設計、施工を行うクリエイティブ事業とプラットフォーム事業を展開し、建設テックを推進してきたクラフトバンクが新たな創業を迎えた。プラットフォーム事業部門を4月15日に分社化し「クラフトバンク株式会社」として、工事受発注プラットフォーム「クラフトバンク」事業を継承。クリエイティブ事業部門は、旧会社名ユニオンテックへと社名を戻し、内装工事事業を推進している。
2018年に取締役副社長としてユニオンテックに入社し、同年9月からは代表取締役社長に就任。4月にはクラフトバンクの代表取締役に就いた韓英志氏に、分社化した理由や今後の建設業界におけるデジタル戦略について聞いた。
――内装事業をメインとしてきたユニオンテックでクラフトバンクを立ち上げ、内装とネット事業の両方を手掛けてきた約3年間はいかがでしたか。
ユニオンテックに入社した当時は、売上高が前年から減って20億程度で、社内は全て紙とペンで管理されていました。そこで、社内のデジタル改革を一気に進めたんですね。SlackやZoomなどのデジタルツールを現場に取り入れ、効率化を追求する一方、社内の組織、制度改革に着手。デジタル化による効率化を図る一方、スタートアップのオフィス移転に注力し34億円まで伸ばすことができました。社員数を増やさずに、生産性改革を実行し、労働集約的な要素の多い建設工事業において、生産性を1.5倍程度に改善できました。
加えて、クラフトバンクを始めることで、建設業界のプラットフォームを作るという新しい事業を立ち上げました。設計、施工を担う会社は中小規模のところが多く、会社概要がわかりづらい。これらの会社情報をリスト化することで、仕事を発注できる仕組みを整えられたと思っています。
現在、2万3000社(6月12日現在)の情報を掲載するまでになりましたが、大きくなることで、内装事業を手掛けるユニオンテックが展開するサービスとして続けていくには、難しい部分が出てきてしまったのです。
――具体的にどんな部分が難しかったのでしょう。
ユニオンテック自体は内装業における元請けをやっているので、クラフトバンクに登録したデータを別の形で使われるのではないかという懸念が生じてしまった。また、クラフトバンク事業は資金調達を通じた戦略投資による成長を描き、一方ユニオンテック事業は借入による運転資金をもって安定的に利益を出していくというモデルの中、コロナが起こり、先行きが不透明な市場環境の中で、2事業で160人にもなる大所帯で取り組んでいくことにリスクを感じ、なので分割して不透明な市場環境に素早く対応できる意思決定をすることが最大の策だという決断をしました。
――ある程度以前から分社化は見据えていたのでしょうか。
クラフトバンクとしての中立性はどこかのタイミングで必ず問われるだろうと思っていて、そのあたりはユニオンテックの大川さん(ユニオンテック 代表取締役の大川祐介氏)とも以前から話していました。ユニオンテックもデジタル改革が実を結び、効率がアップして成長の芽は見えていた。クラフトバンクも2万3000件まで登録者数が伸び、業界内でも一定の知名度を得られた。このタイミングでスタンドアローンでやったほうがよいだろうと判断しました。
――分社化までのスケジュールは。
2020年12月末に決定し、年明けから既存VC、メインバンクなどに説明をし、4月15日に分社化しました。分社化直前までクラフトバンク事業を担当していた約35人のメンバーは全員新会社に移籍しています。このタイミングで、社外取締役としてユニオンテックの社外取締役を務めていた既存株主のDCM Ventures本多央輔氏もクラフトバンクの社外取締役として就任してくれています。また、新体制に伴い、前スペースマーケット取締役執行役員CFO/CHROの佐々木正将氏に参画いただきました。
会社自体は、エンジニア、ビジネス、プロダクトと3つの部門に分かれており、ビジネスとプロダクトはそれぞれ27歳、25歳の人間が率いています。通常の、ましてや建設会社などでは、考えられないような大抜擢だと思いますが、建設業界という古くからの慣習が根強く残る業界を変えていくには、思い切った人材登用も必要だと感じています。ある意味、業界を変えるためには手段を選びません。一方で、社外取締役を含め、いわゆる40~50歳代のベテランも経営に入っていただいていますので、バランスは取れているかなと思っています。
――思い切った人事ができるのも新しい会社ならではですね。
年齢層の中心は20代後半です。ただ、以前はなかなか振り向いてもらえなかったレガシーな産業にエンジニアの人が目を向けているという変化も感じます。以前は外資のコンサルティング会社、ちょっと前はメガベンチャーなどへの就職を希望するエンジニアの方が多かったと思いますが、レガシーな産業をデジタルでどう変えるかということに注目しているエンジニアの方が多いように思います。そうした人たちとぜひ一緒に働きたいと思っています。
――会社設立から約2カ月で資金調達も実施されたそうですね。
デライトベンチャーズ、三菱UFJキャピタル、そして前ロスチャイルド会長の城下純一氏、キープレイヤーズの高野秀敏氏等の個人投資家を引受先として、MBOから1カ月で約3.5億円の資金調達を行いました。この資金でプロダクトの開発を進めていきたいと思っています。また、クラフトバンクの主な収益源である協力会社の紹介、マッチングだけでなく、夏から秋にかけて、工事受発注に伴うシフト管理や手配自動化等のサービスを順次リリースしていく予定です。建設業界の人手不足は深刻ですが、その一端には職人の方と現場をつなぐ部分が電話やファクスというアナログだからということもあるんです。それをシステム上でマッチングすることで、スムーズかつ効率的な紹介が可能になる。そうした仕組みを提供していきたいと思っています。
――画期的なサービスですね。こちら以外にも新たに手がけられるサービスはありますか。
建設会社におけるDXをサポートする事業を始めています。建設会社の方は、DXをしなければという意識は大変高いのですが、実際に何からはじめればいいのか、どう効率化できるのかといった具体的な仕組みに落とし込むことが難しいケースがあります。そこをサポートしていきたい。
経営状態もよく、社長も先進的な考えを持っていて、すごくいい会社なのですが、場所が地方だからということで、エンジニアの採用がなかなか進まないということがあるんですね。しかしリモートワークが進んだ現在、地方に会社があるということはそれほどウィークポイントにはなりません。そうした会社の採用をお手伝いしたり、デジタルツールを入れることで、現場監督の仕事を軽減したりといったことをやっています。
このあたりは、ユニオンテックで実際にデジタル改革をしながら、進めてきた実績がありますので、導入する企業の方にも納得感を持っていただいています。
――建設現場における人手不足解消や、業務の効率化のため建設テックは期待されていますね。
私自身、ユニオンテックに入社した理由は、この業界はインサイダーにならないと変わらないと思ったからです。実際に3年間働き、業界のインサイダーになれたのだと思います。なので、今は大変業界内で動きやすい。さらに、分社化したことでクラフトバンクの中立性も問われることがなくなりました。
2万3000社が登録する業界内での知名度と、それを作り上げてきたチームのスピンオフという今まで培ってきた強みをいかして、建設業界を変えていきたいと思います。
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