“ゴミ1つ落ちていない”シンガポールに異変--それを救う革新的な環境系スタートアップ - (page 2)

プラスチックゴミを高付加価値な素材に変える技術

 2015年設立のBlueRenは、プラスチックゴミをカーボン・ナノチューブという炭素系素材にリサイクルし、コンクリートの補強に応用する技術を開発している。2015年に、メガバンクDBSの財団が主催する社会事業家支援プログラムにも選抜され、地元紙でも取り上げられた。

 カーボン・ナノチューブには、人の髪の毛の5万分の1の太さにもかかわらず、引っぱり強度は鋼鉄の100倍で、熱の伝導性にも優れているという特性がある。補強材料、電池や電子部品など幅広い産業利用が期待されており、日本では、エレクトロニクス企業や大学を中心に研究が進められている新素材だ。


BlueRen共同創業者のAravind Muthiah氏とWong Chui Ling氏(出典:ストレーツ・タイムズ

 プラスチックごみをカーボン・ナノチューブにリサイクルする技術はまだ試作段階。創業者らの出身校、シンガポール南洋理工大学でも研究が行われているが実用化には至っていないほど難しい技術だ。

 ここに至るまでの道のりも険しく、開発を始めた2009年当初は、コストがかかる上にリサイクルの過程で有毒ガスが発生したためプラスチックゴミを微量しかリサイクルできなかった。

 その後もさまざまな装置や触媒を試し、改良を重ねて現在に至る。共同創業者のWong Chui Ling氏によれば、現段階の技術なら1万トンのゴミから1000トンのカーボン・ナノチューブにリサイクルすることが可能。カーボン・ナノチューブをコンクリート補強に応用すれば、セメントを30%節約できるという。

 「リサイクルとは通常、価値のない廃棄物から同様の物質かそれ以下のものに変えることを指すが、弊社の技術はアップサイクルであり、廃棄物を付加価値の高いものに換えることができる」(同氏)。

 シンガポールの2015年におけるプラスチックゴミの総量は76万6800トンで、再利用率は7%と低い。これを宝の山にすることができるのか。BlueRenはプロトタイプの完成に向けて急ぐ。

レストランの生ゴミを可視化、約半年間で2~4%削減

 シンガポールのゴミ問題に着目し、外資系スタートアップも参入している。2013年に英国で設立されたWinnowは、生ゴミ削減のためのスマートキッチンシステムを開発。廃棄量をモニタリングする技術で、2016年1月にはシンガポールの5つ星ホテル、Sofitel Singapore Sentosa Resort & Spa内のレストランの厨房にも導入された。

「Winnow System」の紹介映像
「Winnow System」の紹介映像

 キッチンで働くスタッフたちは、生ゴミを捨てる前に、タブレット端末のアプリで食材の種類を指定。すると、ゴミ箱に取り付けられたスマートメーターが廃棄量とコストをドル建てで計測。1日のデータがグラウド上に集められ、翌朝スタッフにメールなどで報告される。

 このシステムは、同レストランが約半年間で2~4%の生ゴミを削減することに貢献。スタッフたちに生ゴミの量を実感させ、食材の買い過ぎや料理の作り過ぎを防ぐことに役立てているという。


 「Zero Waste Nation(ゴミのない社会)」を目指すシンガポールの政府は、行政だけでなくスタートアップを含む企業とも連携しながら取り組みを強化していく方針だ。ゴミの埋め立て地の確保やその周辺の環境汚染など、廃棄物をめぐる課題は日本にも共通するが、今後世界各地でこうした技術のニーズは高まっていくだろう。

(編集協力:岡徳之)

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