日本政府が推進する「e-Japan戦略」を構成する各施策の担当者にインタビューを行い、e-Japanとはいったい何なのか、具体的にどのような政策が推進されているのかを聞く本シリーズ。初回は、e-Japanという政策パッケージの歴史と概要、その意味するところを、実際に2001年の「e-Japan戦略」から2003年の「e-Japan戦略II」に至るまでのIT戦略本部の議論を事務局として支えてきた内閣官房IT担当室の岸博幸氏にインタビューする。
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e-Japanのはじまり
--今回のインタビューでは、そもそも、e-Japanというものがどうして出来てきたのか、その背景や目指したもの等を、IT担当室の発足から現在まで一貫して実務の現場から見てきた岸さんにお伺いする、というのが趣旨なんです。
岸: わかりました。まず、背景からお話をすると、IT戦略本部や基本法の話などの議論が出てきた背景には、やはり1999年から2000年にかけて世間の注目を集めたいわゆるITバブルがありました。民間でかなりITを利用したベンチャーや経営改革が盛り上がってきた中で、政府としてもITに力を入れようとしたのですが、 その中で、これまでも政府としてのITへの取り組みはやってきたわけで(高度情報通信社会推進本部、1994年設置)それとは違う、一段と強力な推進体制を作ろうと言うことになったわけです。
ぶっちゃけた話、これまで繰り返されてきた、通産省と郵政省の情報通信政策やコンピュータ政策を巡っての権限争いをしているレベルではないのだから、こんどは内閣官房でしっかりと取りまとめをしなさい、という肝入りでIT担当室ができ、2000年7月に出来た情報通信技術戦略本部(※注1)とIT戦略会議をサポートする事務局として動き始めて、IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)をその年の11月に成立させました。この過程では、当時の中川秀直官房長官のリーダーシップがとても大きかったと思います。
岸氏が述べているように、これまでも政府(内閣官房)はITについての取り組みを怠っていたわけではなく、高度情報通信社会推進本部という組織が1994年に作られ、各省庁にまたがるITについての課題、例えば電子署名・認証、個人情報保護のあり方の検討や、教育現場へのインターネットの導入などの施策が推進されてきた。しかし、それぞれの施策で一定の成果は出したとはいえ、それがIT社会に対して政府が本気でコミットしているという(政治的効果も含めた)存在感を示していたかと言えば、一般への知名度から見ても、とても胸を張って自慢できるものではなかった。
組織制度的にもこの高度情報通信社会推進本部は内閣官房に事務局が置かれたが、構成は内閣総理大臣を本部長、内閣官房長官、郵政大臣及び通商産業大臣を副本部長、その他全閣僚が本部員というもので、あくまで内閣内調整という色彩が強かった。
それでは、IT担当室が出来て、IT戦略本部・戦略会議の議論が始まった新体制は、これまでの体制とどこが異なっていたのだろうか?
--つまり、官邸主導でITをリードしていくぞ、という覚悟を決めて、IT担当室の設置とIT基本法の制定が行われたわけですが、それまでの高度情報ネットワーク社会推進本部というものは存在していましたよね。その頃の体制と、IT担当室が出来、IT基本法が施行された2001年以降はどのような違いがあったんでしょうか?
岸: まず、これまでの体制は、推進本部と銘打ってはいましたが、専門のオフィスもなく、内閣官房の他の仕事をしている人が、兼務で推進本部の業務をこなしているような状況でした。頭数的にも数人しかいませんでしたから、会議のロジを回すとか、各省から上がってきた案をそのままガッチャンコして(※注2)まとめるのが精一杯で、政策案的にも良い物ができる体制ではなかったのです。
IT担当室が出来た後は、内閣官房副長官補をヘッドとする30人規模の人員が各省庁と民間企業からの出向によって集められ、きちんとした政策パッケージを作り上げるための体制が整いました。これは普通の役所なら「課」のレベルですので、かなり大規模な仕事でもそれなりにこなすことが出来ます。
若干話が横にずれますが、IT戦略本部(戦略会議)は、民間人の有識者が入った首相直轄の強力な政策会議です。特に小泉政権になってから、このような政策会議が各省庁の意見をまとめ上げて政策の方向性を固めていくという政策形成の手法がかなり一般的に使われるようになってきましたが、このような手法のさきがけであったのだろうと思います。
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