就業人口の減少や労働者の高齢化という大きな課題を背景に、農林水産省が農業のスマート化を推進している。2020年度は当初予算約15億円に2019年度の補正予算約71億5000万円を加え、約86億5000万円をスマート農業総合推進対策事業に充てる。そこで、スマート農業を推進する詳しい背景や狙いなどについて、農林水産省 大臣官房政策課 首席生産専門官の石田大喜氏、大臣官房政策課 イノベーション創出グループの田島隆自氏、表谷拓郎氏に聞いた。
――スマート農業を推進する上で、どういったことに取り組んでいるのでしょうか?
石田氏:まず、現場のニーズに対応する技術提案の取り組みについて紹介させてください。これは農業者が現場で感じている困りごとやさまざまなニーズに対し、どのような技術があるのかを紹介するものです。たとえば米作りの水管理なら「こういうデータがわかるセンサーが欲しい」などのご意見をいただくので、それに対応するセンサーとして何があるのかをウェブサイトに載せています。
恐らく、この「つながる農業技術ウェブサイト」が全国でも最もアグリテック関連の技術情報を網羅していると思います。2018年には300程度の技術提案があり、2年目の2019年にも200ほどの技術提案をいただきました。
田島氏:私たちが農業の現場の話をよく聞き、企業にこういうニーズがあると示すと、企業側から「うちの技術がここに使えるのではないか」という気付きがあり、そこから新しい提案につながっていると感じています。
――そこから、農業者とメーカーをマッチングするという流れでしょうか。
田島氏:はい。われわれはマッチングミーティングイベントを開催しており、“米”をテーマにした第1回を2018年の夏に行いました。基調講演や各社のショートプレゼンなどに加えて、ブースを並べて企業と農業者の方やその他現場の方と話をしてもらうというものです。ここでできたご縁で農業者と実証実験をしたり、企業同士のつながりができて協業が進んだり、自治体が企業と連携したりと、いろいろなことが生まれています。
表谷氏:農林水産省が開催することもあってか、ほかの農業イベントに比べて農業者の割合が比較的多いようです。農業者からの現場の実情や、どのように技術を改良すべきかという意見を聞いたり、ここを通じて問い合わせが増えたという企業の話をいただいたりすることも多いです。
石田氏:オンラインとオフラインの両方でマッチングを進めながら、私たちもこれらの場を通じて農業者から「この技術はいい、これはないな」といった意見をいただき、それがまた先ほどのニーズへとフィードバックしていき、より良い技術提案をさらにいただくという好循環ができています。
――すると、さらにニーズに対する技術提案の精度やクオリティーが上がっていきますね。
田島氏:そうですね。マッチングミーティングのようなイベントを地方でも実施してほしいという声があるので、2019年度は各農政局でも同じようなイベントを開いて、新たなニーズと技術のつながりを作っています。
石田氏:このようなイベントもマンネリ化し、また同じ技術かとなれば農業者も来なくなってしまいます。しかし技術提案は2018年が300で2019年が200でしたから、まだまだ新技術が生まれてきている状況です。今後ともこういったイベントを続けていき、多くの農業者の方に参加いただきたいと思っています。
――新技術に興味があって来場する農業者は先進的なものへの取り組み意識が高い方と想像しますが、実際のところはどうでしょうか。
田島氏:(実際に取り組んでいる)絶対数はまだかなり少ないと思いますが、レベルの高い方は本当に高いですね。そういう方が引っ張ってくれればいいのですが、ボトムアップが課題です。
――スマート農業実証プロジェクトは、現在どのくらいの実証実験が行われているのでしょうか。
石田氏:現在、全国69カ所でスマート農業の実証プロジェクトが進んでいます。この事業は研究機関の中にある圃場でやるのではなく、農業者が実際に農業経営を行っている圃場で取り組まれています。また、個別技術の検証ではないというのもポイントです。水管理はこうします、田植え機はロボットにします、コンバインはメッシュで収量を量れるものにしますという形で、一連の作業体系をスマート化した形で取り組んでいるのが特徴です。
――たとえばどのようなことが行われているのでしょうか。
表谷氏:具体的には、鹿児島の堀口製茶の場合、常用型の摘採機というものが無人でお茶のうね(茶樹の列)からうねへと動き回り、自動的にお茶を摘み取ります。ロボット化だけでなく、データの一元化というのも重要なポイントです。摘み取りだけでなく、草刈りや散水などもロボット化していて、環境モニタリングなども取り入れることで、経営にどういう効果があるのかを実証実験しています。圃場の状況や過去の経営データを統合して、最適なお茶の栽培管理や出荷時期なども見える化して経営改善が図られています。
石田氏:3大農業機械であるトラクター、田植機、コンバインのロボット化が取り上げられることが多いのですが、日本の農業は多様なので、全国の多様な農業をそれぞれスマート化していくのがこのプロジェクトです。
――実証プロジェクトはどのようなスケジュールで進められるのですか。
石田氏:実証プロジェクトは2年間かけて行うことになっています。1年を通してデータを集め、その結果を基に必要な機械やシステムの改良を行って、2年目にそれを実際に使ってみて実証を進めます。1年だけだと「ここは問題だね」で終わってしまうので、2年続けて実証します。また、2019年度は69カ所でカバーできなかった中山間地域なども増える予定になっています。
表谷氏:ある程度地域特性を踏まえて、幅広い品目でスマート農業を実証できるよう考えています。現状で大規模から狭小地域まで実証を進めているため、さらに実証事業を増やしていく上で次は中山間にフォーカスを当てています。
――この69カ所はどのように選定されたのでしょうか?
田島氏:公募に対して応募があった企画を審査して採択されています。事業担当者からは人気が相当あったこともあり、いずれもしっかりしたレベルの高い計画が採択されたと聞いています。
――どのような形でプロジェクトが組まれているのでしょうか。
石田氏:研究機関と生産者、メーカーなどがコンソーシアムを組む形ですね。
田島氏:鹿児島堀口製茶の場合だと、農研機構と鹿児島堀口製茶、宮崎大学、鹿児島県、民間企業などいろいろな方が入っています。
石田氏:鹿児島県はお茶の主産地の一つなので、波及効果も期待できます。
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