テレワークできる業務がない?--ペーパーレス、取り組みの具体的な3つのステップ

沢渡あまね (ワークフロー総研フェロー)2020年06月19日 11時00分

 緊急事態宣言が全国的に解除され、日常生活へ戻るロードマップは示されたものの、企業運営のほうはどうだろうか。直近2カ月程度は原則テレワークにする企業、非常事態宣言解除とともに出社となった企業など、その対応は分かれている。もっとも、テレワークによって前回の記事で取り上げた「紙、ハンコ問題」を含めたさまざまな課題が浮き彫りになったことは間違いない。今後テレワークに対しての取り組みは会社や業種によって分かれるところもあるが、直近は懸念される新型コロナウイルス流行の第二波への備え、中長期的にはBCP(事業継続計画)の一環として、企業は何らかの対策を早々に講じる必要があるだろう。

 そこで今回は「紙、ハンコ問題」解決に直結するペーパーレスについて取り上げる。ペーパーレスはどのように進めていけるのか、そのステップや、活用したいツールを解説するとともに、ペーパーレスが進むとどのように働き方を変えられるのかをお伝えしたい。

ペーパーレス、働き方の3つの段階

 「ペーパーレス」と一口に言っても、単発で書類をスキャンして→メール添付というだけなのか、原則社内書類を電子化しチャットやグループウェアを使うのか、はたまた書類に加え回覧、申請、決裁といった業務の流れまでを電子化し、高度なコラボレーションをオンラインで行うのか、いくつかの段階に分けられる。

 ガートナーがその段階を次のようにまとめている。

 新型コロナウイルス感染症:1年先まで見据えたペーパーレスとファイル活用への取り組み
新型コロナウイルス感染症:1年先まで見据えたペーパーレスとファイル活用への取り組み
(出典:https://www.gartner.com/jp/newsroom/press-releases/pr-20200417

 この流れを見ると、書類が1種類→複数種類の電子化、個人的に電子化→組織的に電子化、書類だけ→その書類にまつわる業務の流れの電子化といった変化があるのがお分かりいただけるだろうか。

 この変化の通り、ペーパーレスを進めるためには実はドキュメントを電子化するだけでは不十分だ。電子化したドキュメントをオンラインでやりとりするための適切なコミュニケーションツールが必要になる。

 以下では3つの段階ごとにどのようなコミュニケーションツールが必要になるか、そしてそれらのコミュニケーションツールを導入するとどのように働き方が変わっていくのかを具体的に見ていく。

1.紙の書類の、まずは単発での電子化

 1の段階は非常にシンプルに実現できる。書類を作成してスキャンし電子化するという方法もあれば、Office等を使いそもそも紙で書類を作成しないという手もある。電子化した書類はメール、チャットでやりとりすることができる。では、これでテレワークができるようになるかというと、そうではない。

 まだこの段階の働き方は、電子化できた書類の作成や処理という業務に限れば、場所を選ばずに働けるという程度だ。

 なぜ意思疎通ができそうなメール、チャット、オンラインでのドキュメント共有ができるのにテレワークができないのか疑問に思う方もいるかもしれない。その理由はドキュメントに関して行われたディスカッションや意思決定の情報がドキュメントと一緒に保存・蓄積されないからだ。

 メールやチャットを使えば電子化されたファイル+テキスト情報で、ディスカッションや意思決定の履歴が残せるかとも思う。しかし例えばメールは基本的に各人のメールボックスに情報が溜まっていくので、どれだけ素晴らしいノウハウが蓄積されていようともとも、他の人は確認ができない。ブラックボックスと化しているのだ。引継ぎ時にメールを転送するのも、おすすめできない。手間もかかるし、検索性が良くない。

 他方チャットツールはオープンな場で情報が共有される点は良いのだが、フロー型、つまりリアルタイムでさくさくと会話をつなげていくことが主要な目的のツールのため、会話の中で共有された資料は過去の履歴の中に流れていってしまう。無料版のツールを使っていたりすれば、最悪の場合、検索できない状態になってしまう。

 メールにせよチャットはその場その場の意思疎通が目的であって、情報を資産として残すことが目的のツールではない。メール、チャットも整備できて、オンラインでファイル共有ができているのにテレワークできる業務が少ない、テレワークできても運用がうまくいかないという方々はこの部分でつまずいているのではないだろうか。

 この段階を脱し、テレワークができる、テレワークでもオフィスと変わらない生産性を上げる段階に進むには「書類+業務の流れ」をセットで電子化することを検討いただきたい。

2.紙+業務の流れをセットで電子化

 この2の段階からは個人→組織的に、業務の流れまで電子化されている段階となる。概要は図で示されている通りだが、次の稟議書の決裁という業務を例に、業務がどのように変わるかを説明したい。

起案(Office等オンライン上のフォームで作成)※ここまでは1の段階でも同じ

上長1へ承認を依頼(チャットまたはグループウェア、ワークフローシステムを利用)

