NTTドコモ・ベンチャーズは、オンラインイベント「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2021」を3月9日に開催した。コロナ禍における感染拡大防止を鑑み、6回目となる今年は初のオンライン。そのなかでも、3つの重点領域の明確化や海外投資を進めた2020年の成果として、投資先スタートアップ3社のブース展示を一部メディアに限定して実施した。
ここでは展示の様子とあわせて、「次代を創るチャレンジャーによるピッチ」と題してオンライン登壇した、ドコモ・ベンチャーズの出資先・支援先企業6社の講演内容をお届けする。
まずは、メディア限定で公開されたブース展示について紹介する。日本からRevComm、イギリスからSenseye、スウェーデンからCrosser Technologies ABの3社が展示した。各社はプレゼンテーションで、主力製品の開発背景や特徴を端的に説明した。
まず、RevComm(レブコム)は、電話営業やコールセンター向けのサービス「MiiTel(ミーテル)」を提供。コロナ禍でリモートワークが拡大する中、一気に業績を加速させたという。同イベントでは、代表取締役の會田武史氏がスペースマーケットの重松氏と対談するなど、存在感を示した1社だ。同社では電話営業やコールセンターの本質的課題を「ブラックボックス問題」と定義。人工知能で顧客と担当者が「何を」「どのように」話しているのかを可視化して、営業の「なぜ」をAIで解析することで、労働集約型の“数打てば当たる営業”からの脱却を支援する。
アプリ経由で電話をかけることができ、通話が終了すると「応対メモ」を残せる。個々の電話対応を録音して再生できるほか、顧客との会話の“被り”の回数、ラリーの回数、話速、頻繁に使ったキーワードなどを計測。会話の全文文字起こしや、要約文の抽出もできる。「ブラックボックス問題の解消」「電話後の共有やメモを残す作業の工数削減」「担当者のセルフコーチング」「リモートワークの環境整備」と、4つの価値を提供していると担当者は説明した。現在、450社以上で導入されており(2021年1月現在)、導入事例として紹介されたBIZREACHでは、4カ月でNET ROI+538%を達成したという。
Senseye(センサイ)は、NTTドコモ・ベンチャーズが重点領域の1つとする「スマートファクトリー」領域のイギリス発スタートアップ。機械学習を活用した製造業向けの故障予知保全ソフトウェア「Senseye PdM」をクラウドベースで提供している。
自動車、製造業、重工業、石油ガス、日用消費財、一般消費財の6つの産業で、エリアとしては欧州、アジア、北米での導入実績がある。工場にある機械に温度や振動などのデータを同社独自の機械学習を使用して解析し、機械が将来的に故障するまでの耐用年数などの予測を可能する。これにより導入企業では、機械のダウンタイムを削減し、全体的な設備効率の向上を図れるという。
強みの1つは拡張性だ。さまざまな産業の多様な機械に対応している。また、保険会社と提携して、事前に約束したROIを達成しなかった場合はかかった費用を返金するという制度も同社ならでは。当日、投資先6社によるオンラインピッチに登壇した同社CEOのSimon Kampa氏の講演内容も後述するが、担当者によるとすでに欧州や米国の日産自動車でも採用され、日本でもPoC段階の顧客を獲得しているという。
Crosser Technologies ABも、同じく「スマートファクトリー」領域のスタートアップで、本社はスウェーデン。同イベントに合わせて出資が発表された、期待のニューカマーだ。創業者はかつてエンタープライズ向けソフトウェアでイグジット経験を有する実力者。当時抱いた「工場のデジタル化、インダストリー4.0を、もっと簡単にできるようにしたい」という想いから、2度目の起業を果たしたという。当日は、現地では朝5時だというスウェーデンから代表取締役のMartin Thunmam氏がオンラインでつながり、NTTドコモ・ベンチャーズの出資担当者と共にて製品説明をしていた。
Crosserは、製造業向けエッジ処理型データ活用プラットフォームだ。工場にあるPCなどのエッジデバイスにインストールし、機械から取得できる多様な生データをリアルテイムで収集、その場で分析して、その結果を外部のクラウドやERPやMESシステムなどの外部ツールとも連携できる。
これにより、たとえば「ある機械からのデータの数値が一定値を超えたら隣の機械を止める」などの自動制御が可能。最大の特徴は、工場内の流れを止めずにデータを回せるという点だ。そういった自動制御の指示はCrosser内で書き込むのだが、ここには同社もう1つの強みがある。多様なモジュールが用意されているため、専門知識がなくても扱えるという点だ。工場では大量のデータが発生しているが、ごく一部の大企業以外にはデータ活用のハードルが高く、ほとんどのデータが活用されていない。
