先週開催されたAppleの年次開発者会議「Worldwide Developers Conference(WWDC)」で、AR/VRヘッドセットの詳細が明らかになると期待していた人は失望していることだろう。今回のWWDCでは、「Mac」や「iPad」、「iPhone」、「Apple Watch」、スマートホーム、果ては「CarPlay」に関する新情報まで飛び出したが、ARに関する言及はほとんどなかった。
Apple製のヘッドセットについては、すでに何度も開発の遅れが報じられており、早くても2023年までリリースは望めないかもしれない。つまり、あと1年はお預けというわけだ。年内に何らかのプレビューが行われる可能性はあるが、現時点では分からないことが多い。それでも手がかりとなる情報や関連しそうなソフトウェアの話題がなかったわけではない。
AppleはすでにiPhoneやiPad向けにさまざまなARツールを提供している。VR/ARヘッドセットが仮想オブジェクトを現実世界にオーバーレイするための「メッシュ化」に必要となる、深度測定可能なLiDAR(ライダー)スキャナーもある。「Googleレンズ」のように、カメラのフィードからテキストやオブジェクトを認識するツール群もあり、Apple Watchではアクセシビリティー機能の1つとしてジェスチャー操作も可能になった。
WWDC2022で披露されたさまざまな機能拡張は、いずれ登場するヘッドセットが真価を発揮するための土台を作るものだと言うこともできる。
2021年は多くの企業がメタバースに注目し、プラットフォームを超えて利用できる、この新しい巨大な社交場の姿を明らかにしようと、さまざまな情報発信を続けた。しかしMetaやSnap、Nianticといった企業と異なり、ソーシャルネットワークを事業の柱としていないAppleにとって、「ソーシャル」は奇妙な存在だ。
AppleにはFaceTimeとメッセージというアプリがある。このApple製デバイスをつなぐ共通アプリは、待望のヘッドセットが登場した暁には人々をつなぐ接着剤になるかもしれない。Appleは2021年に「iOS 15」を発表した際、「SharePlay」というフレームワークを導入し、離れた場所にいる人たちが気軽につながり、一緒に作業をしたり、コンテンツを楽しんだりできるようにした。まもなく登場する「iOS 16」では、SharePlayでできることがさらに広がる。その多くは、メタバースが必要とするつながりを生み出すものとなりそうだ。
Appleにはすでに「ミー文字(Memoji)」というアバター機能があるが、アプリやコンテンツをメッセージやFaceTime経由で連携させるための共有ツールも続々と登場している。例えばiOS 16、「iPadOS 16」、「macOS Ventura」の新しい共有機能は、ヘッドセットで他者とつながるための重要なショートカットとなる可能性がある。MetaのVRヘッドセットでは、「Messenger」の友達やパーティーがコミュニケーションの中心となっているが、同じことがAppleでも起きるかもしれない。AppleはSharePlayを忘れられがちなソーシャルゲームハブ「Game Center」と連携させることも発表した。これもゲームのクロスプレイに役立ちそうなアップデートだ。
Appleは、近く登場するAR技術のフレームワーク「ARKit 6」に、屋内空間をスキャンできる新ツール「RoomPlan」を搭載すると発表した。一見すると、RoomPlanは他社が開発しているLiDARを使用した室内スキャン技術とほとんど変わらない。家具や壁、窓といった室内要素をスキャンして、家の3D図面をすばやく作成できるため、家のリフォームや新築に活用できそうだ。
RoomPlanはさらに、新しい形のMRを生み出すこともできる。AppleはWWDCで公開した開発者向けのRoomPlan紹介動画の中で、「周囲の映像をキャンバスとして使おう」と呼び掛けた。自分が開発しているゲームに他の人の空間を取り入れることもできるという。LiDARを使って作成した深度マップにARオブジェクトを重ねることは現在でも可能だが、RoomPlanを使えば、部屋をVRに取り込み、仮想のオブジェクトをレイアウトできるようになる。筆者が少し前に試したVRヘッドセットは、カメラでスキャンした周囲の環境をVRに取り込むことで、一種のMR感を生み出していた。Appleが開発しているとされるカメラを搭載したVRヘッドセットも、同じようなMRを生成できるものとなるかもしれない。
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