映画「カールじいさんの空飛ぶ家」--1万個の風船を描いたシミュレーション技術 - (page 3)

文:Daniel Terdiman(CNET News) 翻訳校正:川村インターナショナル2009年06月05日 07時30分

 妙な話だが、シミュレータはこの条件とルール、そして物理特性の通りに動作するため、アニメーターは、風船に、あるいは映画の中でこの技術を使ってアニメーション化されたほかのオブジェクトに、何が起こるかを正確に制御することができなかった。

 「(風船の束の)動きが遅すぎる場合、われわれは風量を増やして再度シミュレータを稼働させた。次にはまた風を弱めたりする。これはちょっとした楽しい科学実験だった。うまくいけば、望むものを手に入れられることもある」(May氏)

制御できない風船の束

 物理学とカオス理論の「気まぐれ」によって、予想もしないことが起きることもある。コンピュータチームはルールを入力するが、初期条件の一部はランダムであるため「結果はセミランダムになる」。May氏のお気に入りの1つは、映画の初めの方で家が風船によって初めて空中に引き上げられたときに、少数の風船が風船の束本体から離れて飛んでいったことだ。

 「カールじいさんの空飛ぶ家」の中で、非常に短時間だがこの離れていく風船が実際に見られるとMay氏は言う。観察眼の鋭い観客なら、スクリーンの右上に離れていく風船を見ることができるという。

 「われわれはこんなことを起こそうと意図していたわけではなかった。しかし『これは面白い。このままでいこう』(という話になった)」(May氏)

 しかし、映画の制作を始めたばかりのころは、このような選択をすることすら不可能だった。Pixarの物理シミュレータは「ODE」というオープンソースのプログラムで、最初は1万個以上の風船の動きをモデリングするという複雑さに対応できなかったとMay氏は言う。

 「処理できた(風船の)数は500程度だったが、何万個もの風船が必要なことは分かっていた。桁違いに複雑なシミュレーションに対応するために、新しいシミュレータソフトウェアパイプラインを開発する必要があることが分かった」(May氏)

 もちろんPixarにとって、コンピュータニーズの変化にその場で対応するのは、今に始まったことではない。実際Pixarは、同社の数多くの映画においてさまざまな形でこれをやってきたとMay氏は言う。例えば、「モンスターズ・インク」を制作したときは、映画に登場するモンスターの毛皮をアニメーション化する方法を見つけ出す必要があった。同様に「ファインディング・ニモ」の制作時には、アニメーターは水中のシーンをどのようにシミュレーションするかを考え出さなければならなかったという。

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