Crosserなら「すでにあるデータを可視化する」というスマートファクトリーの第一歩を、低コストかつプログラミング不要でできるという。
同イベントでは、「次代を創るチャレンジャーによるピッチ」と題して、国内外の注目スタートアップ6社がオンライン登壇して事業概要を説明した。当日の登壇順に、「ダブルフロンティア」(日本)、「vivola」(日本)、「Legion Technologies」(米国)、「メンヘラテクノロジー」(日本)、「Senseye」(イギリス)、「MaaS Tech Japan」(日本)。各社とも「興味を持った方がいたらぜひ連絡をしてほしい」と、業務提携や協業に積極姿勢を示した。
ダブルフロンティアは、お買い物代行サービス「ツイディ」を手がける。スマホやPCから注文すると、同社のピッキングクルーとデリバリークルーが買い物を代行して届ける。現在は都内6カ所にて展開中で、たとえば渋谷区で自治体との連携やタブレット配布などの戦略を進めたところ、80代の女性が2日に1度の頻度で利用しているそうだ。そして、株主であるプラネット社と「共通商品データベース」を構築し、地域の小規模事業者のEC化支援の体制が整ってきたことをフックに、今後は全国展開を加速させる。人口100万人都市のモデルケースとしては仙台市で、このほかさまざまな地方エリアにおいて、雇用創出まで狙いたい構えだ。
登壇した同社代表取締役の八木橋氏は、「現在の利用者はまさに新米ママが多く、クルーは子育てに一区切りついたお母さんが多い。実は私の妻もクルーとして働いている。ツイディには、先輩ママが後輩ママを助けるという構図ができており、これを10年来のサイクルに持っていきたい。また、60代のアクティブシニアが80代の親世代にお届けするという世界観も実現したい」と展望を話した。
Vivolaは、女性医療×AIという事業領域で、不妊治療のデータ分析サービスを提供している。CEOの角田氏は自身も不妊治療の経験があることを明かし、「不妊治療に関する福利厚生サービスを検討している企業や、フェムテック関連の企業に、ぜひ気軽にご連絡いただきたい」と呼びかけた。事業の着眼点は、少子化に歯止めがからず、不妊治療や体外出生数の多さが際立つ日本の現状だ。角田氏は、不妊治療は自由診療であるため、患者本人が「分からないことだらけ」であることや治療の長期化、通院頻度の高さや高額な費用、地方における専門医不足などを指摘し、「患者視点で理解できる治療、通院負荷を減らすオンライン診療で、両立しやすい治療を実現したい」と話した。
2020年6月にベータ版をリリースした不妊治療データ検索サービス「cocoromi(こころみ)」では、患者が基本情報を入力すると、不妊治療で過去に成功した人の統計データから自分たちと類似した同質データを閲覧できるという。同質の定義としては、女性の卵子の質を表すと言われる年齢、AMHという卵子の残り数、疾患という3つを設けた。
また、2つめのサービスとして不妊治療のオンライン診療サービスを提供する。地域の超音波エコーや血液検査ができる産婦人科の先生と、生殖の専門医の先生をつないで、不妊治療患者をサポートする仕組みで、2021年上期からPoCを実施する予定だ。オンライン化で患者の通院負荷の低減に加えて、診察にパートナーが同席しやすくなり参画意識の醸成にも寄与できると見込む。まずはC向けサービスの拡充を図り、AIによる個別最適化治療支援SaaSを開発して医療事業者へ提供するというビジネスモデルを構想中だ。
Legion Technologies(以下、レジオン)は、AIを搭載したワークフォースマネジメントのサービスを提供している。現在15カ国、約3万の顧客と総計45万人以上の従業員をサポートしているという。CEOのSanish Mondkar氏は、特にクラウド、モジュールによる管理、UXのクオリティなどには自信をのぞかせつつ、従業員のエンゲージメントと業務生産性を同時に向上できるツールであることを強調。導入実績と成果をこのように説明した。
「従業員15万人で全国規模のディスカウントストアでは、週間の従業員エンゲージメントは88%。店舗数2万1000以上、従業員3万7000人の全国規模の外食チェーンでは、天候や新型コロナの影響で需要が変化する中、30分単位で業務の予測精度99%を達成した。従業員1万1000人で700店舗以上の国内のコンビニエンスストアでは、従業員のエンゲージメントが週間92%と常に高い水準にある。具体的な社名を挙げると、世界に1600以上の拠点を有する高級品を扱う小売業であるSMCPにおいては当社の製品を活用することで、紙によるシフト作成に割いていた膨大な時間を削減でき、空きシフトにも即座に対応できる柔軟性が向上した結果、コロナによる閉店を回避できたうえ、売上は22%増加している」(Mondkar氏)
