オンラインとオフラインを駆使した顧客交流--転換する流通(5) - (page 2)

別井貴志 (編集部)2013年08月20日 15時15分

井上(アドビ):在庫検索は知りませんでした(笑)。私はクーポンによる集客の話だけだと思っていたんですが、お店に行こうとしている方が実際に在庫検索を活用しているんですね。

 そのお話を聞いて、サンフランシスコで開催された直近の「ad:tech」に行ったときに興味を引いたWalmartの「カスタマージャーニー」の話を思い出しました。結局はオンラインもオフラインも関係なくて、お客さんがどう接して、最終的に知ってくれて、満足してくれて、買ってくれるためにオンラインとオフラインを通じた顧客体験を最大化するという話でしたが、TSUTAYAさんのお話もこの話の良い実例ですね。

--ただし、在庫検索してお目当ての商品がなかった場合、その人は来店しませんよね。これは機会損失と考えませんか。

中西(CCC):それは、一見マイナスですよね。しかし、結局は最初に議論した「顧客志向」や「顧客中心主義」にある以上、お客さんが便利なことを優先するのです。企業側の都合だけを考えないようにしています。在庫情報を開示したら、たしかにお店に来なくなるお客さんも出るかもしれません。でも、そこは「お客さんの利便性を優先しましょう」ということなのです。実際に、アプリで一番利用されている機能なのですから。

 あと、レンタル商品の郵便(ポスト)返却というサービスを全国でやっています。TSUTAYA店舗に返しにいくのが面倒といった声を受けて。たとえば、家からTSUTAYA店舗が遠い方でも、普段通勤や通学で使っている駅前のポストで返せるといったサービスなんです。

 それも、「レンタルというのは借りて返すというサイクルがあるからお客さんが繰り返し来てくれるのに、郵便ポストで返却したらお客さんが来てくれないじゃないか」という意見もあるんですが、でもお客さんの利便性を優先しようということになりました。

 そして、結局はこうすることで“借りる”ことへのハードルが下がるんです。「TSUTAYAは返しに行くのが面倒くさいから借りない」と言っていた人が、「郵便返却があるから借りに行こう」となるだけでも、十分プラスになるという考え方です。実際に郵便返却の利用者は、以前に比べて利用頻度が上がったという実績も出ています。常に、顧客中心主義であることが、結果として企業にプラスになると信じています。

--なるほど。キリンはいかがですか。メーカーなので集客はさすがにないとは思いますが、昔ハートランドビールを売り出すときに、商品イメージを伝えるために店舗展開をしたと記憶しています。

浅野(キリン):プロモーションレベルでは、いわゆるOnline to Offlineのキャンペーンをたまにやったりします。お話に出たハートランドビールはかなり昔の事例ですが、あれはお店でしかできないというリアルの場を設定してマーケティングをやりました。

--たしか、海賊船から引き揚げた宝箱に入ってるようなボトル、というイメージでレストラン展開したと思いますが。

  • キリンの経営企画部 新市場創造室 主査である浅野高弘氏

浅野(キリン):本当に相当昔の話ですが(笑)、最初はボトルしか売っていなかったし、六本木の1軒のお店でしか飲めなかったのです。そういうブランディングをしました。

 ただ、アドビの井上さんがおっしゃったように、私の感想で言うと、O2Oってお客さんからしてみると、そういった垣根はないでしょう。ただし、リアルでしかできないことはあると思いますが、生活者として考えると別に垣根はないし、意識もしないと思います。プロモーションとして考えるとどっちがどっちということはあるでしょうが、やはり顧客志向という視点でいくと、コミュニケーションチャンネルに関係なく、いろいろな接点をどう使っていくかという考え方のほうがいいのかなと漠然と思っています。

 そうすると、例えばわれわれは工場を持っています。工場にもたくさんお客さんに見学に来ていただいていて、ものすごい接点なんです。この取り組みを、オンラインのサービスと組み合わせるだけでも新しい展開ができるんじゃないかと、話を聞いて思いました。

--井上さんはリアルやオフラインという面はどうですか。アドビはさまざまなイベントを開催していると思いますが。

  • アドビ システムズのマーケティング本部 マーケティングインテリジェンス部 デジタルマーケティングスペシャリストである井上慎也氏

井上(アドビ):アドビの場合はO2O的なことはそんなにやっておらず、既存のオフラインでやってきたことを、どうオンラインを活用することでお客様にとって便利になるか、より良い形で届けることができるかを中心に考えています。イベントやデモはそれらの代表例で、おっしゃるとおりアドビは従来から顧客に対して製品とその活用を伝えるために様々なイベントを実施してきました。

 ただ、“平日の品川で”など、企業側にも参加したいお客様側としても場所と時間など色々な制約があります。そこで、従来のイベントをUstreamやニコニコ動画なども活用してライブ配信をすることで、実際にその場所にいなくても体験できるようにしました。今では自社オフィス内の部屋を専用スタジオにしてしまい、平日の夜などにオンライン配信専用のイベント・デモなども随時行っており非常に好評です。

 結局、イベントを“すること”が目的ではないのです。お客さんが必要なときに、必要な情報を見てもらう、体験してもらうかというときに、どのような方法を採るかが重要でしょう。最終的に何がしたいかを考えたときに、デジタルをどう使えばお客様も企業もハッピーになるのか。私自身こういった領域の担当でもありますし、会社としてもそこに重点を置いています。

【次回:最終回】
消費者の価値につながるマーケティング--転換する流通(最終回)

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