最後に、日本独特の現象とも言える過労死について言及しておきたい。日本では未だに過労死の被害が後を絶たない。2012年における過労死の請求件数は842件、決定件数は741件、支給決定件数は338件に及んでいる。
暗黙の強制による長時間残業や休日勤務、それらがもたらす精神的・肉体的負担が死因となる「KAROSHI」は他国語の辞書にも掲載されている。なぜなら先進国には過労死の事例がほとんどないからだ。中国などの新興国では散見されるが、日本で発生する「ホワイトカラーの過労死」は世界でも極めて稀と言われている。
海外先進国では、金銭的報酬に見合わない労働を行う習慣は基本的に存在しない。また転職が日常的に行われていること、労働契約違反に対する損害賠償が高額なことなど、個人の自由を尊重する文化が過労死を防止する要因になっているのだ。日本においても労働基準法は整備されているが、大企業はおろか官公庁においても法律が遵守されないことが多い。
その根っこにあるのは「滅私奉公」の道徳観だと筆者は考えている。個人的な感情を抑えて公に奉ずる。武士道にも通じる考え方で、日本では古くから美徳とされていた。顧客への「おもてなし」を、社員の滅私奉公で実現する。これが典型的な日本企業の経営スタイルだ。しかし、経営者は勘違いしてはいけない。滅私奉公や根性論に経済合理性はない。多くの日本企業が暗黙に持つ歪んだ考え方を修正することは、日本の経営者にとって重大な責務と言えるだろう。
世界はますます透明になっていく。ブランドイメージをお金で買うこともできなくなった。人々が深くつながった時代に繁栄できるのは、社員にも顧客にも、そして退職した社員から求職に来た学生にいたるまで、あらゆる生活者に共感と信頼を持たれる企業のみだろう。生活者の反感を買う企業の立ち振る舞いは、瞬く間に生活者に共有され、ブラック企業のレッテルを貼られてしまう。このブランド毀損による経済的な損失は、社員解雇で浮く一時的な人件費などよりも遥かに重い。
筆者は左派ではない。むしろ20年以上、苦杯を舐めながら創業者として歩んできた立場にある。あくまでも経営視点から見ても、ブラック経営に経済合理性はない。そしてソーシャルメディア時代において、社員や顧客に嫌われるリスクが、今までとは比較にならないほど大きくなったことに、経営者は気がつかなければいけない。社員を苦しめれば経済的にも疲弊する。結果的に危うくなるのは、経営者や人事担当者自身のクビなのだ。
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