銀行業界におけるデジタル変革は、顧客サービスの改善を中心に進んでいる。特に、スマートフォンやタブレットの導入は伸びている一方で、個人情報を扱うために端末を持ち出すことに制限をかける、あるいは単にカタログをデジタル化してタブレットで顧客に見せる程度にとどまっていたりするケースがまだ多いのが現状という。
そうした中で、栃木銀行は渉外営業スタッフらにiPad ProとApple Pencilを導入。さらに一歩踏み込み、電子サインの活用とCRMシステムへリアルタイムにアクセスできる端末を訪問先で活用している。そうすることで、ライフプランに合わせた資産コンサルティングやアフターフォロー、ファンド運用などの提案から投資信託の約定続きまでをその場でペーパーレスで行えるようにした。
従来必要だった複数の書類へのサインや印鑑など煩雑だった処理の簡略化、訪問の準備や訪問記録などの帰店後の事務処理を効率化し、渉外営業スタッフの事務作業時間を年間2万1000時間削減することに成功。アップルのウェブサイトでは、ビジネスの現場での成功事例として取り上げられている。
栃木銀行は、1942年に設立。従業員は1674名で、本店を置く栃木県を主要な地盤とし、1都4県に88店舗を展開している(2019年6月末現在)。ブランドスローガンに「First for you」を掲げ、顧客にとって最も身近な銀行を目指している。
栃木銀行の経営戦略の一つは、顧客との対話を重視した訪問型営業だ。2016年から営業店業務の効率化に着手し、その一環として2017年10月にインテックのクラウドCRMサービス「F3(エフキューブ)クラウド」を導入した。
さらに紀陽情報システム「リレーションシップポータル」と連携したエフキューブクラウド商流把握オプションを組み合わせ、法人取引先のビジネスネットワークやステークホルダを可視化し、顧客のニーズや課題に応じたソリューションを提案しやすくしている。
当初は500台の導入からスタートしたが、現在は743台まで増加。主に渉外行員が使用しているほか、一部店頭にも配置しているという。台数が多いため、端末の管理にはドコモのMDM(マルチデバイス管理サービス)を採用。社員に貸与した端末の遠隔ロックや初期化にも対応することで、盗難や紛失など万が一の事態に備える。
栃木銀行 営業統括部 営業戦略室 室長の益子康之氏は、「導入以前は、紙による営業活動だった。紙を使うと言っても、個人情報のからみから、(紙の紛失を懸念し)外には持ち出せなくなっている。制限がある中で、よりお客様とリレーションを構築するには、情報を頭の中に入れて提案することだった」と説明する。
たとえば、どんな家族構成かによって資産形成の提案も変わる。また、どれだけ事前に情報を頭に詰め込めるか、また最新のマーケット情報や商品情報を準備しておけるかは個人のスキルにも依存しがちだ。
だが、iPadから直接データにリアルタイムにアクセスすることで、より顧客に寄り添った提案ができ、サービスの平準化にもつながる。また、情報を得るだけでなく、リアルタイムに面談記録などをその場で更新できる。
ビジネスマッチングのシステムにも対応しており、たとえば不動産が買いたいというニーズがあれば全店に公開して、リアルタイムで共有。また、不動産の売り買いだけでなく、取引先や従業員の募集などのニーズも共有できる。
益子氏は、「iPadの導入で、セキュリティを守りながらお客様とのリレーションを深められるのが大きい。お客様の情報を一元管理することで、銀行内の情報を統一化し、情報を守りながら信頼を深められる」と語った。
なお、研修はiPadで研修ビデオを見るという。「パートなど勤務時間が限られている人も空いている時間に受けられる。集合研修よりも効果的」(益子氏)
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