人工知能(AI)を顔認識に利用することには、プライバシーをめぐるさまざまな懸念が指摘されてきた。しかし今、AI技術に関連する新たな応用が、諜報活動への不安をかき立てている。あるスパイが最近、ターゲット候補を誘い込む目的で、LinkedInでAIを使って偽のプロフィール写真を作成していたと、Associated Press(AP)が米国時間6月13日に報じた。この写真は、30代で赤毛の「Katie Jones」を名乗るLinkedInアカウントに表示されていた。
APによると、Jonesとつながった52人には、米政界の有力者たち、具体的には国務副次官補、上院議員の上級補佐官、米連邦準備制度理事会(FRB)入りが見込まれている著名エコノミストといった人々が含まれていたという。
Jonesの経歴には、ワシントンDCを拠点とするシンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で「ロシアおよびユーラシア担当の特別研究員」として長年働いたと記載されていたが、APが調べたところ、CSISにはJonesを採用した記録がなかった。同様に、ミシガン大学は、Jonesの経歴にあるロシア研究の学位の記録を確認できなかった。
プロフィールに書かれている女性は存在しない。APによると、Jonesは、LinkedInに隠れている「実在しない大量のプロフィール」の1つだという。
テクノロジー分野ではAIが注目のトレンドとなっている。一方で、AIで生成されたディープフェイクによって、人が実際にはとっていない言動をしているように見せかける動画が作られている。
Jonesの写真は、敵対的生成ネットワーク(GAN)と呼ばれるプログラムを使用して作成されたとみられる。GANはこの1年間でよく知られるようになり、これを使った「This Person Does Not Exist(この人物は存在しません)」というウェブサイトも登場した。同サイトは、複雑なアルゴリズムを利用して、実在しない人の顔の画像を生成する。
プログラムが固有の画像を作成するため、逆画像検索では追跡できない。逆画像検索は、さまざまなインターネット詐欺を回避するためによく使われる手法だ。
APの取材に応じた専門家らは、Jonesのアカウントの活動はLinkedInにおける諜報活動の典型だと述べた。米国家防諜安全保障センター(NCSC)のディレクターであるWilliam Evanina氏は、外国のスパイがLinkedInで偽のアカウントを頻繁に利用し、米国人の標的に近づいていると述べた。
同氏は「米国のどこかの立体駐車場にスパイを送り出して標的1人を勧誘するのでなく、上海でコンピュータから標的3万人に友達申請を送る方が効率的だ」とコメントした。
Jonesのアカウントは既に削除されている。LinkedInは、偽のアカウントを許可していないと述べた。
LinkedInで信頼および安全の責任者を務めるPaul Rockwell氏は声明で、「偽のプロフィールは明らかに当社のサービス規約に違反する」とし、「見つかったら、迅速な措置を取り、削除する」とした。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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