クラファンによるファンの支援で動き出した音楽活動--声優ソロライブで見た“未来図”

 CNET Japanの編集記者が気になる話題のトピックなどを、独自の視点で紹介していく連載「編集記者のアンテナ」。主にゲームなどのエンターテインメント領域を取材している佐藤が担当。今回はクラウドファンディングで3500万円を集め、ファンからの支援によって実現した声優の平山笑美さんによるライブイベント「EMI HIRAYAMA 1st SOLO LIVE PIRAMIRiSE - Connecting The Smile -」をとり上げる。

12月13日と14日、渋谷道玄坂にある「WOMB」にてライブが開催。クラウドファンディングによる支援によって実現した
12月13日と14日、渋谷道玄坂にある「WOMB」にてライブが開催。クラウドファンディングによる支援によって実現した

 ファンコミュニティ・プラットフォーム「Fanbeats」における「平山笑美 応援プロジェクト」において、業界の有志たちが集い、「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」の北上麗花役や、「拡張少女系トライナリー」の卯月神楽役など、声優として活動している平山さんによる初の単独ソロライブ開催を目的としたプロジェクトが展開された。

平山笑美さん
平山笑美さん

 ライブに先立ち、オリジナル楽曲の制作を目的とした、ソロアルバムCD制作プロジェクトのクラウドファンディングを実施。音楽プロデューサーに、ゲーム音楽などを手掛け「Sampling masters MEGA」の名義でも知られる、スーパースィープ代表取締役の細江慎治氏を迎え、アニメやゲームの音楽シーンで活躍しているクリエーターが楽曲制作に参加。当初4曲制作の目標金額250万円で開始したが、最終的には3187万7500円が集まるという、大型のプロジェクトとなった。後に12曲入りのフルアルバム「PIRAMIRiSE」として制作され、10月にはSweepRecordから一般販売も行われている。

 ファーストソロライブ開催プロジェクトについても同様に、クラウドファンディングで支援を集った。入場チケットやライブBlu-ray、グッズなどさまざまなリターンを用意。目標金額の1000万円を超え、最終的には3505万2000円の支援が集まった。

 そして12月13日と14日、渋谷道玄坂にある「WOMB」にてライブが開催。2日間でのべ1000人以上のファンが詰めかけたという。両日ともオールスタンディングのフロアは、見るからにぎっしりとファンで埋まった。開演前には、声優の中村繪里子さんによるナレーションというサプライズで沸き、平山さんも後のトークの中で感激したことを語っていた。

 ライブではアルバム収録曲に加え、ストレッチゴールとして設定された新曲2曲、クリスマスをイメージする曲(1日目は「Silent night」、2日目は「Joy to the world」)を披露。生バンドによる演奏で、ファンからのコーラスを受けて熱唱した「JUMP!」を皮切りに盛り上げていき、ピンクのコンサートライトで染まった「Dead or ふたりきり」ではかわいらしさを全面に押し出しつつ、独特な世界観を表現。

 疾走感あふれる「Perfect Place」では高く声を響かせながら歌ったほか、バラード風の「約束の空」では場内を温かい空気に包み込むように歌い、ライブ向けの新曲「Star trail」と「スターサファイア」も含め、楽曲の個性と世界観を表現しながら披露。ファンも曲にあわせた色のコンサートライトを振りながら、時には声を上げ、時にはじっと聴き入っていた。衣装もストレッチゴールにより3着が用意され、着替えて登場するたびに歓声も沸いていた。合間には平山さんあてに寄せられたメッセージの紹介や質問コーナー、平山さん自ら楽曲を解説する動画や、手掛けたクリエーターからのメッセージ動画も上映されていた。

 筆者が会場、そしてライブを見て感じたのは、人と人との結びつきによって生み出されたステージということ。2日目の終盤で、発起人兼オーガナイザーが登壇した際、プロジェクトの経緯を説明するなかで、平山さんの一言から周囲で盛り上がりつつも「こういうのは得てして、実現しないままで終わるもの。このままだと実現しないのではと不安になった」と思い、自ら音頭を取る形で進めたと振り返った。「皆さんが願っているからこそ実現した」と続けて感謝の言葉を述べていたが、“動いた人がいる”ことが大きな一歩となったのは間違いないだろう。

 以前平山さんにインタビューした際、こじんまりとしたイメージを考えていたと話しをしていたが、クラウドファンディングによるファンが直接支援できる仕組みによって、結果的には2案件で計約6700万円の支援を集め、フルアルバム制作の上でライブハウスでのソロライブ開催まで至った。もっとも、クラウドファンディングはあくまでツールでしかなく、単にプロジェクトを公開しただけでは共感は得られず、支援も集められないもの。平山さんの気持ちとスタッフの尽力により、応援したいファンが結びつき、お互いが熱量を高めあったからこその成果だったと言える。

 ほかにも、ステージではリターンとして用意された「ステージモニター映像再生権」を獲得した支援者による映像も上映されていたのだが、どれもソロライブ開催のお祝いをさまざまな形で表現したものとなっており、映像のクオリティの高さや独創性のある内容となっており、平山さんも感謝の言葉を送っていた。また会場にいたスタッフも基本的には有志によって構成されており、ファンもスタッフも含めて、応援したい気持ちを会場内で共有できる空間となっていたのも印象的だった。

 それを受けた平山さんも、気持ちの入った歌声を披露しつつ、1日目ではトーク中に「感極まって……」という言葉を何度か口にしていたり、2日目ではアンコールで披露した「Maybe Maybe Maybe」では、時折声を詰まらせる場面もあったのだが、ファンの支援で実現したライブと感じさせたところでもあった。

 今後の展開としてセカンドソロアルバムの制作や、セカンドソロライブを2020年冬に開催することを発表。平山さんは、ライブ中何度も「これが第一歩」と口にしていたが、確実に大きな一歩となっていた。2日目の終盤、平山さんは「みなさんが応援してくれなかったら、セカンドアルバムもセカンドライブもなかったと思います。この奇跡はみなさんひとりひとりが作り上げたもの。この奇跡をずっと更新していきたい」と、今後の音楽活動に意欲を見せた。

 アルバムやライブタイトルになっているPIRAMIRiSEには、“未来図”の言葉も含まれているという。ファンの応援したい気持ちと支援によって動き出した音楽活動の第1歩、そして描いた未来図を見られたようなライブと感じられた次第だ。

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