JR東日本が取り組むIoT、ビッグデータ、人工知能--「モビリティ革命」で目指すもの - (page 4)

日沼諭史 別井貴志 (編集部)2017年01月16日 10時00分

新しいことをやる企業だと思われることが、なによりも大きなリターン

――「メンテナンス」についてはどのような形でIoTやAIを活かしていくことになるでしょうか。

 鉄道は土木構造物から車両、電気設備、駅の改札設備など、幅広いものをメンテナンスしていて、それがきちんと動くようにするのが大前提です。そのために大量のコストと人手をかけてメンテナンスしていますが、労働者人口が減っている中で、いつまでも同じやり方はできません。そこでセンシングというわけです。

 今までは人が見に行ったり、あるいは特別な検査車両を走らせたりしていますが、そうなると頻度は限られます。しかし、センサによるセンシングや、大量のデータ処理ができるようになりました。すでに一部で実施していますが、営業列車に検査装置を付けることによって線路の状態や架線の状態を毎日調べることができるようになっています。

 車両も、車両基地で人が点検する方法でしたが、それもセンシングでリアルタイムにチェックできます。今までだと定期点検しかないので、過去の経験から数カ月、数年に1回の点検・交換を行ってきましたが、それまでの間は劣化が分かりません。ただし、重要部品になるほど故障は怖いので、設備点検は早め早めにやることになります。部品を取り替えた後で、まだ使えたなということももちろんあります。

 もし、それぞれの劣化状況が細かく分かれば、設備ごとに部品交換が必要かどうかも分かりますので、非常に効率的に保守できるようになりますし、その点検のために人が現場に行く必要もなくなります。故障の率も減るはずです。

――「エネルギー・環境」についてはいかがですか。

 鉄道は環境に優しい乗り物です。クルマや飛行機に比べるとエネルギー効率が高いと言われますが、ここにきていろいろな新しい技術が出てきており、その優位性は薄れつつあります。

 われわれは、発電、送配電から列車、駅、ビルといった利用まで一貫したエネルギーネットワークを持っています。エネルギーはマネージメントが大事で、スマートグリッドのように系全体で効率的に使い、そこに新しい技術として蓄電や、再生可能エネルギーを組み合わせるなど、効率的なエネルギーマネジメントができるようにしていきます。

 電車がブレーキをかけた時に発生するエネルギーを電力に変える“回生ブレーキ”も、他の場所に送電して有効に使うことができます。さらに、電車もクルマと同じように、無駄な加減速がある運転とスムーズな運転とでエネルギー消費が全然違ってきます。運転をコントロールすることによって、効率的にエネルギー消費を抑える手法を開発中で、これを活用していきたいとも考えています。

 架線のない非電化区間でも電車を走らせる技術もあります。鉄道のエネルギー消費をどんどん減らして、5%とか10%というレベルではなく、2割、3割減らすことを目標にしています。エネルギー効率の良い電車にお客さまに乗ってもらうことによって、日本全体のエネルギー消費を減らしたり、CO2排出量を減らしたりと、社会に貢献できるのではないかとも感じています。

――こうした活動への投資額は大変なことになると思います。しかし、これらを全部実現したからといって、お客さまが2倍になるわけではありません。経営側としてはそのあたりどうお考えなのでしょうか。

 例えばメンテナンスで言うと、いままで100人かかって何時間もやっていたところを、新しい仕組みにすると初期投資は1億円かかるけれど、メンテナンスは80人で短時間でできるようになるので、投資した以上の運用コストの低減効果が見込める、という計算はできます。しかしほとんどの場合、こういった具体的な効果は分からないものです。

 とはいえ、投資の見返りがはっきりしているからやります、ということだけでは、これからはやっていけないとも思います。特にIoTとAIを活用する時代は、本当に虚心坦懐に、顧客目線で何をすべきなのかを追求すること、これができるかどうかによって、企業として生き残れるかどうかも決まってくるでしょう。

 鉄道は人々にとって身近な乗り物ということで、これまでは人口の増加とともに利用者は右肩上がりでした。ですが、これからは何もしなければお客さまが減っていく時代です。こういう時代だからこそ、目に見えるサービス改善だけでなく、お客さまの期待の先を行くような取り組みも必要になってきます。いくらかかって、いくらもうかるのか、答えは「よく分かりません」としか言えない。でもやらないと、鉄道会社は尻すぼみになります。

 人が減っていくなかで鉄道のオペレーションを維持するのは大変です。体力のある今のうちに、技術を使って、試行錯誤しながら、リターンがないことも覚悟しつつ、JR東日本がいろんなことをやっていく。お客さまから見ると次から次に新しいサービスが出る、または今までできなかったことができるようになる、そういう企業だと思われることが、なによりも大きなリターンではないかと思うんですね。


新しいサービスが次々に登場する企業だと認識されることが、なによりも大きなリターンだという

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