不動産投資、開発をして得た収益を、スタートアップに投資し、新たな不動産事業を生み出す――不動産業界のデジタルトランスフォーメーションを実行力を持って推進しているのがトグルだ。率いるのはイタンジ創業者の伊藤嘉盛氏。「不動産領域におけるテクノロジーの社会実装」を目指し、新たな不動産ビジネスの在り方を探る。
トグルは、2018年6月の設立以来、不動産投資とインキュベーションという2つの事業を並行して展開。2020年9月の売上高予想は20億6000万円と順調に財務基盤を築く。一方で、レスポンシブスペースの開発を手掛けるPit in(ピットイン)やオンデマンド清掃マッチングを担うクリンなど、数社へのインキュベーションも実施し、新たな不動産事業を生み出すエコシステムを着実に構築している。
伊藤氏は「ブロックチェーンやARなど、技術革新は次々に登場してくるが、不動産業界は、まだこれらをうまく取り入れられていない。その原因は、テクノロジーの知識に長け、不動産業界の内情がわかる、横断的な知識や経験のある人が少ないから。トグルでは不動産や金融をはじめ、テクノロジー企業でビジネス開発などを手掛けてきた人たちでチームを組んでいるため、この問題を打破できる」と強みを話す。
伊藤氏は、電話やファクスといったアナログのツールがメインとなっている不動産業界に、テクノロジーを取り込むことで業務の課題解決に取り組んできたイタンジを2012年に設立。2018年10月に同社を売却するまで、長くこの課題と向き合ってきた。「不動産テックのスタートアップは、顧客を獲得したり、業界ならではの商慣習に入り込んだりするのが難しい。その環境で実際に仕事をしてきた私の経験を起業家に伝えていきたい。この業界の勘所を教えることで成功の確度を高められる」と自らの経験を惜しみなく投入する。
3月には、ヤフーのビジネス開発部長として新規サービスを立ち上げてきた金田一平氏がCOOに、ゴールドマン・サックス証券のファイナンス部門で金融商品のバリュエーションや取引のデューデリジェンスに携わってきた朝野照章氏がCFOに就任。チームを強化することで、横断的な支援を強固にし、不動産テックスタートアップの成長を促す。
トグル本体は、不動産投資、開発による利益と投資したスタートアップから得られるリターンの2つから収益を得る仕組み。スタートアップからのリターンは数年のスパンで考えているため、現在の柱は不動産投資事業だが「それぞれの事業におけるスタッフの割合は半々」と両事業均等に力を注ぐ。
目指すのは、テクノロジーを活用することで、今までにない新しい不動産ビジネスの創造だ。「不動産は景気に左右されやすい分野の1つ。一方で安定的な賃料を確保できれば、景気の変動に強いビジネスになる。今までは立地のいい場所が安定的な賃料を確約できる要素だったが、インターネットの普及によりこの考え方は変わってきた。インターネットで集客できれば、裏通りでも優良物件になり得る可能性がある。集客の仕方によって、少し駅から離れた場所でも表通りと同じような不動産の価値がつき、顧客を獲得できる、そういう再現性のある不動産ビジネスを作りたい」と伊藤氏は不動産ビジネスの新たな形を描く。
トグルのオフィスにはインキュベーション施設のようなオープンスペースを設け、スタートアップとの接点にしているほか「出資先はいつでも募集している」(伊藤氏)と門戸を広く開く。「不動産業界をITを使って変えていくのは、イタンジなどすでに取り組んでいる会社も多い。トグルでは今までにないものを作るというか、新しい不動産事業を生み出していきたい」と今後を見据える。
新たな不動産ビジネスを生み出す一方で、会社のあり方も変えていく。事業投資先を傘下に収めるツリー型ではなく、それぞれが互いに連携し合う「リゾーム型」を採用し、「Toggle Communiy」を築く方針だ。伊藤氏は「ホールディングではなくコミュニティに“トグル”することで、コミュニティ内での会社の成長、事業戦略の共有、会社をまたいだ協業を可能にしていく」と、フラットな関係性を築く。
会社名のトグルとは、オン・オフを切り替えるトグルスイッチ、プログラミング用語の「状態を反転させる」に由来する。
「年間20%の成長を目指す」とする一方で、「社会貢献のような公益性の高い会社にしていきたい」と伊藤氏はトグルの今後を描く。「資本主義の尺度だとリターンがないから手を付けない問題というのがある。しかしそれは解決すべきもの。そういう問題を解決できるような会社になっていきたい」とその思いは不動産業界だけにとどまらない。
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