メンヘラテクノロジーは、病んだときに気軽に使えるチャット相談アプリ「メンヘラせんぱい」を提供している。いま、10〜20代のあいだで「メンヘラ」という言葉は「かまってちゃん」や「病みやすい」などの同義として使われており、必ずしもネガティブな意味合いではないそうだ。同社のコアターゲットである10代後半から20代の女性の43%がメンヘラを自覚していたという。
メンヘラの行動特性として、深夜に相談したい、何度も同じ話を聞いてほしいなどがあるが、その受け皿となっているSNSやマッチングアプリでは、出会い目的の異性から連絡が来るなど、とても安心して話を聞いてもらえる環境にない。話を聞くのが得意な女性(せんぱい)と、話を聞いてもらいたい女性をつなぐことで、「幸せに病める世界を作りたい」と同社代表取締役の高桑氏は話した。
ビジネスモデルは、両者間で報酬の授受を行い同社が手数料を徴収するCtoCで、せんぱいからは「自分の経験を生かしたい」、利用者からは「気持ちをうまくコントロールできるようになった」というポジティブな声が上がっているという。高桑氏は「病むことを否定したり、病まないように頑張るのではなく、病んだときにその気持ちにどう向き合いどう対処していくか次第で病みながらも幸せに生きていけるのではないか」と語りかけた。
展示でも登場したSenseye(センサイ)は、製造業向け予知保全ソリューションを提供している。航空宇宙や防衛分野において複雑な機械の故障を予測する分野での経験をバックグラウンドに、6年前に設立された。AI機械学習とIoTなどの最新技術を駆使して、産業を問わず商業的にも技術的にも拡張性のある製品開発を目指しているという。登壇したSimon Kampa氏は、「われわれは6カ国の1万人以上の資産を監視している。自動車、重工業、鉱業、食品、飲料、包装材料、日用消費財など、幅広い産業に対応しており、大口の顧客としてはUnileverやMarsなどがある」と説明した。
同社がフォーカスしているのは、「想定外のダウンタイムの削減」だ。同氏は「たとえば、自動車工場では1時間のダウンタイムで200〜300万米ドルかかる。故障が起きてから対応するのではなく、予知保全によって工場の総合的な設備効率の向上を図りたい」と話した。しかし多くの企業において、将来の故障リスクに備える予知保全ソリューションの導入は、初めての経験になる。このため同社では、「導入における不安を和らげ、市場の他社製品に惑わされることも防ぐ」ために、提携の保険会社のスコアによる製品保証制度の提供、いわゆ流「ROI LOCK」という制度も提供している。代表的な導入事例として紹介されたのは、日産、Schneider Electric、ALCOA。同氏は「3社とも急速なスケールアップとROIの向上が見られる」と話し、いずれは日本市場における詳説と実演をも行いたいと積極姿勢を示した。
最後に登壇したMaaS Tech Japanは、全国の交通事業者や自治体がデータの収集や利活用に苦労している現状を打破すべく、モビリティ連携プラットフォームを構築しているスタートアップだ。同社代表取締役の日高氏は、「交通分野には、鉄道、バス、航空、タクシー、パーソナルモビリティといったさまざまなモビリティごとに、またカーシェア、自動車、その他の交通のデータや、ユーザーの消費データや、エネルギーのデータ、ヘルスケアデータなど、多種多様なデータが存在するが、それぞれのフォーマットが異なっている。新しいモビリティ技術の導入を進めることと、交通インフラの持続性と継続発展を支えるためのデータ利活用の仕組みを構築することは、補完関係にある」と話して、同社のサービスを説明した。
同社では、3つのソリューションを展開している。1つがユーザー向けのMaaSアプリ。1つが交通事業者、自治体、他企業へのMaaSコントローラ。そしてもう1つが、それらを支えるMaasデータ統合基盤だ。2020年度は、鉄道事業者とのプロジェクト、都道部県単位や市区町村単位でのプロジェクトにおいて、さまざまなユースケース開発の実証を行ったという。
今後も、企業や自治体向けの基盤を軸としたソリューションを提供する複層収益型のビジネスを拡大しながら、たとえばダイヤ改善につなげるといったDXやポイントプログラムを活用した利用者の行動変容を推進して、機能の拡大とMaaS市場の拡大を図るという。そのためにも、交通事業者のみならず、通信会社、エリアマネジメント会社、データ保有企業、スマートシティや都市DXに関わるステークホルダーと積極的に連携したいと呼びかけた。
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