デジカメ「EXILIM」10周年の軌跡--それは“カメラ付きテレビ”から始まった(後編) - (page 4)

--“ハイスピード”を軸に据えたラインアップを展開をしている中で、ある意味で特殊なカメラが登場しました。「EX-TRシリーズ」です。国内よりも国外で評価され、国内で再評価されるという少々変わった製品です。

レンズ部を中心にフレームは360度回転し、モニタも270度回転する
レンズ部を中心にフレームは360度回転し、モニタも270度回転する

 「EX-TR100」が海外で凄いことになっていると知ったのは、2011年の10月ぐらいだったかと思います。そもそもそのモデルは、国内で評価が高かったわけではありませんでした。スマートフォン全盛の時代に、なんでわざわざデジタルカメラで撮るの?と。

 特に、海外で評価されたのが“自分撮り”でしたから、その気持ちはなおのことでした。実はこのモデル、アメリカ市場を狙ったモデルです。アメリカで大ブームになることを見越して“力”を注ぎ込みました。それが2011年3月のことです。そして、ワールドワイドでもやりましょうとなった時に、震災が起きました。カメラと写真の総合展示会「CP+」で発表しながらも、発売を延期していたわけです。

 しかし、アメリカ市場に力を入れていたものですから、はじめに生産したそのほとんどをアメリカに出したんですね。その結果、他の市場にはあまり出せなかったという経緯があります。また、アメリカ以外に力を入れられなかったという状態でもありました。

 では、アメリカで成功したかというと、結果的には大失敗です。その理由は多くありますが、その最大の理由は広告です。

 アメリカは広いですから、特定の地域では爆発的に売れる。その一方でまったく売れない地域もある。そんな状態でした。アメリカ市場向けに生産された製品には「TRYX」と印刷され、それ以外の国では「EX-TR100」だったものですから、どうしてもアメリカ市場で捌けなければならない。最終的にはたたき売りの状態です。

 部品在庫も抱えた状態でしたので、何とかそちらも処理しなければならない。東南アジアならヒットするかもしれないと、生産してみたところ爆発的にヒットしたわけです。ですから、ヒットすることを想定して仕掛けたというよりも、なんとかしなければならない時に、可能性にかけたというのに近いですね。

--2011年7月に発売された「EX-TR100」の後継機「EX-TR150」が発表されましたが、すぐに予約を締め切ってしまいました。

 確かに、中国・香港では爆発的なヒットになりましたが、国内ユーザーにはヒットしていない製品でしたので、小ロットで売ることにしました。それで、いざ発表して予約を受け付けたら予約が殺到しまして、店頭に並べる前に、締め切らざるを得ない状態になりました。じゃあ、さらに生産して店頭に並べば売れるのかというと、まだまだ厳しいのではないかというのが感想です。大部分で専用のパーツを利用しているために、気軽に作れないというのが現状です。生産するかどうかの前に、ブームというのを慎重に見定めている状態ですね。

--2002年6月に初のEXILIMシリーズとなる「EX-S1」が発売され、今年でEXILIMシリーズが10周年を迎えます。1995年3月のQV-10から事業に携わってきた立場からみて、どの機種が印象深かったのでしょうか。

 そういう意味では、QV-10から始まって、最新のZR、TRその全部が私の子どもみたいなものなので、どの子どもが一番好きですか?と聞かれても困るのですが、あえて、インパクトのあるモデルという意味であれば、QV-10はもちろん含まれますね。いまだに“枕詞”に使われるぐらいデジカメの歴史に残る製品だと思います。

 その次というと、EXILIM EX-S1ですね。いちからデジカメのあるべき姿を考えたモデルで、弊社の存在価値を問う製品になったと思いますし、EX-S1の成功がEX-Z3へとつながっていったと思います。そういう意味でも、エポックメイキングで印象深い機種となりました。その次が弊社の第三世代機に位置づけられている最初のハイスピードEXILIM「EX-F1」になります。EX-F1があったからこそ、未だにハイスピードモデルを出していけるというぐらい重要な機種でした。EX-F1は、未だに後継機を望まれるほど、ユーザー様に愛されたモデルでもあります。この3機種が、それぞれ世代のスタートという意味で重要だったのではないでしょうか。

--最後に、御社の今後のデジタルカメラ戦略についてお聞かせください。

 まず、業界の流れというのを客観的に捉えた時、コンパクトの高機能・高性能版が求められているのかなと。一眼レフに近づけるコンパクト機が出れば、お客様にとってそれがベストなのではないだろうかと考えています。広角から超望遠までコンパクト機で対応できれば、お客様にとってそれが一番よい形なんです。多くのお客様にとって、レンズ交換は目的ではないんです。あとは、単純にお求めになりやすいカメラですね。なんの差別化もないコスト重視のモデルです。この2つに分けられるのかなと。

 これから、その高機能コンパクトのポジションに如何に自分たちの特徴をだして、シェアをとれるか。我々はそこに一番力を入れていますから、ハイスピード技術を軸としたいろいろな機能と用途の展開、というのが基本的な姿勢です。

 あとは、「TRシリーズ」のようなスマートフォンを持っていようが、“これは一台欲しいね”といわれる価格競争に巻き込まれない、付加価値を確立したモデルを作っていきたい。それが、弊社がこれからもデジタルカメラを続けて行くための位置づけだと思います。

--ありがとうございました。

 QV-10の開発秘話などを掲載した前編はこちらから

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