10月30日に開催された“食”とテクノロジーがテーマのカンファレンスイベント「CNET Japan FoodTech Festival 2019」では、新たな技術と考え方をもとに飲食に関わる事業を展開する3者のパネルディスカッションが行われた。カスタムサラダ専門店の運営とセルフレジなどの開発を手がけるクリスプおよびカチリ、国内外にうどん店を展開するワンオータス、飲食店舗向けのロボットサービスを開発しているQBIT Robotics、それぞれの代表が自社の取り組みを披露した。
クリスプは、カスタムサラダ専門店「クリスプ・サラダワークス」を中心に都内で15店舗展開する企業。また、それらの店舗へ導入することを前提にした、キャッシュレスセルフレジや事前予約などに使うモバイルオーダーアプリの開発を手がける企業がカチリで、いずれも宮野浩史氏が代表取締役社長を務める。
好きな野菜、食材を組み合わせたサラダを注文できるクリスプ・サラダワークスのコンセプトは、「100人中1人でもこの店がないと困るような、本当に好きだと思ってもらえる熱狂的なファンがいればいい」というもの。ファーストフードのように気軽に来店でき、それでいてクオリティの高い料理を作っている、という日本ではまだ珍しい「ファーストカジュアル」と呼ばれるジャンルで、「米国でここ10年、2桁成長している」新業態でもある。
同社も2019年に7店舗を新規出店するなど急速にビジネスを拡大しているが、それができるのは属人性の少なさとシステム化を進めているからこそ、と宮野氏。「属人性とシステム化のバランスが大事」だとし、「熱狂的なファンをつくるときには人の良さが重要。飲食業では人だけが出せる価値が必ずあるので、そこに属人性はあっていい」と話す。
システムは、別会社のカチリで開発したキャッシュレスセルフレジとモバイルオーダーアプリを全店舗で導入。モバイルオーダーアプリでは、大手飲食チェーンが最近になって始めた事前注文の仕組みを、同社はすでに2017年から実現している。店舗ではほとんど現金を取り扱っておらず、キャッシュレス比率は82%。さらにモバイルアプリ・セルフレジなどからのデジタル注文が全体の6割と、既存の飲食店とは明らかに異なるビジネス構造になっている。
同社がこうした「人」と「システム」の2つを重視するのには理由がある。近年のテクノロジーの進化と消費者の嗜好の細分化により、以前から言われている飲食店の成功に関係する3要素「商品(おいしい料理)」「箱(業態、商品力)」「人(スタッフ)」のうち、「商品」と「箱」の2つは今や「(たとえ優れていても)競争優位性がなくなってきている」と考えているからだ。
「商品」については、ネットを検索すれば「世界中の人が評価したおいしいサラダのレシピがある」うえに、新しいものが次々と現れる。同氏はクリスプを立ち上げるまで「サラダを一度も作ったことない」と打ち明けるが、現代は「マズいものを作るのは難しくなってきている」ような状況。「うちの店はおいしい、というのは大事なこと」ではあるものの、それ自体が「競争優位性」にはなり得ないわけだ。
また「箱」についても、ソーシャルネットワークの普及などにより、新しいものを生み出してもすぐに模倣され、広まってしまう時代。「昔は新しいアイデアを1個思いつくことができれば、10年、20年やっていけた」のが、今やあっという間に似たものが出てきてしまう。流行の移り変わりも早い。「店作りも大事だが、それも競争優位性じゃない」。
したがって、残るのは「人」となる。ただし、「飲食店舗に価値を与える魅力的な人が今も一杯いる」ものの、多くの飲食店で機械でもできるような役割を人が担っているのが実情だ。機械にできることは機械に任せ、人は人にしかできないことをやるべき、というのが同氏の考えで、それがモバイルオーダーアプリなどのシステム開発につながっている。飲食業界全体で、いずれ「人が最も大事なものになってくる」と見ている。
当然ながら、システム化はデータの活用にも結び付く。日本でデータを積極的に活用している飲食店はまだ少なく、それだけで「進んでいる」と捉えられがちだが、すでに世界ではデータを使うことが当たり前。「中国、米国などで伸びている外食店舗はみんなデータを使っている」という。
そういう意味では、データを活用することで「日本もまだまだ伸びる、イケてる業界にできる」余地があると同氏。今後は単純に食べ物を売るだけでなく、オンラインのデータを活用してオフラインの顧客の体験を向上させることを目指していく考えだ。
インドで放浪していたはずが、ふとしたきっかけから宝くじに当選。それを元手に古い小さな店舗スペースでうどん店「里のうどん」を開業し、現在は神奈川県の藤沢、鎌倉地域を中心に6店舗、タイに5店舗を展開するまでに至ったのが、ワンオータスの代表取締役である西嶋芳生氏だ。
同社は、来店者数の高精度な予測を可能にする「伊勢ゑびや食堂」発の来客予測システム「TOUCH POINT BI」を国内で導入した第1号ユーザーでもある。TOUCH POINT BIでは、店舗前を行き交う人々をカメラなどで認識して分析することで、90%以上の精度で「何月何日何時にどれくらい来店するか」を算出。その予測のもと、店舗オペレーションの最適化につなげることができる。
TOUCH POINT BIの存在と、精度の高さを知った西嶋氏は、オープン目前の店舗ですでに設置が終わっていたPOSシステムをすべて入れ替え、その後全店舗にTOUCH POINTR BIを導入した。現在、「里のうどん」で最も活用しているのは、広告効果を検証し、来店予測につなげる機能だ。
いわゆる丼物も扱う店舗では「丼物=男性向け」と考えがちだったが、TOUCH POINT BIで来店者を分析したところ、7割が30~40代の女性であることが明らかになった。これにより女性向けのメニューの必要性が高いことがわかったほか、看板を15種類ほど作成して、どこにどの看板を掲出すると、どれくらいの人が来店するかもTOUCH POINT BIで検証可能になった。しかも、その来店者数の予測精度は約95%に達している。
それまでは人の勘でメニューや看板の内容を考えるしかなかったが、データをもとにして適切に判断できるようになり、「会議ではデータを見ながら話している。なんとなく(こうした方がいい)、というのがなくなった」という。今後はインバウンドにもデータを活用しながら、「売上アップと日本の食事の良さを伝えたい」と語った。
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