上長1が承認、上長2へ承認を依頼

上長2が承認、上長3へ決裁を依頼

上長3が最終決裁

 この流れでは稟議書が電子化されているだけでなく、稟議書に記載されている情報の確認・承認や最終決裁の意思決定までが、全てオンライン上で行われている。後述するツールを使うことで前の段落で問題であった情報の蓄積が可能になる。
 このように情報共有から意思決定までが時間・距離に関わらずできるようになれば、テレワークできる業務は増え、社員がオフィスに集まって働くのと同等の生産性を出すことができるだろう。

 そのためには、使うコミュニケーションツールにも工夫を凝らしたい。会社の規模や組織の複雑さなど会社ごとの特徴もあるだろうが、この段階ではコミュニケーションツールはフロー型のものに加え、ワークフローシステムやワークフロー機能がついたグループウェアといった、「紙+業務の流れ」を電子化できると同時に、情報を蓄積できるストック型のツールの活用をお勧めしたい。

 ストック型のツールを使えば一度起案された情報は、ワークフロー上のステークホルダーあるいは権限が付与されたメンバーの中で共有され、意思決定までのディスカッションの履歴や、最終的に承認/否認されたのかまで、オンライン上で確認することができる。

 ワークフロー機能を活用すると担当者が出張などで不在という理由で業務が止まることはなく、わざわざ人がリマインドする、あるいは書類をなくしたのでもう一度最初の担当者からハンコをもらいにいくといった「見えない仕事」も減らすことができる。

 「紙+業務の流れ」の電子化の対象が広がれば、様々な情報流通とそれに付随する判断、意思決定が時間や場所に囚われなくなるため、人が働く時間や場所への依存度はぐっと下げることができるのがお分かりいただけただろうか。

3.さらに高度なコラボレーション

 1、2の段階を経た企業は、これまでオフィスで働いている時と同等以上の生産性を上げられていたり、働き方の選択肢が増えていたり、ITツールを適切に活用して組織の可能性を広げられている状態に進むことができる。

 このとき使われるITツールは、コミュニケーションツールはメール、チャット、Web会議、情報共有はオンラインファイル共有、グループウェア、ワークフローシステム、意思決定はワークフローシステムが導入されていればインフラとしては充分であり、目的や用途によって適切に使い分けがされていると理想だ。

 このフェーズは組織的にITツールが活用されることはもちろん、結果的に個人個人の働き方の選択肢を増やせているはずだ。

 ちなみに、私がこの原稿を書いているのは拠点のある東京ではなく、浜松だ。というのは昨年より私の事業のベースは浜松を中心とする東海地区にシフトしつつあったこともあり、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令された時点で浜松に滞在していたので、そのまま浜松で生活を続けているのだ。この生活になってまもなく3カ月が過ぎようとしている。出先ではあるものの、まったく問題なく仕事ができている。これは私が個人事業主だからではない。世界では、オフィスを持たない1000人を超える規模の企業も出てきている。働き方ありきではなく、目指したい組織のあり方や個人の働き方目的ごとに最適なITツールを導入すれば、自由な働き方は実現できる。

目指す取り組みのレベルは、理想の働き方から考える

 電子化の3つのステップをここまで紹介してきたが、自分の組織、会社はどの程度までを目指すべき、あるいは目指せるだろうかと疑問がわく。目指す「べき」段階としては最低でも2、ぜひ3を目指していただきたいと思う。2または3の段階まで進むことができれば、コロナ禍における一時避難的な働き方としてのテレワークではなく、そもそも日本が抱えていた働き方の課題を解消することができるからという理由もある。しかしこの回答はあくまで「べき論」だ。ワークフロー総研 フェローとしては、本総研のスローガン、「働き方は、みんなで変えていく」をお伝えして記事を締めくくりたい。

 このスローガンのメッセージは、個人や組織が各々の働き方はそれぞれが考えて、それぞれの思う通りに変えていこうというメッセージが込められている。

 これまでの日本の働き方は「オフィスで、週5日、8時間、紙の書類、押印やサインが必要」という働き方が主流だった。だが本来であれば業界・業種・職種、さらには働く人のライフステージや生活環境が異なるのであれば、働き方も異なって然るべきではないだろうか。

 コロナ禍以前の働き方改革に停滞感があったのは、あくまでルールとしての働き方から出発して働き方を見直そうとしていたからではないかと思う。多様性が認められる社会になりつつある中で、先に述べた職業の特性、個人のバックグラウンドを無視したルール作りに着手した結果、それぞれに合う選択肢をうまく作れずにほとんどの企業がコロナ禍と向き合うこととなってしまった。

 今回はコロナ禍の働き方で多く取りざたされた「紙、ハンコ問題」に対するITツールの導入ステップ解説を通して、段階に応じてどの程度働き方を変えていけそうかをお伝えしたつもりだ。決してITツールは便利なので生産性向上のため、とにかく導入せよということを伝えたいのではない。これを読む皆さんが、それぞれの特性や自身、自社の理想の働き方をITツールを使ってどのように変えていかれたいのか、議論するきっかけとしていただきただければ幸いだ。

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