不動産投資のこれからを見据えたリーウェイズ「Gate」--導き出すのは相場ではなく将来予測 - (page 3)

ビッグデータとAIを使い本当の利回りを導き出す

――精度はどのくらいですか。

 当然、家賃の下落率や空室率は刻々と変化しますし、予測するのは数年後、数十年後の世界ですから確実とは言い切れません。そこで、私たちは人口動態や商業的なマクロデータを検証データを使うことで9割の精度を実現しています。

 Gateは、ソフトウェアをパッケージではなく、インターネットを通じて提供するSaaS型のビジネスです。法人向けには月2万円~提供していて、企業ごとにカスタマイズして提供するケースもあります。

 家賃の下落率や売却益のほか、リフォームすると賃料をどのくらい上がるかや、売る時のキャッシュレートはどのくらいかといったことも出せます。

――導入先はやはり不動産会社になりますか。

 大手不動産会社を中心に、金融機関からの引き合いも増えています。不動産会社の方には、仕入れ効率化の側面でもかなり受け入れられています。不動産物件のチェックは、新人営業の朝のルーティンワークの1つでもありますが、物件のチェック、相場査定、所有者への問い合わせなど、とにかく手間がかかる。その部分をIT化することで、業務効率が良くなります。

 金融機関向けには、不動産取引の際の融資をする過程で、判断材料として使っていただいています。これによって、融資情報も記録できますから、より具体的で効率的な資産運用の提案ができます。

 融資情報は銀行にとって最大の財産とも言える部分ですが、担当営業が違うと、情報が共有されないなど、アナログな部分がまだ残っています。例えば、返済が進んで、担保余力があるお客様に対して、新しい不動産を提案できる可能性があっても、それが分析しきれていない状態です。

 Gateでは、そうした融資情報も横串で管理できますから、資産を見ながら、新規購入や売却といった提案がしやすくなるんですね。最近では不動産、金融機関に加えて、不動産鑑定士や税理士といった方たちにも導入を広げています。

――物件データの解析にAIを使っている理由を教えてください。

 Gateはクローラによって集めたビッグデータとAIを組み合わせて構築しています。AIは数値処理が得意ですから、膨大なデータを処理できますし、特徴量の自動学習、重要性の格付けなど、数値データである不動産価値の算出に最適です。

 もう1つは、人間を介在しないことで情報の精度が高まるからだと思います。複数の不動産会社に査定を依頼すると、各社によって査定の価格にばらつきが出ます。例えば買取会社は買い取りたい価格で査定するしかないですし、仲介会社は高値で買い取らないと、ほかの仲介会社にほしい物件をとられてしまう。これはビジネス上の制約で仕方のないことなんですね。

 不動産ビジネスの制約上、こうしたことが起こっているのであれば、正しい査定を導き出すことで他社との差別化につながります。

不動産業界のインテルになるために「敵は作らない」

「不動産マンといわれる世界を作りたい」
「不動産マンといわれる世界を作りたい」

――法人向けに重点を置いているのは、営業効率の良さが理由ですか。

 それももちろんありますが、業界内に敵を作りたくないからです(笑)。四半世紀も不動産業界に携わっていると、過去に何回もテクノロジで業界の透明性を高めたいとするプレーヤーが登場するのを見ています。でも失敗する。なぜかというと、敵を作るからなんですよ

 不動産業界に長くいる方々にしてみたら、起業したてのテック会社に「今までのやり方を変えます」と言われたらそれは面白くないでしょう。日本の不動産業界に従事する人は127万人いると言われており、巨大なレガシー産業です。そこで敵を作ったらだめですよ。

 ただ、同様にレガシー産業でも透明性を高めてうまくいった例もあります。中古車業界や証券会社では、ネット化、デジタル化を取り入れることで、変貌を遂げました。それによって、中古車流通は活性化しましたし、株の売買に新しいユーザーを取り込めた。この2つに共通していることは透明性です。透明性を高めることで、安心して買ったり、投資したりできるマーケットが形成されました。

 不動産業界はレガシー産業といっても透明性を高めることは重要です。それにはIT化は必要な1つの要素になりますが、うまく取り入れないと、浸透はしない。だから私たちは敵を作らない。リーウェイズは宅建業者でもありますが、お客様は取りません。そこで取引先と食い合うことがないようにです。また集客もしませんから、不動産ポータル会社とも組むことができます。狙うのはPC業界でいうインテルのポジションです。

――不動産業界のインテルになるのに必要なものは何だと考えますか。

 皆さんに使ってもらえる環境を整えることですね。情報の非対称性により、どうしても不動産会社側にメリットがあると見られがちな業界です。でも透明性を高めることで、信頼される存在になれると思います。

 今「不動産屋」という呼び方が一般的ですが、私はこれを「不動産マン」に変えていきたい。職業に「マン」をつけるのはプロフェッショナリズムの現れなんですよね。そのためには不動産のプロでなければいけない。不動産のプロというと、今までは、気合と経験と勘そして度胸というイメージでしたが、そうではなくて、プロフェッショナルになるために必要なのはデータ分析です。そのためのツールの1つとしてGateを活用してほしいと思っています。

――不動産屋を不動産マンにするのはある意味すごいチャレンジですね。

 確かに現状からすると不動産屋が一般的かもしれませんが、不動産会社は大手になればなるほど危機感を持っています。「今から5年後に、人間が賃料の査定しているイメージがわかない。絶対自動化されているはずだ」と言う人もいます。不動産データのプロになり、そしてそのプロを育てることが、不動産マンへの近道だと思っています。

インタビュアー

赤木正幸

リマールエステート 代表取締役社長CEO

リマールエステート株式会社 代表取締役社長CEO 森ビルJリートの投資開発部長として不動産売買とIRを統括するとともに、地方特化Jリートの上場に参画。太陽光発電パネルメーカーのCFOを経て、三菱商事合弁会社の太陽光ファンド運用会社の代表取締役社長に就任。クロージング実績は不動産と太陽光発電事業等を合わせて3,500億円以上にのぼる。 2016年に不動産テックに関するシステム開発やコンサル事業等を行なうリマールエステートを起業。日本初の不動産テック業界マップを発表するとともに、不動産テックに関するセミナーや研究会などを多数開催するほか、不動産企業やIT企業に対して様々なコンサルを提供。自社においても不動産売買仲介プラットフォーム「キマール」を開発するなど、日本における不動産テックの第一線で活動。2018年8月に設立される不動産テック協会の共同代表理事へ就任予定。 政治学修士と経営学修士(MBA)を取得後、コロンビア大学院(CIPA)、ニューヨーク大学院(NYUW)にて客員研究員を歴任。

 

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