたりしないのかな。
田中:口裏を合わせるみたいな感じですか? 実際にそれはなかったんですよ。いや、もちろん、経営陣は集まったと思いますよ。われわれも弁護士を呼んで話しましたからね。それは別に「こういうふうに聞かれたらこういうふうに答えよう」とかじゃなくて、こういう状況だと今後の流れはどうなるかとか、そういうような話をしたんですよね。
小池:でも、最初は宮内さんは何か全部自分が(罪を)被るみたいな感じだったじゃないですか。
田中:そんな感じでしたよね。多分そういう気持ちもあった、ある意味で忠誠心みたいなものもあったんだと思うんです。
小池:なんで? あの忠誠心はどこから来ていたんだろうね。
田中:もともとはわからないですが、1つあるのはある意味、夢を共有しているみたいなものがあるんでしょうね。それこそ時価総額1兆円とかですね。ちょっとおもしろおかしくやろうとか、多分それは共有したんでしょうね。
ただ、2004年9月期に至ってライブドアはイーバンクと激しい一戦を交えましたよね。宮内さんは責任を感じて1回取締役を辞める意志を固めているんです。だけど、そのときに堀江さんが説得したようなんですよ。宮内さんは、そのときにすごくうれしくて恩義を感じたらしいんです。自分は堀江さんにこんなに必要とされていたのかと、そこですごく恩義を感じたみたいですよ。
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