筆者は2011年から米国で暮らしており、家族も含めて米国の医療機関にかかったことが何度もある。しかしその体験は「最悪」としか言い様がないものだ。
米国は日本と違い、皆が加入する健康保険制度はなく、民間の保険会社に加入して利用を受ける。正確に言えば、そうしなければ支払えないほどの医療費が請求されることになる。例えば1日でも入院すれば、保険なしなら日本円にして100万円程度は覚悟しなければならない。
これを軽減するのが健康保険だが、そのコストも非常に高額だ。例えば家族3人で加入する最低ラインが月額10万円の保険料で、しかも一人あたり70万円程度までは自己負担額が設定されている。日本のように、はじめから1~3割負担で、地域によっては子どもは無償というわけにはいかない。
米国では安い保険に入ると、保険が適用される医療機関は限られる上、かかりつけ医も彼らが紹介する専門医もそれぞれ異なるオンラインシステムを用いているので、一括してデータを閲覧できるような環境は整っていない。
そうした問題点の解決手段も、モバイルに白羽の矢が立った。2010年代以降、脆弱な社会インフラを補う新しいインフラとして活用されてきたスマートフォンが、今度は米国の医療の問題に対処しようとしているのだ。
医療情報のインプット、アウトプットを実現する可能性を高めるiOSのヘルスケアアプリのアップデートは、ユーザーにとってのメリットをより大きくしていく可能性がある。情報の集約は、スマートフォンで医療を受ける「未来の体験」の第一歩だ。
同時に、ユーザーの機器に医療情報をフィードバックする仕組み作りにも寄与する可能性がある。
AppleはiOSに対して、既に「CareKit」という患者と医療機関をつなぎ、モバイル医療を実現するアプリ開発のAPIを用意している。今回のヘルスケアアプリのアップデートは、スマートフォンを活用した在宅医療の促進につながる可能性がある。
このことは、ユーザーにとって、更なるコストメリットになる。米国の医療機関にかかる場合、診察(office visit)のコストは無保険なら200ドル程度、保険がある場合でも30〜55ドル程度が必要だ。さらに血液などの検査にかかれば、そこでも同じ金額がかかり、継続的なバイタルのチェックでは更なるコストがかかる。
たとえば、継続的にバイタルをチェックしなければならない場合、病気の種類によっては診察や検査の頻度を高めなければならない。その一部分でも在宅でのレポートに切り替えられれば、患者のコスト面での負担は減り、また医療機関の負荷も下げられる。
スマートフォンと連携する医療機器の普及とともに、お金と時間のコストメリットが主導して、発展が加速していく可能性を秘めている。
Appleはヘルスケア情報に関して、iPhoneの中に暗号化して格納し、iPhoneのパスコードで保護していると説明する。そのパスコードは指紋認証のTouch IDや顔認証のFace IDで代替され、ユーザーは自分のiPhone内の医療情報に手軽にアクセスし、管理できるようになる。
またAppleはユーザーのデータに関して、無断で端末外に持ち出さないポリシーを敷いている。このポリシーを掲げたことは、ユーザーの医療情報を扱う権利を得る意味で、非常に重要な布石だった。
昨今のスマートスピーカの普及で米国でささやかれるようになった「人工知能アレルギー」とは、ユーザーの情報や行動が人工知能発展のために活用されていることへの気持ち悪さ感じ、そうした製品の使用を避けることだ。
よりプライバシーの度合いが高い医療情報なら、ことさら避けたいと考えるはずであり、この分野にチャレンジできるモバイルプラットホーム企業はApple以外に見当たらないのが現状だ。
結果的にAppleの独歩状態となるモバイル医療の世界が、どのように加速していくのか、注目している。
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