DVDでも触れていない「Mr.インクレディブル」の秘密

 7月6日、東京都内にあるApple Store, GinzaでPixar Animation Studiosのポール・トポロス氏による講演が行われた。マットペイントを担当しているトポロス氏は、講演でマットペイントとは何かを軽く紹介した上で、Pixar作品の中で、マットペイントがどのよう場面で使われているかを映画「Mr.インクレディブル」を実例に使いながら説明。制作時の秘話も多数披露した。

 マットペイントとは実写映画などで使われる背景画などの描き込み画像のことだ。例えば、映画「スター・ウォーズ」の宇宙船内の様子や歴史映画の背景に広がる太古の風景などは、ロケ撮影ではなく、マットペイントの背景に演技の映像を合成してつくられている。トポロス氏は、映画監督のジョージ・ルーカス氏が率いるLucasfilmで、実写映画向けマットペイントのキャリアを積んできた人物だ。

 Lucasfilmが「スター・ウォーズ エピソードIII」の製作に取りかかるとき、トポロス氏の前には3つの選択肢があった。そのまま「エピソードIII」の製作にとりかかること、「MATRIX」シリーズの仕事を受けること、そしてあこがれの監督ブラッド・バード氏と共にPixarで「Mr.インクレディブル」を製作すること。結局、トポロス氏は、奥深いストーリーがある映画に関わりたいとPixar入社を決意したという。

 「コンピュータだけで映画のすべてをつくっているPixarに、私のような実写映画畑のマットペインターは必要なのか。これは私自身にとっても疑問だった」--講演の前半はこの疑問に答える形で、Pixar映画で使われるマットペイントを「Mr.インクレディブル」での実例を使って紹介した。

 例えば結婚式シーンで出てくる教会や、ロケット弾が摩天楼を目指して落ちてくるシーンの摩天楼などはマットペイントになっている。また、保険会社のオフィス内の様子や、窓の外に写っている景色などもそうだ。

 教会のシーンでは、まずデザイン画のスケッチをした後、それを元にどう配色をするかを決めるカラースタディが行われた。配色が決まった後、きわめて簡単な3Dモデルの素描がつくられる。トポロス氏らマットペインターは、その素描を元に、リアルな教会の絵を描き込んでいったという。作業はMacでPhotoshopを使って行った。

 摩天楼などの大掛かりなマットペイントでは、宮崎駿氏らもやっているように、手前の方と奥の方でいくつかの層を分けて陰影などに差をつけることでリアルな描写を実現している。

 Pixarでは配色にもかなり気を配っているといい、映画の各シーンでの色調がどのようになっているかなども綿密に計算している。

 例えば「Mr.インクレディブル」では、冒頭は活力溢れる明るめの色彩を使い、その後、主人公達が暗く落ち込むシーンでは暗めの色彩を多用する。そこからクライマックスに向けてだんだんと色も明るさを取り戻す、といった具合だ。

 マットペイントは細かな部分にも利用されている。例えば主人公が運転している車の窓越しに見えるビルの窓などもそうだ。

 多くのマットペイントは実際の写真を参考にしている。保険会社のシーンに出てくるオフィスはジャック・レモン主演の映画「アパートの鍵貸します」に出てくるオフィスをモデルに描いた。

 また映画に出てくる新聞のひとつに主人公が大勢のファンに囲まれて手を差し出しているシーンがあるが、これはジェラルド・フォード元大統領の遊説写真をモデルにした。過去のスーパーヒーローがエレベーターを支えながら飛ぶシーンでは、「トイ・ストーリー2」で使われたエレベーターの絵を元に描き直した。

 たった1回限り、数秒に満たないシーンにしか登場しないスーパーヒーローについても、マットペイントによってキャラクターに奥行きを与え、感情移入できる存在に仕上げている。

 例えばバーで女性スーパーヒーローが飲んでいるシーンが一瞬登場するが、トポロス氏は彼女を「Mr.インクレディブルの元ガールフレンド」と設定して、写真の隅にMr.インクレディブルの右手を描き加えた。

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