東京初、隅田川上空で「橋横断」--ドローン医薬品配送、普及の鍵は「省人化」

 日本航空(JAL)、KDDI、メディパルホールディングス、東京都デジタルサービス局は、2月8〜9日と16日の3日間に渡り、ドローンが隅田川上空を飛行して永代橋、中央大橋、佃大橋の3つの大橋を横断し、医薬品を配送する実証実験を実施。最終日となる16日には、実証実験を報道に向けて公開した。

 本実証実験は、「東京都におけるドローン物流プラットフォーム社会実装プロジェクト」に採択された3件のうちの1つ。KDDIとJR東日本が中心となった竹芝でのフードデリバリー、ANAとセブンイレブンが中心となった日の出町でのコンビニ商品配送に続き、JALとKDDIが中心となって取り組んだ。

 目的は、2022年度下期に法改正が見込まれる「レベル4(有人地帯における目視外飛行)」の解禁を見据えた、ドローンによる医薬品輸送ビジネスモデルの確立だ。医薬などの卸売業を営むメディセオと、東京都中央区にある聖路加病院がユーザーという立場で協力した。

(左から)メディセオ ロジスティクス本部長の若菜氏、KDDI 事業創造本部ビジネス開発部 ドローン事業推進Gリーダーの博野氏、JALデジタルイノベーション本部エアモビリティ創造部マネージャーの田中氏、聖路加病院 薬剤部部長の後藤氏
(左から)メディセオ ロジスティクス本部長の若菜氏、KDDI 事業創造本部ビジネス開発部 ドローン事業推進Gリーダーの博野氏、JALデジタルイノベーション本部エアモビリティ創造部マネージャーの田中氏、聖路加病院 薬剤部部長の後藤氏

1日5回の医薬品緊急配送、ドローンでの代替を目指す

 聖路加病院 薬剤部部長を務める後藤一美氏は、「1日4〜5回ほど、緊急配送が発生している」と明かす。配送物は、高額かつ緊急性が高く、常時使わない医薬品も多く、1回の投与量によっても必要量が変動するものもあるという。院内で薬剤を保管するスペースも限られているなか、即時オンデマンド配送へのニーズは高いという。本実証のシナリオは、「緊急時における医薬品の即時オンデマンド輸送」とされたが、有時平時問わず、ドローンによる医薬品配送のビジネス化が求められていることがうかがえる。

 本実証で使われた機体は、国産ドローンメーカーACSLの「PF2」という自動航行ドローン。JAL デジタルイノベーション本部 エアモビリティ創造部 マネージャーの田中秀治氏は、「医薬品のように少量多頻度配送に、うってつけの機体」と話す。出発地点のメディセオ新東京ビルから目的地の聖路加国際病院へ、隅田川テラス沿いを5m/sの速度で約2.0km飛行して、医薬品サンプル(模擬品)を配送した。

ACSL製の「PF2」サイズは、横幅1173mm、高さ526mm
ACSL製の「PF2」サイズは、横幅1173mm、高さ526mm

 見どころの1つは、都内初となる「大橋の横断」だ。ドローンは、通行人がいる場合はホバリングして待機し、レベル2(補助者あり目視外)で飛行した。また、各橋に補助者を配置する、橋の両端に注意喚起の立て看板を設置するなど、安全管理につとめた。

 実証には大勢の報道陣や関係者が集まり、ビルの向こうにドローンが現れるのを待ち構えた。橋でホバリングしている様子が遥か遠くに目視できたときには、現場はざわざわとどよめいていた。

左端のビルの左側に機体が見える
左端のビルの左側に機体が見える
その時のドローンからの風景(提供:ACSL)
その時のドローンからの風景(提供:ACSL)

 ドローンは、隅田川上空を自動航行して、約8分後に目的地付近へ到着した。実証期間中には、通行人の通過を待ちながら飛行したため、片道最大14分かかったフライトもあったという。PF2の最大飛行時間は35分のため、バッテリー不足への対策として残量が一定値を切った場合は、2カ所の緊急着陸地点のいずれかへ降りるというシステムが組まれていた。

ドローンが着陸するところ
ドローンが着陸するところ
着陸後、JALのスタッフが荷物を下ろした
着陸後、JALのスタッフが荷物を下ろした

 本実証での重要な検証項目の1つは、配送中の品質検証だ。2021年6月に公布された「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」に沿って、温度管理、固定を行った。

医薬品サンプルの受け渡し
医薬品サンプルの受け渡し
ドローン配送された医薬品
ドローン配送された医薬品

本実証の飛行ルート
本実証の飛行ルート

サービス普及の鍵は、運航の「省人化」

 本実証の最大の目的は、ドローンによる医薬品配送の「ビジネスモデルの検証」だったが、1日あたりのサービス提供時間を8時間と仮定した場合、10回は飛行できる見通しがたったという。平時でも1日5回ほどの緊急配送があることを考えると十分な回数だ。災害発生時などの緊急時には、さらに回数需要は高まるが、複数機を同時飛行させることで、配送回数は稼げる見通しとのこと。

 サービス普及の鍵の1つは、「省人化」だ。本実証では、1機の飛行のために、補助者を合計26人配置したという。1フライトあたりのコスト削減が求められている。また、1人が同時に複数機体を運用できると、さらに“手を出しやすい”サービスになるだろう。4者は今後について、このように意欲を示した。

 「2022年度の下期の航空法改正に向けて、実証の振り返りもしっかり行い、安心安全な運航体制の構築とビジネス性の検証をさらに進めたい。今回のように少量多頻度に適した機体のみならず、航続距離、重量などさまざまなニーズに対応した機体のポートフォリオや、例えばコロナのような社会情勢でも、オペレーションを維持できる体制を構築したい。まずは離島エリアから進める予定だ」(JAL 田中氏)

 「今後は、複数のドローンが飛び交うなか、他社の機体も含めていかに衝突回避システムと運用を構築していくかも課題になってくる。JALさんとともに取り組みたい。また、2月15日に発表したドローン専用の通信モジュールの開発で通信の安定化を図り、衛星を活用した基地局の整備も進めたい。そして、機体メーカー各社とも協業し、あらゆる状況で使える機体を作り上げていきたい」(KDDI 事業創造本部ビジネス開発部 ドローン事業推進Gリーダー 博野雅文氏)

 「複数機体を運用したコスト低減に期待している。また、医薬品を必ずお届けするためには、ドローン配送ができない場合に備えて、バックアップ体制を組む必要があると考えている」(メディセオ ロジスティクス本部長 若菜純氏)

 「医療機関としては、安心安全な供給体制の構築を望むが、一方で病院としてもできるだけ近くで受け取れる体制を構築するなど、院内での医薬品の受け入れ体制も改善していきたいと思っている」(聖路加病院 後藤氏)

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