ソフトバンクグループは2月8日、2021年3月期第3四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比6.1%増の4兆1380億円、純利益は前年同期比541.1%増の3兆552億円と、増収増益の決算となった。純利益の大幅な伸びは、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の出資先企業の株価好調が大きく影響している。
新型コロナウイルスの影響による株価下落で、ここ最近は現金の確保など守りを固めていた同社だが、最近の株価上昇の影響を受ける形で好業績を記録し、SVFの運用に弾みを付ける形となった。そこで同社の代表取締役会長兼社長執行役員である孫正義氏は同日に開かれた決算説明会で、ソフトバンクグループがSVFで取り組む方向性を説明した。
孫氏は、2017年3月期の決算説明会で「ソフトバンクグループは金の卵を産むガチョウだ」と話したことを持ち出し、「ソフトバンクグループは投資会社だが、もう1つの側面は、ガチョウによる金の卵の製造業だ」と説く。“金の卵”とは、同社が出資後に上場したり、100億円以上で売却したりしたスタートアップ企業のことを指し、「金の卵を計画的に、仕組みを持って生んでいく」のがソフトバンクグループだとしている。
その投資事業によって中国アリババなどの成功例を生み出してきたが、孫氏はAI革命のため一時抑えていた投資事業を再開。そして2020年には金の卵となった投資先企業が11社に達したとのことで、「SVFの開始で加速度的に卵の数が増えている。やっと収穫期に入り始めた」と孫氏は話す。
実際、出資企業の中で上場している企業のうち、米DoorDashや米Uberなどの企業が多くの利益を生み出している。一方で価値が下がったのは2社に過ぎず、「3兆円の利益に対して(2社で)100億円のマイナスという比率は、悪くないのではないか」と評価する。しかも、上場などを控える“卵”はまだ多数存在するとしており、これらが次々と上場することになると孫氏は説明する。
現在SVFは第1号ファンドのSVF1による投資を終え、ソフトバンクグループが独自で立ち上げた第2号ファンドのSVF2による投資を進めている段階だというが、すでにSVF2から上場する企業も出てきているとのこと。それに加えて、評価や交渉を終えて投資を決定したとしている「パイプライン」も含めると投資先企業は40社に上るそうだ。
また孫氏は、SVF1について「今の私の目からは改善すべき点だらけだった。さまざまな反省をしている」と振り返る。そこで、SVF2ではよりよい投資先を見つけ出すべく、地域、そして医療や教育などの分野に特化した深い知識を持つチームを設け、投資先を見極める仕組み作りを整えたのだという。
さらにソフトバンクグループは、副社長執行役員COOが南米を主体に進めている「SoftBank Latin America Fund」も展開しており、こちらでもすでに33社に投資をしているとのこと。そこにSVF1とSVF2の投資先を合わせると、164社への投資を実現しているという。
孫氏はまた、金の卵やその予備軍を「日本にも着地すべきだ」と話し、SVFの出資先企業の中から日本に適した企業を選び、ソフトバンクなどを通じて日本進出を促していくとのこと。「通信だけだと『値下げしろ』という話しか来ない」(孫氏)ことから、新たにソフトバンクの代表取締役社長に就任予定の宮川潤一氏と、デジタルプラットフォーマー戦略を拡大していくため、SVF企業との連携を積極化していきたい考えを示した。
ちなみに孫氏は、新社長に就任する宮川氏について「20年近くYahoo! BBのころから苦労して戦ってきた同士であり、志を共にする仲間だ」と紹介。その上で、宮川氏による体制について「ソフトバンクが大きくなるよう、料金だけに終わらない、5Gや6G、その上に乗るAI革命を進めてくれる立派なキャプテンだと考えている」と期待を示した。
さらに孫氏は、「今までは情報革命に特化してきたが、SVFからはAI革命に特化する。AI革命以外やりたくない」と、AI事業への投資に一層まい進する意欲を見せる。その上で、製造業として金の卵を製造するには「ターボチャージ戦略」が重要だと話す。
具体的には、投資先に大きなビジョンを持たせ、圧倒的に大きな資金を与え、ソフトバンクグループが出資する160以上の企業と、AIを通じたシナジーを出していくことで短期間で投資先企業の事業を大きく伸ばし、毎年10、20社というペースで継続的に金の卵を生み出していきたいという。
一方で、GAFAなどを中心とした上場株を運用するため立ち上げた運用子会社「SBノーススター」に関しては、「現在もテストしている最中」と孫氏は説明。2020年末時点では1000億程度の赤字だったが、今回の決算説明会時点では「1000億弱の黒字」とのこと。あくまで、SVFの投資先企業が見つかるまでの現金を運用することを目的としたものだとした。
また太陽光発電関連の事業に関して問われた孫氏は、「東日本大震災を受けて社会問題解決のために始めたが、今やわれわれがやらなくても、世界中で多くの会社がやっている状況になった」と説明。太陽光発電事業はすでに世界有数の規模に成長し、利益も出ているというが、今後は「継続して大きくしたい人に売却する方向で交渉している」と、あくまでAI事業への投資一本に絞る姿勢を見せた。
さらに、同社の主要な投資先であるアリババの関連会社であるアントグループが、中国で上場延期になった件について問われると、「中国のインターネット産業は自由にやっていいという感じだったが、いま欧米と同じように独占禁止法や金融の規制など、人々を守るための規制を作らなくてはいけない状況に入ったんだと思う」と回答。長期的には中国にとってプラスと見ていると話す。
またアリババグループの創業者で、孫氏の友人とされるジャック・マー氏が一時公の場から姿を消していたが、その間も孫氏とは「互いにビジネスというより、個人的趣味の話をしていた。彼は絵が好きで、制作中の絵を送ってきた」ことを明かした。一方で、ジャック・マー氏が中国当局を批判した件については「メディアで読む程度の情報しか分からない」とコメントを避けた。
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